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第95回 大幅改良版 マツダアテンザ
2018.9.27

マツダアテンザはマツダのフラッグシップモデルで、今のモデルは2012年に導入され、2015年に一度マイナーチェンジされているが、2018年5月下旬にモデルチェンジと言ってもよいほど大幅改良されたモデルが導入された。今回アテンザワゴンのXD Lパッケージ(ディーゼルエンジン搭載ワゴンの4WDバージョン)をマツダのスポーツカーマイスターともいえる貴島孝雄さんとともに長距離試乗も含めて行うことができたので貴島さんの短評も含む試乗記としてご紹介したい。

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貴島孝雄さん
まずは貴島孝雄さんの簡単なご紹介から始めよう。貴島さんは、マツダ時代に初代、2代RX-7のシャシー開発責任者、2代目ロードスターの主査、3代目RX-7の設計責任者、市場導入後は主査などを歴任されるとともに、モータースポーツとの縁も深く、初代RX-7のラリーカーのシャシー開発、ルマン優勝モデル787Bの最終開発段階における操縦安定性の改善を目指すタスクフォースリーダーとしても活躍されるなど、まさにマイスター(巨匠)と呼ぶにふさわしい方で、マツダ退職後、現在は山口東京理科大学工学部教授をされている。以下は、その貴島さんから頂いた大幅改良版マツダアテンザに対する短評だ。(上の写真は去る9月22日に出来さんの主催で箱根で行われた2代目ロードスターイベントに出席された際の貴島さん)

貴島さんの短評
『大幅改良版アテンザという認識のみで何の先入観もなく試乗することにした。ボタン式のパーキングブレーキの解除に戸惑ったが、いたってスムーズな発進、低速から盛り上がるトルクは機敏な走りそのものだった。私は、かねてからクルマは総合バランスが最も大事だとの思いを持っている。即ち、外観スタイル、内装デザイン、走り感、乗り心地、音の質等のすべてが期待に添い、何のストレスもない自然な運転のできるクルマが理想だと考えてきた。これが私のクルマ評価の基準であり、それは視界、運転姿勢、操作インターフェースから期待する静的、動的質感でもある。その想いをベースにアテンザの大幅改良版を評価したところ、まさにフラッグシップカーにふさわし品格が実現できていると感じた。特にインパネデザイン、日本産の木の木目、ウルトラスエードなどから期待する乗り味の質感と、操縦安定性のお行儀良さは、特筆に値するものだった。』

最近のマツダ流マイナーチェンジへの所見
従来マイナーチェンジといえば、モデルチェンジの中間において、非常に限られた範囲の改良がおこなわれるのが常だったし、今でも多くのメーカーはそのように位置付けているはずだが、最近のマツダは、より高い頻度でマイナーチェンジを行い、改良の範囲も非常に広い。一部では顧客がどの段階で意思決定すればよいかが分からないなどの意見もあるようだが、私はかつて2代目RX-7で∞(アンフィニ)シリーズを手掛け、第一弾導入後約1年で第二弾を導入した時に市場から「第一弾を買った顧客はどうすればいいんだ?」という声も受け取ったが、第三弾、第四弾と続けたことを思い出す。結果として∞(アンフィニ)シリーズは市場から高い評価を受けるとともに、社内技術者の活性化と技術の蓄積にも非常にプラスになったと考えている。今回のアテンザのマイナーチェンジはまさに大幅改良版で、開発工数、開発コストもかなりかかっていることは間違いないが、商品性が大きく向上しており、顧客満足度も大幅にアップすることは間違いなく、加えて開発技術者の活性化と技術の蓄積にも大きく貢献するものと確信する。私としては最近のマツダ流マイナーチェンジポリシーに拍手を送りたい。

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内外装デザイン
外装デザインのキーワードは「マチュア・エレガンス」だったというが、外観スタイル上非常に重要な役割を持つフロントフェイスの変更により「落ち着きと、フラッグシップとしての品格」がアップしたと思う。マツダがシグネチャーウィングとよぶヘッドランプとフロントグリルのつなぎやグリルのデザインも貢献、アテンザの外観スタイルの魅力度が大きく前進した。内装デザインの変化はフルモデルチェンジに近いもので、インパネとドアトリムのデザインが大幅に変わったが、特に水平基調のインパネはクラフトマンシップ、質感を感じるもので、加えてLパッケージに採用されている新素材ウルトラスエードの触感もいい。内外装デザインの刷新は、大幅改良版アテンザの大きな魅力点となることは間違いない。ただし内装デザインに関しては若干の注文がある。まずインパネ中央の各種のコントロールボタンの表示やメーター内のトリップA,Bの上下の表示などが小さすぎるので、安全という視点からも是非とももうひとまわり大きく太い表示にしてほしい。またフラッシャーランプボタンが非常に見にくいので、ボダン自体を赤くすることなどで対応してほしい。またインパネ上面の造形が複雑な上に材質も影響してか、走行中の光線によってはフロントウィンドーにインパネ上面が反射してしまう。この車種での変更は難しいと思うが、今後のモデルの内装デザインでは是非改善されることを期待したい。

