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第43回 ルノールーテシアR.S.
2013.11.27

久しぶりに運転することが大変楽しいクルマに接することができた。それがルノールーテシアR.S.(ルノー・スポール)だ。箱根での試乗会に準備されたモデルが、ルーテシアR.S.の中でも走りに特化した「シャシーカップ」というモデルだったので、ワインディングロードは楽しく走れても、凸凹の多い一般路では快適性に難があるのではと思っていたが、予測は見事にはずれ、日常ユースでも十分に許容できる快適性を備えていることを確認するとともに、エンジン音のつくりこみも含め、開発者の熱い思いを痛いほど感じた。カタログ燃費の競争に明け暮れる昨今、日本のクルマづくりに携わる人たちに是非とも体感してほしい一台だ。

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・試乗車 ルノールーテシアR.S.(ルノー・スポール) シャシーカップ
・全長 4,105mm               
・全幅 1,750mm
・全高 1,435mm 
・ホイールベース 2,600mm 
・車両重量 1280kg
・エンジン 直列4気筒DOHC 16バルブ ターボチャージャー付き筒内直接噴射
・排気量 1,618cc 
・最高出力 200ps(147kW)/6,000rpm
・最大トルク 24.5kgm(240N・m)/1,750rpm
・変速機 6速EDC(エフィシェントデュアルクラッチ)
・フロントサスペンション マクファーソン/コイル
・リアサスペンション トレーリングアーム/コイル
・タイヤ 205/40R17(205/55R18)
・車両本体価格 3,090,000円(消費税込)

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ルーテシアR.S.の概要
ルーテシアは日本向けのネーミングで、欧州ではクリオと呼ばれる。新型ルーテシアが日本市場に発表されたのが7月、販売開始は9月末なので、2ヵ月もおかずにスポーツバージョンR.S.が投入されたことになる。R.S.はルノー・スポールというF1やルマン24時間レースなどに参戦してきたルノーのモータースポーツ部門が開発に携わったモデルで、エンジンは、ベースモデルは1.2L直噴ターボ(120馬力)だが、新型R.S.には、先代の2Lターボに代わり1.6L直噴ターボエンジン(200馬力)が搭載される。変速機は、ベースモデル、R.S.ともに6速のEDC(デュアルクラッチの自動変速機)だ。車両サイズをゴルフGTI(220馬力)と比較してみると、全長が170mm、全幅が50mm、ホイールベースが35mm短く、重量は110kg軽い。またポロGTI(179馬力)と比べると全長が110mm、全幅が65mm、ホイールベースが130mm長く、重量は70kg重い。いわばゴルフGTIとポロGTIのちょうど中間をゆくモデルで、日本市場にベストマッチしたサイズということもできそうだ。

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外観スタイル
新型ルーテシアのデザインは、かつてフォードからマツダにデザイン部門の責任者として出向していたローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏(現在はルノーのデザイン担当副社長)の指揮によるもので、それ以前の3代にわたるルーテシアのオーソドックスな外観スタイルから脱却してスポーティーでダイナミックなもとのになった。R.S.はそれに加えてよりスポーティーなフロントエンド、ツインエキゾースト、リアディフューザー、リアスポイラーなどが加えられている。リアのダウンフォースの8割がスポイラーではなく、バンパー下のディフューザーから生み出されるというのもレーシングカーのノウハウによるものだという。またファミリーカー然としたデザインとの差別化を狙ったためか、サイドの造形やリアドアハンドルの位置などにより3ドアハッチバックと見間違えるようなデザインになっている。ちなみに新型ルーテシアは5ドアハッチバックのみだ。

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内装デザイン
内装デザインもなかなか魅力的で、ブラックトリムの中にオレンジのアクセントがインパネ各部、ステアリングホイール、シフトレバー周辺、メーター指針、シートなどに適度に散りばめられ、スポーティーさと遊び心を演出している。メーターコンソールの形状は好き嫌いが分かれるかも知れないが、ドイツ車的なメーターとは一線を画すものだ。シートの形状、オレンジカラーのステッチも魅力的だ。またパドルシフトは一般的にはステアリングホイールとともに回転するが、このクルマでは固定位置にあるため、大きな舵角を与えながら走るワインディングロード走行時にも扱いやすい。

