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第121回 マツダ MX-30
2020.11.27

10月初旬に発売となったMX-30の発表会はオンラインで行われ、RJC(日本自動車研究者・ジャーナリスト会議)に所属する我々に対する試乗会は行われなかったが、11月中旬にRJC事務局が広報車両を借り出して会員に試乗をうながし、短時間だが試乗する機会が得られ、その後開発責任者の竹内都美子主査のオンライン講演会を視聴、大変感銘したので、今回はMX-30の印象を述べてみたい。MX-30は2019年の東京モーターショーにEVとして展示され、欧州ではすでにEVとして販売が開始されたが、日本へのEV仕様の導入は来年になるようで、まず国内市場向けに導入されたのは2Lエンジン搭載のマイルドハイブリッド(e-スカイアクティブG)だ。

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現時点での日本におけるEVの市場性を考えると、国内市場におけるMX-30シリーズの販売は当分の間マイルドハイブリッドがメインになると思うが、電動化に向けての世界市場の動向を見据えると、2030年以降、欧米各国におけるガソリン、ディーゼル車の販売禁止が急速に拡大し、日本でも2050年以降の温室効果ガス排出ゼロを目指すには2035年頃からはエンジン車の販売を禁止することは避けられないはずだ。マツダを含む国内各メーカーのEV戦略の構築は急務であり、マツダEVの先頭を走るのがMX-30だ。

近年のマツダ車は、CX-3、CX-30、CX-4(中国市場)、CX-5、CX-8、CX-9(北米市場)などのクロスオーバーSUVがメインで、中でも世界市場でCX-5の果たしている役割は非常に大きいが、セダンやハッチバックの占める割合は限られ、EVも含む商品展開の革新が大きな課題であることは間違いない。ちなみにMX-30の"MX"は従来のコンセプトとは異なる新しい車種に適用されてきたネーミングだ。

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MX-30のプラットフォームはCX-30と共通だが、開発にあたって竹内都美子主査に与えられた課題は「新しい価値の創造」だったとのこと。まずはプランナー、デザイナー、マーケッターでチームを立ち上げ、アメリカ、ドイツ、日本を中心に自動車業界とは無関係の人達の生活文化とクルマにかける想いにふれ、『私らしく生きる』をキーワードに、あえてターゲットユーザーを固定せずに、自分自身の道を歩かれるお客様に寄り添うクルマを目指すことにしたという。

具体的には
(1) 鼓動デザインのひろがりへのチャレンジ
(2) 心が整う室内空間の実現
(3) 純粋な楽しさをもたらすドライビング体験
(4) 安心して運転が楽しめる安全性能の進化
などが開発のキーポイントになったとのこと。

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当初はMX-30の目指しているところが必ずしも見えなかったが、実車に出会い、試乗し、主査の講演を拝聴すると、既存のマツダ車とは明らかに一味異なるクルマであることが分かり、目指すところがかなり明確に理解できるようになった。以下それぞれの領域に関しての簡単な感想を述べてみたい。

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「鼓動デザインのひろがりへのチャレンジ」をテーマに開発された外観スタイルは、パソコンや印刷物の上では新しさをあまり感じなかったが、身近で実車をみると、フリースタイルドアの採用も含めて、これまでの鼓動デザイン、近年のマツダ車とは明らかに一線を隔したかたまり感、質感をそなえた好感の持てるデザインであることを確認することができた。

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ここでフリースタイルドアに関してぜひ一言言及しておきたい。MX-30の後席に座ると、後席からの開閉操作ができないことに不便さを感じるが、一方でいくつかの長所もあることは明らかで、一番明確に言及されているのはモーターファン「すべてシリーズ」における安藤真氏の以下の記述だ。
(1) デイバックやトートバックなどの中くらいの荷物を後席に置く場合の容易さ
(2) Bピラーがないことによるチャイルドシートなどへのアプローチの容易さ
(3) 介助の必要な人の乗せおろしと介助の容易さ
(4) ベビーカーや車椅子を横付けしやすいこと
(5) 車椅子を使用しながら運転もできる人の乗り込みの容易さ