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走りと燃費
出力、トルク特性、燃費、静粛性などが一段と改良された2.2Lターボディーゼルによる走りは、発進時から非常にスムーズかつ良好で、市街地から高速まで実に気持ち良く走れ、箱根の登坂路でも大変満足のゆく走りを示してくれた。エンジン音も極低速を除くと実に静かだ。スカイアクティブディーゼルには二重丸を与えたい。今回の燃費は借り出し時から返却時までの合計367kmの平均燃費は満タン法で13.2km/L、燃料コストは3,200円と非常に安くすんだとともに、高速走行時はメーターによると17~18km/Lという優れた値を示してくれた。気筒停止付き2.5Lガソリンエンジンも大いに興味をそそられるが、機会を改めて評価してみたい。

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ハンドリングと走りの質感
細部にわたる特性まで見直された前後輪のサスペンションシステム、操安性と乗り心地の両立を目指して新開発されたタイヤ、ステアリング剛性の向上、ボディー剛性の向上などが貢献しているのだろう、ステアリング・ハンドリングは、スポーティー&クイックは味付けではないが、センターフィール、リニアリティーも良好で、ロールも良くおさえられており、私が良くハンドリング評価に使う箱根駒ヶ岳周辺の凹凸の激しいワインディングロードでのハンドリングと走破性は、これまで評価してきた多くの車の中ではベストと言えるもので、正直言って驚いた。またこの厳しい評価コースにおける人車一体感は、シートの改善も寄与してかNDロードスターよりもむしろ良かった。エンジンでシャシー性能を高める新しい制御技術G-ベクトリングコントロールも貢献しているのものと思うがどの程度貢献しているかの判断は難しく、機会があれば是非ありなしで試してみたいところだ。

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振動・騒音・快適性
今回の商品改良の中で振動・騒音・乗り心地の改善も大きなポイントだ。前述の各種の改善に加えて、不快な振動を抑えドライバーの姿勢を維持してくれる新開発のシートも貢献してか、長距離走行時の疲労度も少ないと感じた。また装着グレードは限られるが、シートのベンチレーション機能も夏場の快適性に大きく貢献するだろう。ただし一点だけ、30km/h以下で市街地や住宅地などのかなり荒れた道路を走行するときのタイヤからの突き上げは、かなり気になるレベルであり是非改良してほしい点だ。

静粛性の向上に向けた各種施策も、ディーゼルエンジンながら、エンジン騒音が非常に良くおさえられている上に、車体各部のパネルの板厚アップ、トップシーリングの材質変更、トンネル部に制振材の追加など多岐にわたるもので、一部の限られた粗粒路でのロードノイズはまだ改善の余地があることは感じたが、高速道、一般道を走行時の騒音も非常に良くおさえられており、総じて静粛性にも非常に好感がもてた。

大幅改良版アテンザを一言でいえば?
以上が今回の大幅改良版アテンザの評価だが、大幅改良の成果は非常に大きく、一言でいえば大変魅力的なクルマに進化しており、まさに貴島さんの言われるように、「外観スタイル、内装デザイン、走り感、乗り心地、音の質などの総合バランスが非常に良くとれたクルマに仕上がっている」と私も感じた。マツダのフラッグシップカーとして市場が拡大するものと確信するし、更なる商品改良への期待を込めて「おめでとうマツダさん!」で締めくくりたい。

試乗車グレード アテンザワゴン XD L パッケージ
・全長 4,805mm
・全幅 1,840 mm
・全高 1,480 mm
・ホイールベース 2,750 mm
・車両重量 1,710 kg
・エンジン 水冷直列4気筒DOHC16バルブ直噴ターボディーゼル
・排気量 2,188cc
・圧縮比 12.5
・最高出力 190ps(140kW)/4,500
・最大トルク 450Nm(45.9kgf・m)/ 2,000rpm
・駆動方式 4WD
・変速機 6EC-AT
・タイヤ 225/45R19
・タンク容量 経由52L
・WLTCモード燃費 17.0km/L
・試乗車車両本体価格 4,406,400円(消費税込)

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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