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第70回 マツダデミオ15MB
2016.3.28

今回は各種のモータースポーツに関わってきた友人に「是非乗ってみる価値がある」と勧められて試乗する機会をもったマツダデミオ15MBに関するご報告をしたい。このモデルは昨年秋に導入されたもので、MBとは「モータースポーツベース」を意味しているとのこと。注文生産なので専用のカタログもなく、ほとんどプロモーションが行われていないモデルで、私も友人から試乗を勧められて初めてその存在を知ったモデルだが、一般道で試乗を始めたとたんに走りの魅力にとりつかれてしまった。日常の使用では家族とともに実用性に加えて運転の楽しさを満喫しながら、週末には各種の参画型のモータースポーツを楽しむことができるクルマで、ベース価格も150万円強と魅力的だ。スズキが最近導入したアルトワークスや、ホンダS660などとともに、低迷している日本の参画型モータースポーツの活性化に貢献してくれるクルマとしての今後に期待したい。

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デミオ15MBのコンセプト
デミオの商品体系は、これまでは1.3LのSKYACTIC-G(ガソリンエンジン、圧縮比12.0、レギュラーガソリン、最高出力92ps/6000rpm)を搭載したFF、4WDと、1.5LのSKYACTIV-D(ディーゼルエンジン、最高出力105ps/ 4000rpm)を搭載したFF、4WDだったが、15MBはそれらとは異なる1.5LのSKYACTIV-G(圧縮比14.0、プレミアムガソリン、最高出力116ps/6000rpm)と6速マニュアルトランスミッションを搭載した参画型モータースポーツでの使用を目標にしたモデルだ。一般公道上での日常の使用が、快適で、楽しく、便利な上に、週末にはジムカーナ、ラリー、ダートトライアル、そしてJAFが昨年導入した(ヘルメットもレーシングスーツも、競技ライセンスも不要な)モータースポーツ競技「オートテスト」などに参加するには最適なモデルだ。車両本体価格が消費税込で150万円強、16インチタイヤやリアシートの6:4可倒機能などのメーカーセットオプションが64,800円というのもうれしい。メーカーのプロモーションが非常に限られているのは残念で、もっと積極的にプロモートする価値のあるモデルだと思う。

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走る
圧縮比14.0、最高出力116ps/6000rpmの1.5L SKYACTIV-Gは、欧州市場むけデミオ用の1.5Lエンジンで、高回転まで気持ちよく回る上に、1000rpmプラスαでの市街地走行も実にスムーズだ。メーカーによると0-100km/hは9秒とのこと。欲を言えば高回転まで廻した時の吸排気音をもう一歩作りこんでほしいところだ。走りの楽しさを一段と引き立てるのが、現在市場にある前輪駆動用のマニュアルトランスミッションのなかではベストと言っても良い6速MTだ。ストローク、節度感、シフトフィールなどが大変望ましいレベルに仕上がっており、改めてMT車に乗ることの楽しさを味あわせてくれる。実用燃費も、一般道を多用し箱根ではそれなりにハードな走行をした箱根往復275kmの平均燃費は18.7km/Lとなかなかのレベルだった。

曲がる・止まる
試乗車にはオプションの16インチタイヤが装着されていたが、高速道路の継ぎ目、低速の凹凸路などほとんどの路面で大変望ましい乗り心地を提供してくれる上に、低速から高速まで直進が非常に気持ちよく、舵角を与えたときのクルマの動きがドライバーの感覚と非常によくマッチしている。高速の急速なレーンチェンジの安定性も抜群だ。箱根で私が評価によく使う凹凸の激しいコーナーを実にスムーズに駆け抜けてくれた。ブレーキサイズが前後とも1インチずつアップされていることにも起因してか、高速からのブレーキが実によく効き、コントロール性も良好だ。一言でいえば、デミオ15MBは、走る、曲がる、止まるが非常に望ましいレベルに仕上がっている。唯一改善を期待したのはヒール&トーのやり易さくらいだ。

内外装
外観上一目で15MBとわからないのがちょっと残念だ。派手なストライプをとは言わないが、好きな人には一目で15MBとわかる小さな洒落たステッカーがサイドやリアについているだけで十分だと思う。内装色は黒一色で色気には乏しいが、ベイシックで悪くはない。ステアリングホイールはウレタン製だが、触感的には許容できるレベルだ。またタコメーターが小さすぎるのが難点だが、他機能との整合も含めてタコメーターメインのメーターの採用は難しかったのだろう。日常の使用に便利な6:4分割可倒リアシートバックが、前述のように16インチタイヤと16インチアルミホイール、着色ガラスとともに、64.800円のオプションに含まれているのも良心的だ。

参画型モータースポーツ活性化への期待
日本におけるクルマ文化の定着の度合いは、欧米と比較するとはるかに限定されており、クルマ離れへの対策は必須だと思う。クルマ保有に関わる各種コスト、年式の古くなったクルマの税金の増大など、クルマ文化の定着を妨げる要素が多すぎる。参画型を含む日本におけるモータースポーツの低迷も気になるポイントで、一人でも多くの人が気軽にモータースポーツを楽しめる環境の整備が急務だ。

そのような中での、デミオ15MB、アルトワークス、ホンダS660などの導入は大いに歓迎すべきもので、これによりジムカーナ、ラリー、ダートトライアルなどが少しでも活性化することを期待するとともに、昨年JAFがモータースポーツの発展とドライバーの運転能力向上のために導入した、ヘルメットもレーシングスーツも、競技ライセンスも不要な新種競技「オートテスト」は、今後のプロモーション次第では貴重な一石となる可能性がある。ちなみにイギリスでは年間1000回以上もの同種の「オートテスト」が行われているという。出来れば遠からずデミオ15MB、アルトワークス、ホンダS660などを使って、RJC有志とともに「オートテスト」などのトライアルを行い、参画型モータースポーツ活性化に向けての話し合いが出来ればと考えており、この件に関して改めて皆様にご報告できるようにしたい。

試乗車グレード マツダデミオ15MB
・全長 4,060 mm
・全幅 1,695 mm
・全高 1,500 mm
・ホイールベース 2,570 mm
・車両重量 1,010 kg
・エンジン 直列4気筒DOHC16
・排気量 1,496 cc
・圧縮比 14.0
・最高出力 116ps(85kW)/6,000rpm
・最大トルク 15.1kgm(148N・m)/4,000rpm
・変速機 6MT
・タイヤ 185/60R16
・タンク容量 44 L
・JC08モード燃費 19.2 km/L
・試乗車価格 1,598,400円(消費税込)(リアドア、リアゲート着色ガラス、リアシート6:4分割可倒シートバック、CDプレーヤー、185/60R16タイヤ&アルミホイール、特別塗装色代を含む。ベース車両車両本体価格は、1,501,200円)

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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ポルシェ911 空冷・ナローボディーの時代 1963-1973
車評 軽自動車編
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