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第37回 マツダアテンザセダン
2013.1.28

スカイアクティブテクノロジーのフルメニューを活用した第2弾、アテンザセダン、ワゴンが11月末に発表され、年明けをまってジャーナリスト試乗会が開催されたので、今回はセダンの商品概要と試乗短評をお伝えし、車評コースにおける実測燃費や長距離走行を含む総合評価は改めて行いたい。新型アテンザセダンは、トヨタカムリ、ホンダアコード、ニッサンアルティマ、ヒュンダイソナタなどが活躍するアメリカが主要市場であることは論をまたないが、近年低迷を続ける国内のセダン市場にもクリーンディーゼルを基軸に新風を巻き起こす可能性を秘めた大変魅力的なクルマに仕上がっていることを確認した。1月始めまでのシリーズの国内受注は目標を大幅に上回る8,500台以上という。

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・アテンザセダン
・全長 4,860mm
・全幅 1,840mm
・全高 1,450mm
・ホイールベース 2,830mm
・車両重量 1,430~1,450 (ガソリン)kg、1,490~1,510(ディーゼル)
・エンジン 直列4気筒DOHC16バルブ(ガソリン)、同直噴ターボ(ディーゼル)
・排気量 1,997cc、2,488(ガソリン)、2,128(ディーゼル)
・圧縮比 13.0(ガソリン)、14.0(ディーゼル)
・最高出力 155ps(114kW)/6,000rpm、188(138)/5,700、175(129)/4,500
・最大トルク 20.0kgm(196N・m)/4,000rpm、25.5(250)/3,250、42.8(420)/2,000
・変速機 6速AT、6速MT(ディーゼルのみ)
・タイヤ 225/55R17、225/45R19 (装着車種詳細は省く)
・燃料消費率 JC08モード燃費 15.6、17.4km/L(ガソリン)、20.0、22.4(ディーゼル)
・ベース車両本体価格 250~300万円(ガソリン)、290~340(ディーゼル)

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新型アテンザ
アテンザは、カペラ(1970年に導入され、マツダ626、マツダ6としてマツダの海外市場構築に貢献)の後継モデルとして2002年に誕生、海外市場を中心に高評価を受けこれまでに200万台以上が生産されてきた。3代目アテンザはCX-5に次ぐ、スカイアクティブテクノロジーのフルメニューを投入した第2弾で、世界初のキャパシターを活用した減速エネルギー回生システムも搭載、「鼓動(コドウ)」をテーマにした美しく野性的なデザインも含めて非常に斬新なモデルだ。ボディータイプはセダン、ワゴンがあり、エンジンは2L、2.5Lのガソリンに加えて2.2Lクリーンディーゼルが搭載され、トランスミッションは6速ATがメインだが、ディーゼルと組み合わされた6速MT搭載モデルも導入された。

スカイアクティブディーゼル、スカイアクティブテクノロジーの概略に関してはすでに「論評24」、「車評第28回」でご報告しているので、今回は新たに導入された減速エネルギー回収システム「i-ELOOP」、「スカイアクティブボディー」、そして「6速MT」に一言ふれるとともに三浦半島での試乗短評をお伝えし、内外装デザイン評価などに関しては改めて行う予定の総合評価時にまわしたい。

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i-ELOOP
減速エネルギーの回生と言えば新型ワゴンRの「エネチャージ」でも実証ずみだが、アテンザに採用された電気二重層キャパシターを使った減速エネルギー回収は世界初という。マツダが「i-ELOOP」と呼ぶこのシステムの特色は減速中のエネルギーの効率的な回収にあり、そのために採用されたのが、①最大電圧25V /最大電流200Aで、12Vから25Vまで自在に電圧をコントロールできる「可変電圧式オルタネーター」、②化学変化を伴わず、電気を瞬時に蓄え、瞬時に放出する性能を備えた「低抵抗大容量電気二重層キャパシター」、そして③最大25Vのキャパシター電圧を12Vに降圧して各電装品に供給する「DC-DCコンバーター」で、これにより比較的電力使用量の多いアテンザクラスのクルマでも一回の減速中の発電で次の減速までに必要な電力をほぼ賄えるとのこと。またキャパシターと鉛バッテリーの特性を生かすことにより鉛バッテリーの交換サイクルの延長も可能になったという。オルタネーターによるエネルギー消費は10%前後と言われるだけに発進性や加速性への貢献も決して小さくないはずだ。

