三樹書房
トップページヘ
syahyo
第40回 三菱eKワゴン
2013.6.27

今回は三菱と日産がジョイントベンチャーを設立して企画、デザイン面で双方の経験と英知を結集、開発と生産は三菱が担当する三菱eKワゴン、eKカスタム(ニッサン名はDAYZ)の有明(市街地)における、一般道に限った短時間の試乗をベースにeKワゴンの評価を中心にお伝えしたい。結論を一言でいえば、改善要望点はいくつかあるが、両社の協力が結実し、魅力ある軽自動車がまた1台誕生したことを多としたい。シリーズの月間販売目標は三菱が5000台、日産が8000台で、このモデルの導入により軽自動車のシェアーが一段と拡大することは間違いなく、ダイハツ、スズキも安閑としてはいられないはずだ。このような競争の激化は技術の進化にとっても貴重なことであり、車評コースにおける実用燃費の比較を含む総合評価を遠からず実行したいと考えている。

04-dai4001.jpg

・試乗車 三菱eKワゴンG、(カッコ内はターボ仕様のカスタムT)
・全長 3,395mm               
・全幅 1,475mm
・全高 1,620mm 
・ホイールベース 2,430mm 
・車両重量 820kg(860kg)
・エンジン 直列3気筒DOHC 12バルブ 
・排気量 659cc
・最高出力 49ps(36kW)/6,500rpm(64ps(47kW)/6,000rpm)
・最大トルク 6.0kgm(59N・m)/5,000rpm(10.0kgm(98N・m)/3,000rpm
・変速機 CVT
・タイヤ 155/65R14(165/55R15)
・燃料消費率 JC08モード燃費 29.2km/L(23.4km/L)
・車両本体価格 1,240,000円(1,430,000円)(消費税込)

04-dai4002.jpg

04-dai4003.jpg

新型eKワゴンの簡単なご紹介
初代eKワゴンが導入されたのは2001年、2代目の導入が2006年で、いずれも三菱独自の企画、開発によるものだが、今回は三菱と日産がジョイントベンチャー(NMKV)を設立して企画、デザイン面で双方の経験と英知を結集、開発と生産は三菱が担当するもので、三菱からの単なる商品供給でないところがいい。2代目に比べて全高を70mmアップして1620mmとすることにより、今や軽自動車の4割強をしめるトールワゴンに変身した。ホイールベースも90mm拡大、全く不足のない後席空間を実現、エンジンはベースこそ後輪駆動の三菱iのものだが、実質的には新開発といっても良いもので、三菱の軽としては初めてCVTと組み合わされた。外観スタイルには躍動感とプレミアム性が盛り込まれ、内装の質感はシートを含み軽のトップクラスと言っても言い過ぎではない。室内居住性、使い勝手、フロントサイドに採用された99%のUVカットガラスなども含めて女性にとって魅力度の大きな軽がまた1台誕生、目標台数の達成は間違いなさそうで、軽自動車の競争は一段と激化しそうだ。

04-dai4004.jpg

外観スタイル
まずは外観スタイルから始めたい。トリプルアローズラインと呼ぶ3本のキャラクターラインがサイドの躍動感をうまく表現しているが、その中でヘッドランプからフロントフェンダー上部を経てドアミラー下に至るラインは躍動感に加えて車幅感も演出、またボディーサイドからL字型テールランプにいたるキャラクターラインも躍動感に大きく貢献している。テール周りのデザインが競合車(ムーヴ&ワゴンR)になぜここまで近似しなければならなかったか私には分らないが、総じてワゴンRやムーヴより躍動的で質感の高い外観スタイルは、eKワゴン(&DAYZ)の大きなセールスポイントとなりそうだ。eKワゴンとeKカスタムの相違はフロントの顔つきとテールランプがメインだ。

04-dai4005.jpg

04-dai4006.jpg

内装デザイン
内装もまた好感のもてるデザインだ。インパネ、センターコンソールなどの造形はシンプルだが魅力的で、全てハードプラスティックだが、しぼの選択や光沢をコントロールすることにより質感がうまくつくりこまれている。加えてピアノブラック調のセンターパネル、タッチパネル式のオートエアコン、シルバー加飾なども質感の向上に貢献している。メーターも先代のセンターレイアウトからドライバー正面に移り視認性が向上、デザインもなかなかいい。カスタムにはタコメーターを含む2連メーターが装着される。内装色に関して一言言えば、私はアイボリー(ベージュ・グレー)の内装色の方が黒内装よりも好きで質感も高く感じるが、アイボリーの内装はeKワゴンに限られ、eKカスタムでは選択できないのが残念だ。

