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第84回 アウディQ2 1.4 TFSI
2017.5.27

4月26日に発表会が行われたアウディQ2は、最近導入された国産、輸入の新型車の中でひときわ私の心をとらえてくれたクルマで、試乗会が大変楽しみだった。5月11日に御殿場で行われた試乗会(今回は1.4 TFSIのみ)において、限られた時間だが走りの魅力も味わうことができたのでご報告したい。斬新なコンセプトとデザイン、コンパクトながら優れた居住性と積載性、2種類の小型ターボエンジンなど国内市場に非常によくマッチした新しい"コンパクトスポーティークロスオーバービークル"で、価格帯も300万円を下回るところから始まるのも魅力だ。このモデルの投入により、アウディは初めてというユーザーも増え、好調に推しているアウディの国内販売が一段と加速されることは間違いない。

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商品コンセプト
アウディQ2はMQBという軽量・高剛性なVWアウディグループのプラットフォームを活用したアウディのラインアップの中で最もコンパクトなSUVだ。室内寸法、ラゲージ容量も全く不足なく、全高も1,530mm(今回の試乗車は1,520mm)に抑えられているので立体駐車場も問題なく利用でき、ファミリーカーとしても大変使い易いサイズだ。SUVというよりはスポーティークロスオーバーと呼びたい。エンジンは4気筒1.4L TFSIと、間もなく販売が開始される3気筒1.0Lの2種類で、いずれも気筒当たり4バルブのインタークーラー付き直噴ターボエンジンである。目下はFWDモデルのみだが、遠からず4WD クワトロも追加されるだろう。

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内外装デザイン
今回発表会の会場でひときは心がひかれたのが、これまでのアウディデザインとは一味違う多角形をデザインテーマとした外観スタイルだ。八角形のフロントグリルはパワフルで質感が高く、ショルダーラインを鋭く削り落としたドアパネル上の6角形の造形が新鮮で、アウディがBlade(翼、羽根)とよぶCピラーの処理や、テールランプの造形も魅力的だ。昨今のアウディデザインが足踏みしているように感じていただけに、Q2のデザイン上の新しい挑戦と、このデザインを担当し、今回の発表会に来日した新進気鋭のデザイナーに拍手を送りたい。内装デザインは水平基調のダッシュボード、4個の円形のエアベントなど、とり立てて新しい造形ではないが、質感が高く使い勝手が良好で、バーチャルコックピットと呼ぶメーターパネル内のナビゲーションを含む表示も視認性が良好で大変好感が持てる。

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パッケージング
Q2はパッケージングも大きな魅力だ。全長はQ3より200mm短いが、ホイールベースはほぼ同等で、室内寸法は一クラス上のQ3とほとんど変わりがないという。前席を私のドライビングポジションにセットした場合、後席の膝前スペースは握りこぶしが縦に2個入るスペースがあり、着座位置が一般のセダンよりやや高いためか後席居住性、乗降性も非常に良好だ。また後席後方のラゲージスペースは405Lあるのでファミリーカーとして全く不足はなく、後席を倒せば1,050Lのラゲージスペースが実現する。今後導入が期待されるクワトロの全高はわからないが、今回試乗したモデルは全高が1,520mmに抑えられており、全幅も1,795mmなので、ほとんどすべての家庭用ガレージに問題なく収納でき、一般家庭のファミリーカーとして非常に望ましいパッケージングとなってる。

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走る、曲がる、止まる
御殿場での試乗会では、走り始めた瞬間からMQBのプラットフォームにも起因してか車体剛性の高さを感じ取ることが出来るとともに、長尾峠を含む箱根のワインディングロードにおけるロールの抑えられたスポーティーな走りを存分に楽しむことができた。ステアリングに舵角を与えた場合のクルマの反応もクイックでリニアで、中でもダイナミックモードに切り替えた場合の操縦安定性は大きな魅力点だ。操舵量に応じてギヤレシオが変わる「プログレッシブステアリング」の効果も大きそうだ。ブレーキもリニアで効きも良好だった。また前席の剛性感、着座感、コーナリング時のホールド性が良いだけではなく、後席もコーナリング時のホールド性も非常に良好だ。それだけに後席乗員用のアシストグリップがないのは残念で、是非とも早急に装着してほしい。

動力性能は、今回評価した1.4L TFSIインタークーラー―つき直噴ターボエンジンの150psの最高出力もさることながら、1,500rpmから3,500rpmまで発揮される25.5 kgmの最高トルクにも起因して、登坂路でも非常に活発な走りをみせてくれた。シリンダーオンディマンド(シリンダー休止システム)は今回の走行中には十分に評価することが出来なかったが、JC08モードの燃費は17.9km/Lとなっており、一般ユーザーの実用燃費もかなり良好な数値になるだろう。遠からず販売が開始される予定の1.0L3気筒エンジンの動力性能と実用燃費にも非常に興味があるので、なるべく早期に皆様にご報告できれば幸いである。

一点もう一歩と感じたのは低速の凹凸路におけるタイヤからの突き上げだ。今回試乗したモデルに装着されていた18インチタイヤは扁平率が50であり、スポーツサスペンションであることにも起因しているのだろう。住宅地周辺には必ずといってよいほど低速の凹凸路があるので改良してほしい数少ないポイントだ。ただしベースグレードは16インチ、その上のグレードが17インチタイヤで、扁平率も60、55なので、これらのモデルは路面からの突き上げが気にならない可能性は大きい。上記を除き、音、振動、乗り心地は総じて良好で、ロードノイズは今回の18インチタイヤでも相対的に良くおさえられており、粗粒路のロードノイズもほとんど気にならなかった。

Q2を一言でいえば
大きめのSUVは、日本の道路事情、住宅事情などを考えた場合必ずしも多くのユーザーに適した商品とはいえないし、オフロードを走行する機会は大半のユーザーにとっては限りなく少ない。一方でこれまでファミリーカーの中軸となってきたハッチバック、セダン、小型ミニバンに対する代替えコンセプトの提案が少ないのも事実であり、そのような中にあってQ2はクルマ好きの心をとらえるスポーティーなクロスオーバーとして、大変魅力的な新しいファミリーカーの一台に仕上がっており、アウディジャパンは多くの新規顧客も獲得することが出来るものと確信する。日本のメーカーもこのように新しいカテゴリーへの積極的な挑戦が今こそ必要で、その意味でもQ2が大きな刺激になることを期待したい。

試乗車グレード アウディQ2 1.4 TFSI 1st edition(導入記念モデル)
・全長 4,205 mm
・全幅 1,795 mm
・全高 1,520 mm
・ホイールベース 2,595 mm
・最低地上高 170 mm
・車両重量 1,340 kg
・エンジン 直列4気筒DOHC
・排気量 1,394 cc
・圧縮比 10.0
・最高出力 150ps(110kW)/5,000-6000rpm)
・最大トルク25.5 kgm(250N・m)/1,500-3,500rpm
・変速機 7速Sトロニック
・タイヤ 215/50R18
・タンク容量 50L
・JC08モード燃費 17.9 km/L
・試乗車車両本体価格 \4,050,000 (消費税込)
・試乗車価格 \4,900,000

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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ポルシェ911 空冷・ナローボディーの時代 1963-1973
車評 軽自動車編
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