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スカイアクティブボディー
高剛性ボディーが走行性能は勿論、安全、さらには乗り味の質感にも非常に重要であることは論をまたないが、新型アテンザにおいてはストレートなフレーム構造に加えて超高張力鋼板の使用比率を58%と先代モデルより20%も拡大、更にフロア下のトンネルメンバーを大型化、ボディーメンバーの継ぎ目部分の断面内に高剛性の発泡充填材を注入するなどにより、ねじり剛性がセダンで30%、ワゴンでは45%も向上しているという。アテンザの走りの気持ち良さの大きな要因の一つとなっている。更にCD値もセダンで0.26、ワゴンで0.28と非常に低いことも評価に値するものだ。

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6速MT
近年日本のセダン、ワゴン市場はほとんどがAT車で、MTは極度に限られているが、今回マツダが国内市場むけにもディーゼルエンジン搭載アテンザに6MTモデルを設定した英断に拍手を送りたい。今回の6MTは、2速/3速インプットギアの共用化、1速/リバースギアの兼用などによるコンパクト化と3kgの軽量化を実現、先代のMTよりもシフトストロークを短縮しながら操作力を低減、小気味よいシフトフィールを実現したという。6MTとスカイアクティブディーゼルの組み合わせにより、走る楽しみとコンパクトカー並みの燃料コストを同時に実現した新しい「スポーツセダン」が誕生したと言ってもいいだろう。

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試乗短評
湘南国際村を基地として行われた試乗会ではXD(ディーゼル6MT)、XD L Package(ディーゼル6AT)、25S L Package(2.5L 6 AT、以上3台いずれも19インチタイヤ)、XD(ディーゼル6AT、17インチタイヤ)の4台のセダンに試乗することが出来た。以下はそれらの試乗短評である。

一言でいえば、トヨタカムリ(40万台)、ホンダアコード(33万台)、ニッサンアルティマ(30万台)、ヒュンダイソナタ(23万台:いずれも2012年の販売台数)などのCDクラスセダンが活躍するアメリカ市場(マツダ6は2012年に3.4万台)でのマツダの巻き返しが期待される上に、近年低迷を続ける国内のセダン市場にもクリーンディーゼルを基軸に新風を巻き起こす可能性を秘めた大変魅力的なクルマに仕上がっていることを確認した。

走り
スカイアクティブDの豊かな中低速トルクに加えて、高回転までストレスなしに回るエンジンとATの組み合わせが、スポーツカーも真っ青な走りと優れた燃費を兼ね備えることはCX-5で確認済みだが、アテンザも大変魅力的な走りを示してくれた。それ以上に今回脱帽したのがMTとの組み合わせだ。変速の節度感、操作力、ストロークは、現存するFF用MTの中では最高レベルと言ってよく、変速頻度の少ないリラックスした走りにも、変速を楽しむスポーティーな走りにも見事に応えてくれ、ヒールアンドトーのブリッピング時のエンジンの迅速な回転上昇も従来のディーゼルエンジンでは期待できないもので、「自分が買うなら絶対これ」というモデルに仕上がっていた。今回2Lのガソリン車の評価は出来なかったが、2.5Lガソリンエンジンは気持ちの良いエンジンの吹きあがりと、全く不足のない走りとを提供してくれることを確認した。