04-dai4007.jpg

04-dai4008.jpg

室内居住性
次に高く評価したいのがシートのサイズと質感だ。スズキの軽はワゴンRのように充分なサイズのシートがあたえられて問題ないが、ダイハツの軽、更にはホンダのN-ONEはシートサイズを前後席とも20~30mm拡大してほしいと以前述べたが、今回のeKワゴンは前後席ともサイズ、着座感ともに良好で、加えて表皮の見栄え、質感も高く、既存の軽の中では最良のシートと言えそうだ。後席は170mmの前後スライドが可能で、折りたためばダイブダウンもするので、3人+大きな荷物を積載してのドライブも楽にこなせる。

04-dai4009.jpg

燃費と走り
eKワゴンはその開発過程においてワゴンRの28.8km/L、ムーヴの29.0などが登場したため、目標値の見直しが複数回行われたらしく、最終的には29.2という競合車中のベストのカタログ燃費を達成したという。しかし私の関心はカタログ燃費ではなく、あくまで実用燃費だ。すでにご報告しているように、新型ムーヴの燃費を車評コースの高速セクション、市街地セクションで車載の燃費計で計測の結果、高速では27.4km/L、市街地では16.5km/Lという値を記録した。これは、新型ワゴンRの23.3、16.2、インサイトの22.2、12.5を上回り、新型プリウスの25.7km/L、19.1km/Lにも迫る燃費だ。eKワゴンがどのような数値を示すかは大変興味深く、遠からずこれらの競合車も交えて車評コースにおける実用燃費の比較を含む総合評価も考えたい。

ワゴンRやムーヴの評価時に「最近の軽自動車の燃費改善でうれしいのは、走りを犠牲にしての燃費向上ではなく、走りの向上も伴っている点だ」と述べたが、現時点クラストップのカタログ燃費を実現したeKワゴンの走りはどうだろう? 今回の自然吸気モデルの走り感は正直言って停止状態からの発進、その後の加速感などがワゴンR、ムーヴの自然吸気モデルには一歩及ばず、走りの面からはやはりターボが欲しいと思わせるものだった。ただしターボ仕様は価格面ではホンダN-ONEターボのように123万円からとはいかないのが残念だ。今回改めてスズキのエネチャージのように加速中にはほとんど発電しないでエンジンへの負荷を低減する方式の、軽自動車におけるメリットを痛感、三菱・ニッサンも一刻も早く同様なシステムの採用をしてほしいところだ。

加えて自然吸気モデルの場合CVTとのマッチングも今一歩で、CVT特有のドライバー感覚とのずれ(エンジン回転と速度のずれ)が気になった。またアイドルストップ機構の再始動時間、再始動時の音、振動に関しては問題ないが、有明での試乗に限って言えば、アイドルストップ時間が非常に短く、停止中に短時間に再始動してしまった。この面でもエコクールを採用したスズキに一歩分がありそうだ。

04-dai4010.jpg

04-dai4011.jpg

ハンドリング・乗り心地
NA、ターボともフロントスタビライザーを装着していない割には舵角を与えた場合のボディーロールが抑えられており、一般的な走行にはこれで十分と思えるものだ。またタイヤ空気圧がワゴンRのように高い設定ではないことにも起因してか通常走行におけるクルマの動的質感はなかなかのもので、過半数を占めるであろう女性ユーザーの短距離利用にとってはこれで十分とは思うが、ステアリングセンターの甘さとフリクション感がやや気になると共に、後席の突き上げ感はもう一歩改善してほしい。また些細なことかもしれないがステアリングホイールの握り部分の形状やタッチ感にもう一工夫ほしいところだ。

eKワゴンの+と-
+躍動的で質感の高い外観スタイル
+シンプルだが魅力的で質感の高い内装デザイン
+シートを含む室内居住性
-NAの走り感とCVTとのマッチング
-ステアリングセンターの甘さトフリクション
-後席の凹凸路における乗り心地 

このページのトップヘ
BACK NUMBER

【編集部より】 車評オンライン休載のお知らせ

第128回 私のクルマ人生における忘れがたき人々 ポール・フレールさん

第127回 私のクルマ人生における忘れがたき人々 大橋孝至さん

第126回 コンシューマーレポート「最良のクルマをつくるブランドランキング」

第125回 三樹書房ファンブック創刊号FD RX-7

第124回 日本自動車殿堂入りされた伊藤修令氏とR32スカイラインGT-R

第123回 日本自動車殿堂(JAHFA)

第122回 コンシューマーレポート信頼性ランキング

第121回 マツダ MX-30

第120回 新型スズキハスラー

第119回 急速に拡大するクロスオーバーSUV市場

第118回 ダイハツTAFT

第117回 私の自動車史 その3 コスモスポーツの思い出

第116回 私の自動車史 その2 幼少~大学時代の二輪、四輪とのつながり

第115回 私の自動車史 その1 父の心を虜にしたMGK3マグネット

第114回 マツダ欧州レースの記録 (1968-1970) その2

第113回 マツダ欧州レースの記録 1968-1970 その1

第112回 私の心を捉えた輸入車(2020年JAIA試乗会)