「すべてシリーズ」の中にある竹内主査の言葉によると、「フリースタイルドアのアイディアが出た後、デザイナーたちがフリースタイルドアを想定したスケッチをたくさん描き、そのスケッチをみて、チーム全体が魅了され、"これは良い、何とかしよう。"と決意した。」とのこと。ここで私からマツダにぜひ提案したいのは、そのようなスケッチも含むフリースタイルドアのメリットに関する情報を是非とも積極的にアピールすることだ。

フリースタイルドアは車体剛性にとって本来不利な構造だが、MX-30の開発においては、そこを十分にカバーできる構造や高強度材の採用などによりボディー剛性が充分に向上、世界各国の最高ランクの側突安全性も確保されているという。

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「心が整う室内空間」は、インテリア―全体に対していえることで、総合的なインテリア―の質感は、同クラスの競合車に比べてもかなり高く、ふたクラスほど上の車両といってもよいレベルに仕上がっている。乗っている人たちとの一体感の実現のためのフローティングコンソールや、インパネレイアウト、環境に配慮した内装材(コンソール周辺、ドアグリップなどへのワインの栓を打ち抜いたあとのコルク端材の活用、ペットボトルのリサイクル材からつくられたフェルト調の素材や、リサイクル糸を20%採用したリサイクルファブリックのドアトリムへの採用、 有機溶剤を使用しない生産プロセスにより製造された人工皮革など)も大変好感が持てるもので、中でも「環境に配慮した内装材」はもっと積極的にアピールする価値があると思う。

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今回の試乗は非常に限られた時間だったが、ドライバーシートに座ると着座位置、着座感、ペダルポジションが非常に適切で、好感が持て、この点は、近年マツダが提唱して特にこだわっているひとつでもある。マイルドハイブリッドのモーターアシストが加わるため、発進加速がスムーズで、それ以降の加速時には2Lのエンジンが非常にスムーズに回転上昇をしてくれるのも気持ちよかった。短時間の試乗ゆえ、燃費計測はできなかったが、MX-30のマイルドハイブリッドは、燃費向上にも着目したチューニングが行われていると感じた。

一方で、スポーティーとは若干異なる、リニア―で上質な操舵感覚を味わうことができ、ロードノイズも気にならず、18インチタイヤからの突き上げが限られた状況で若干気になった以外は乗り心地の質感も高く、ハンドルを握ることにより、まさに『純粋な楽しさをもたらすドライビング』を体験することができた。

このように見てくると、MX-30は、マツダが目指す「新しい価値」を十分に備えた車に仕上がっており、試乗車は各種オプションパッケージ込みでで315万円だったが、ベースモデルはFFが242万円、4WDが265万円強と、価格的にもなかなか魅力的で、今後市場評価は間違いなく高まってゆくだろう。

そのためにもオンラインをフルに活用した積極的な情報活動を推奨したい。今回オンライン講演会を視聴する機会に恵まれ、パワーポイントを活用した竹内主査の30分弱の説明に、私だけでなく視聴者が大変感銘を受けたが、ジャーナリストグループはもちろんのこと、販売店、購入希望者を対象としたオンラインによるこの種の情報提供を積極的に進めてゆくことにより、従来とは異なるイメージ構築、今までとは異なる形での販売促進が可能となるとものと確信する。

試乗車グレード MX-30 (4WD)
・全長 4,395 mm
・全幅 1,795 mm
・全高 1,550 mm
・ホイールベース 2,655 mm
・最低地上高 180 mm
・車両重量 1,520 kg
・エンジン 直列4気筒DOHC16バルブ
・排気量 1,997 cc
・圧縮比 13.0
・最高出力 156ps(115kW)/6000rpm)
・最大トルク20.3kgm(199 N・m)/4,000rpm
・モーター最高出力 6.9ps(5.1kW)/1800rpm)
・モーター最大トルク5.0kgm(49 N・m)/100rpm
・変速機 6EC-AT
・タイヤ 215/55R18
・タンク容量 48L(無鉛レギュラーガソリン)
・WLTCモード燃費 15.1km/L
・JC08モード燃費 16.1km/L
・試乗車車両本体価格 \2,656,500 (消費税込)
・試乗車価格 \3,150,380

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

関連書籍
ポルシェ911 空冷・ナローボディーの時代 1963-1973
車評 軽自動車編
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