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居住性、実用性
居住性、中でも後席の居住性はゴルフには及ばないが、ポロよりは良好で、ラッゲージスペースも、写真をご覧いただければ分かるようにそれなりのスペースがあり、総じてファミリーカーとしてまず不足のないサイズといっていいだろう。加えて後述するが、スポーティーだが体にやさしいフロントバケットシートもなかなかなものだ。

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走りと走りの楽しさ
1.6Lの直噴ターボで、240Nmのトルクを1750から6000rpm近くまで発揮し、200馬力の最高出力を6000回転で発生するエンジンは、ゴルフGTIの2Lターボの350Nmのトルク(1500~4000rpm)、220馬力の最高出力を4500~6200rpmの間発揮するエンジンほど強力ではないが、6速のEDC(デュアルクラッチの自動変速機)の組み合わせ、更にはゴルフGTIより110kg軽い車両重量にも起因し、箱根ターンパイクの登坂路、その他の箱根の一般路でも胸のすく走りを提供してくれた。更にうれしいのがサウンドだ。排気音に加えて吸気サウンドを効果的に室内に導くことにより、エキサイティングだがうるさ過ぎないエンジンサウンドがつくりこまれている。近年試乗したクルマの中ではもっとも心高まるエンジンサウンドだ。燃費に関してはカタログに燃費値がなく短時間の試乗だったので、コメントはできないが、1750rpmから最高トルクを発揮するエンジンとEDCの組み合わせによりそれなりの燃費を期待しても良いのではないかと思う。

R.S.ドライブという3つの走行モード(ノーマル、スポーツ、レース)を選択できるシステムや、ローンチコントロールという最大の加速力で発進させる機能などは、様々な走行パターンを利用したいオーナーにとってはうれしいものとなるはずだ。

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ハンドリング・ブレーキング
ステアリング・ハンドリングも非常にいい。試乗車(R.S. シャシーカップ)には、標準の17インチタイヤに代わり18インチタイヤが装着され、ばねレートも前27%、後20%高められている。このモデルを箱根ターンパイクの下りと上り、芦ノ湖周辺の一般道路、更には私がよく使う駒ケ岳周辺の凹凸の激しい屈曲路などで評価したが、アンダーステアーは気にならず、凹凸の激しい屈曲路でもクルマが飛び跳ねず、ドライバーの思い通りの挙動をしてくれた。的確な車体&シャシー剛性、サスペンションセッティングなどによるところが大きいと思うが、HCC(ハイドロリック コンプレッション コントロール)と呼ぶ、バンプストッパーの代わりにセカンダリーダンパーをダンパーハウジング内部に組み込んだフロントダンパーなどはレースで培われたノウハウという。アンダーステアーのコントロールはR.Sデフと呼ばれるデフロックシステムにブレーキを組み合わせることにより行われる。また320mmのフロントディスクブレーキも含めてブレーキも確実で、総じて第一級の「走る・曲がる・止まる」性能が確保されていることが確認できた。

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乗り心地とシート
このように優れたハンドリングを備えるクルマだが、前述のように乗り心地も日常ユーズで十分に許容できるレベルだ。サスペンションセッティングに加えて、ダンピング性能の優れたシートもこの乗り心地に間違いなく貢献していると思う(大柄な人には横方向の圧迫感があるかもしれないが)。今回シャシースポールの試乗は出来なかったが、サーキットへは行かない、日常の生活でクルマをあやつることの楽しさを味わいたいという向きには1インチ小径のタイヤを履いたシャシースポールで十分、あるいはその方がベターチョイスかもしれない。

日本のクルマづくりに対するアンティテーゼ
ルーテシアR.S.は、昨今ややもするとクルマを持つこと、乗ることの喜びを置き去りにしてカタログ燃費競争に明け暮れているかのようにも見える日本のクルマづくりに対するアンティテーゼといっても良いクルマだ。これからの日本のクルマづくりにおいては、「カタログ燃費」ではなく「実用領域における燃費」の徹底的な改善に加えて、見ること、ハンドルを握ること、走ることで心の高まるモデルの開発に一段と注力してほしい。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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