ステアリング・ハンドリング
走り始めた途端に気づくのがステアリング・ハンドリングの気持ち良さだ。速度領域に関わらず直進が気持ち良く、そこからステアリングを切りこんで行くと実にリニアーな反応を示してくれると共に、ロールも適切に抑えられている。箱根などでの評価が楽しみだ。また運動性能とは直接関係ないが、ステアリングホイールの断面形状、親指付近のえぐり、革の感触の気持ち良さが日本車の中では突出したレベルにあり、「ハンドルを握るだけで運転したくなる」クルマに仕上がっている。

乗り心地
高速道路上、一般道路上での乗り心地は総じて悪くないのだが、19インチ、17インチタイヤ共に低速時の舗装の凹凸やマンホールのふたの乗り越し時などにはタイヤからの突き上げが過度で、前席、後席とも快適とは言えない。ダンパーの減衰特性の早急な見直しなどが必要だろう。「舗装悪路」と私が呼ぶこの種道路条件は日本の都市部では決して珍しいものではないが、日本車の中にはこの種の乗り心地の課題をかかえるクルマが少なくないので、今後は開発段階でのよりシビアかつ広範囲は条件設定も必須だと思う。この件については、近々「車評コース」におけるアテンザの評価を予定しており、あらためて評価結果を皆様にお伝えしたいと考えている。

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その他
一言是非言及しておきたいのが後席シートバックの折りたたみ機能だ。内外のセダンの中で新型アテンザほどリアーバルクヘッドの開口面積が広く、写真のように大人が足を完全に伸ばして、しかもその気になれば2人で寝られるクルマを見たことがなく、新型アテンザセダンの大きな商品魅力となるはずだ。この点がカタログ、広報資料、発表会などで遡及されていないのは残念で、是非アピールすべきである。

またマツダがBOSEと共同開発したアクティブエンジンサウンドは、回転数、アクセルの踏みこみに応じてスポーティーなエンジンサウンドがスピーカーからも出力され、軽快で鼓動音のあるエンジンサウンドが楽しめるのはうれしい。ただしディーゼルと2.5Lガソリンエンジンのいずれも6ATのクルマにはオプションで選択できるのに、「スポーツセダン」として運転を最も楽しむことのできる6MTモデルには現在設定がないのが残念だ。

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スカイアクティブDでのレース参戦
最後にスカイアクティブDによるレース参戦に一言ふれておきたい。米国のユーザー参画型モータースポーツにおけるマツダ車のシェアーは非常に高い。75,000人のメンバーをかかえるSCCA(Sports Car Club of America)は全米115の地域でクラブレース、ソロ、ラリー、タイムトライアルなどを行っているが、2011年各地のクラブレースに量産車ベースのクルマで参戦した人たちのうち何と58.8%がマツダだったという。ちなみにシボレーが4.5%、BMW、ホンダ、ニッサンが4%、ポルシェが3.5%だ。2011年のSCCA全国大会にはクラスごとに各地域で勝ち残った600台が集結したが、135台(22.5%)がマツダ車、同じく2011 SCCA ソロ(ジムカーナ)全国大会に集結した量産車ベースのクルマ855台の中でマツダ車は185台(21.6%)、また10,000人の会員を有するNASA(National Auto Sport Association)という団体も全米13の地域で、ロードレース、タイムトライアル、ラリーなどを行っているが、2011年のNASA全国大会に参加した385台の内76台(20%)がマツダ車だったという。

量産エンジンをベースとしたスカイアクティブDによるレース参戦は、このように永年ユーザー参画型モータースポーツを大切にしてきたアメリカマツダならではの英断だ。マツダは目下アメリカ市場へのスカイアクティブD導入に向けて注力中で、そこに新風を巻き起こすべく、マツダ本社の協力も得ながらフロリダでレース用ディーゼルエンジンの開発が行われ、間もなく行われるデイトナ24時間レースをデビュー戦としてアテンザ(マツダ6)でのグランダムシリーズへの挑戦を開始する。また同エンジンを希望するレーシングチームに供給してルマンのLMP2クラスへの挑戦も計画しており、今年がスカイアクティブDでのモータースポーツ元年となるのは非常に興味深く、また善戦を期待したい。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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