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第100回 2019年JAIA試乗会
2019.2.28

2月初旬にJAIA(日本自動車輸入組合)主催の第39回輸入車試乗会が大磯で行われた。このイベントには毎回出席しているが、昨年は健康状態に起因してハンドルが握れず参加を断念、今年は再度参画することが可能となり、三樹書房、グランプリ出版と関連のある方々と何台かの輸入車を試乗することができた。以前にも述べているが、この試乗会は輸入車組合に参加されている海外メーカーのほとんどが参加され、試乗希望車種を事前申請して試乗車が決定、加えて各自が設定している独自の評価コースで比較評価が出来るため、輸入車の販売促進はもちろんのこと、日本のクルマづくりにもいろいろと警鐘を与えることのできる大変貴重なイベントだ。今年はクロスオーバーSUV車を優先して選択し、各種の車に試乗することができたので今回の車評オンラインでは以下の4台に関する短評をご紹介したい。

今回短評を加えるモデル(アルファベット順)
1) Audi Q5 40 TDI Quattro Sports
2) BMW X3 M40d
3) PEUGEOT 3008 Blue HDi
4) RENAULT カジャー インテンス

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Audi Q5 40 TDI Quattro Sports.........657万円
4,680×1,900×1,665mm 2L直4 DOHCターボディーゼル

初代アウディQ5が導入されたのは2008年で、2017年にモデルチェンジされたが、Q5は大きすぎず、小さすぎず、ファミリーユースとして非常に適したクロスオーバーSUVで、この度最新のコモンレール式クリーンターボディーゼルを搭載したモデルが導入された。190ps/400Nmの性能を発揮するエンジンにより一般走行における動力性能は非常に良好で、エンジンサウンドも全く気にならず、燃費もJC08モードでは15.6km/Lとなかなかのレベルだ。車体剛性も非常に高く、ステアリングの操作に対するクルマの動きがリニアで気持ち良く、乗り心地も18インチという比較的リーズナブルなタイヤサイズも貢献してか大変良好だ。居住性も前後シートとも非常に良い。外観スタイル、内装デザインはやや保守的ではあるが、アウディファンにとってはむしろ望ましい方向かもしれない。内外装の質感も非常に良くつくり込まれており、ファミリーで使うクルマとして大変上質なクロスオーバーSUVに仕上がっていることが確認できた。

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BMW X3 M40d.................................878万円
4,725×1,895×1,675mm 3L直6 DOHCターボディーゼル

BMWの車種系列の中にはクロスオーバーSUVが多く、Xのつくモデルは全車クロスオーバーSUVといっていいだろう。X3は初代が導入されたのが2004年、第2世代が2011年、そして第3世代が2017年に導入され、このたび投入されたのがM40dだ。アウディ5に非常に近いサイズで、大きすぎず、扱いやすく、実用性も非常に高い。BMWのMを名乗るにふさわしい326ps/680Nmの3Lのターボディーゼルを搭載、2トン近い車重だが、静止状態からでも圧倒的な加速性能を発揮、0-100km/hは5秒を切るらしい。高速での加速も非常に良好で、SUVやクロスオーバーSUVのカテゴリーで私がこれまでハンドルを握ったモデルの中では最速のクルマだ。ファミリーカーという視点で見ればここまでは必ずしも必要ないという見方もできるかもしれないが、下手なスポーツカーも真っ青な動力性能に感銘した。加えて車体剛性の高さにも起因してか、走行安定性も良好で、直進性が非常に良好な上に、舵角を与えた折のクルマの反応が私の慣性に非常に良くマッチしている。ただしステアリングホイールの握りが私には太すぎること、路面の段差による突き上げがやや気になること、代替えタイヤの価格などを考えると21インチタイヤはオーバーサイズと言えるが、Mシリーズゆえのこだわりかもしれない。

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PEUGEOT 3008 Blue HDi..................448万円
4,450×1,860×1,630mm 2L直4 DOHCターボディーゼル

プジョーの新世代SUVとして2年前に登場した3008、現在その販売の中心となっているのが今回試乗した2L直4 クリーンターボディーゼル(177ps/400Nm)だという。走りは良好で、乗り心地も良く、足がしなやかに動き、ロードノイズも良く抑えられている。円形でなく台形のステアリングホイールがワインディングロードの操舵で違和感がないことに驚いた。ステアリングホイールの握り感が非常に良好な上にステアリングのオンセンターフィール、直進性が良く、そこから舵角を与えた時の動きもリニアで大変好感が持てるビークルダイナミクスだ。内外装デザインも魅力的で、中でもインパネ周辺のデザインはシンプルながらスポーティーで大変好感が持てる。今回試乗したモデルは車両価格が448万円だが、2月初めには400万円を下回るモデルも導入されているので、個性豊かで魅力に満ちたお買い得なクロスオーバーということができよう。

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RENAULT カジャー インテンス.........347万
4,455×1,835×1,610mm 1.2L 直4 DOHCターボ

ルノー・カジャーも今回大変魅力を感じた1台だ。このクルマは日産との共同開発モデルでプラットフォームは日産のエクストレイルと同じだが、生産はスペインとのこと。エンジンは1.2Lのターボ(131ps/205Nm)で、インテンスの駆動方式は4WDではなくFFだ。エクストレイルの最新バージョンを試乗していないので近似性に関しては何とも言えないが、最近のルノーの新型車に試乗すると、日本車とは一味違う好ましい味付けを行っていることが明確だ。カジャーも1.4トンという車重も貢献してか全く不足のない走りをしてくれる上に、ステアリングのリニアリティーも良好で、乗って大変気持ちの良いクルマに仕上がっている。19インチのタイヤをそれなりに履きこなしており、乗り心地は後席も含めて良好だが、タイヤからの突き上げ感とロードノイズが若干気になるので、タイヤをもうワンサイズ落としてそれを価格にも反映させれば一層魅力的なクロスオーバーになるのではないだろうか?ルノージャポンの今後の動きに期待したい。内外装のデザインと質感はこの価格帯の輸入車としては非常に良好で、お買い得感の高いクルマだ。

今回の試乗を終えて
近年クロスオーバーSUVと言えるカテゴリーの拡大は、欧州系のメーカーはもちろん、世界的に見ても目を見張るものがある。高級スポーツカーメーカー、高級車メーカーなどからの参入も多岐にわたっているし、旧知のアメリカ人ジャーナリスト、ジョン・ラムさんのカーグラフィック誌のコラム "From USA"にも、「アメリカ市場ではフォード・トーラスやフォーカス、シボレー・インパラなどの乗用車が消えゆく一方で、SUVの増殖が止まらない」と書かれている。中国も例外ではなさそうで、ある中国の自動車専門誌に掲載されている2019年カーオブザイヤー候補車の一覧をみてみると、セダン13車種に対して、クロスオーバーSUVと呼べるものが21車種もある。

セダン、ハッチバック、クーペ、ステーションワゴンなどという伝統的な車種体系が大きく変動していると言ってもいいだろう。また車高の高い伝統的なSUVと比較して多くのクロスオーバーSUVは車庫に収めやすい車高であることも商品魅力の一つになっているのではないだろうか?今回テストした4台はいずれも私の自宅の車庫に問題なく収まる全高だ。また近年クリーンディーゼルでつまずいた欧州だが、欧州各社が積極的にクリーンディーゼルモデルを投入してきていることにも注目したい。一方で日本のメーカーのクロスオーバーSUVへの対応は必ずしも十分とは言えないのが現状で、積極的な商品戦略の改革が求められているのではないだろうか?その意味からも今回性格や価格帯の異なるクロスオーバーSUVをこのように試乗することが出来たのは非常に意義深いと感じている。


今回の試乗会には三樹書房、GP出版の枠で参加、車種によっては片山光夫さん、堀重之さんともご一緒に試乗、非常に貴重なご意見もうかがうことがたことは本当にうれしかった。お二人の試乗記は以下に掲載されているので是非ご覧になってみて下さい。

片山光夫さん(三樹書房HPのニュース欄)
『父上の関係で高校、大学をアメリカで過ごしアメリカの大学・大学院で機械工学を専攻、帰国後電機メーカーに就職、退職後は会社役員、エネルギー関連技術コンサルタントなどを経験され、2005年からRJC(日本自動車研究者・ジャーナリスト会議)会員になられ、RJC会長も務められた』

https://www.mikipress.com/news/2019/02/39jaia-1.html

堀重之さん(グランプリ出版HPの連載)
『トヨタ自動車で製品企画部に配属以降、一貫して走行性能の研究開発に従事した経験をもとに、プリウス、アベンシス、セリカ、MR-Sの開発責任者、スポーツ車両統括部での製品企画を担当された』

https://grandprix-book.jp/blog/2019/02/21/post-604/

試乗車スペック
 アウディQ5■■BMW X3プジョー3008ルノーカジャー
全長 mm4,6804,7254,4504,450
全幅 mm1,9001,8951,8601,835
全高 mm1,6401,6751,6301,610
ホイールベース mm2,8352,8652,6752,645
車両重量 kg1,9001,9801,6101,410
排気量 cc1,9682,9921,9971,197
最高出力 ps190326177131
最大トルク Nm400680400205
変速機7AT8AT8AT7AT
タイヤ235/60R18     245/40R21(前)
275/35R21(後)
225/55R18225/45R19
JC08モード燃費
km/L
15.614.917.8 
試乗車
車両本体価格
657万円878万円448万円347万円
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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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