第111回 東京オートサロンの魅力

第110回 RJC カーオブザイヤー

第109回 私の2019カーオブザイヤーマツダCX-30

第108回 大きな転換期を迎えた東京モーターショー

第107回 世界初の先進運転支援技術を搭載した新型スカイライン

第106回 新型ダイハツタントの商品開発

第105回 躍進するボルボ

第104回 伝記 ポール・フレール

第103回 BMW M850i xDrive Coupe

第102回 日産DAYZ

第101回 Consumer Reports

第100回 2019年JAIA試乗会

第99回 東京モーターショーの再興を願う

第98回 2019年次 RJCカーオブザイヤー

第97回 ニッサン セレナ e-POWER

第96回 クロスオーバーSUV

第95回 大幅改良版 マツダアテンザ

第94回 新型スズキジムニー(その2)

第93回 新型スズキジムニー

第92回 おめでとうトヨタさん! & RINKU 7 DAYレポート

第91回 名車 R32スカイラインGT-Rの開発

第90回 やすらかにおやすみ下さい 山本健一様(最終回)

第89回 安らかにおやすみ下さい 山本健一様(その3)

第88回 やすらかにおやすみください。山本健一様(その2)

第87回 ”やすらかにおやすみください。山本健一様”

【編集部より】 車評オンライン休載のお知らせ

第86回 ルノールーテシア R.S.

第85回 光岡自動車

第84回 アウディQ2 1.4 TFSI

第83回 アバルト124スパイダー(ロードスターとの同時比較)

第82回 スズキワゴンRスティングレイ(ターボ)

第81回 最近の輸入車試乗記

第80回 マツダRX-7(ロータリーエンジンスポーツカーの開発物語)の再版によせて (後半その2)

第79回 RX-7開発物語再版に寄せて(後編その1)

第78回 RX-7開発物語の再版によせて(前編)

第77回 ダイハツムーヴキャンバス

第76回 ニッサン セレナ

第75回 PSAグループのクリーンディーゼルと308 SW Allure Blue HDi

第74回 マツダCX-5

第73回 多摩川スピードウェイ

第72回 ダイハツブーン CILQ (シルク)

第71回 アウディA4 セダン(2.0 TFSI)

第70回 マツダデミオ15MB

第69回 輸入車試乗会で印象に残った3台(BMW X1シリーズ、テスラモデルS P85D、VWゴルフオールトラック)

第68回 新型VW ゴルフトゥーラン

第67回 心を動かされた最近の輸入車3台

第66回 第44回東京モーターショー短評

第65回 ジャガーXE

第64回 スパ・ヒストリックカーレース

第63回 マツダロードスター

第62回 日産ヘリテージコレクション

第61回  りんくう7 DAY 2015

第60回 新型スズキアルト

第59 回 マツダCX-3

第58回 マツダアテンザワゴン、BMW 2シリーズ、シトロエングランドC4ピカソ

第57回 スバルレヴォーグ&キャデラックCTSプレミアム

第56回 ホンダ グレイス&ルノー ルーテシア ゼン

第55回 車評コースのご紹介とマツダデミオXD Touring

第54回 RJCカーオブザイヤー

第53回 スバルWRX S4

第52回 メルセデスベンツC200

第51回 スズキスイフトRS-DJE

第50回 ダイハツコペン

第49回 マツダアクセラスポーツXD

第48回 ホンダヴェゼルハイブリッド4WD

第47回 ふくらむ軽スポーツへの期待

第46回 マツダアクセラスポーツ15S

第45回  最近の輸入車試乗記

第44回 スズキハスラー

論評29 東京モーターショーへの苦言

第43回 ルノールーテシアR.S.

論評28 圧巻フランクフルトショー

論評27 ルマン90周年イベント

第42回 ボルボV40

第41回 ゴルフⅦ

第40回 三菱eKワゴン

論評26 コンシューマーレポート(2)

論評25  コンシューマーレポート(1)

第39回  ダイハツムーヴ

第38回 第33回輸入車試乗会

第37回 マツダアテンザセダン

第36回 ホンダN-ONE

第35回 スズキワゴンR

第34回 フォルクスワーゲン「up!」

第33回 アウディA1スポーツバック

第32回 BRZ、ロードスター、スイフトスポーツ比較試乗記

第31回 シトロエンDS5

第30回 スバルBRZ

第29回 スズキスイフトスポーツ

第28回 SKYACTIV-D搭載のマツダCX-5

論評24   新世代ディーゼル SKYACTIV-D

第27回 輸入車試乗会 

論評23 モーターショーで興味を抱いた5台

論評22 これでいいのか東京モーターショー

論評21 日本車の生き残りをかけて

執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

関連書籍
ポルシェ911 空冷・ナローボディーの時代 1963-1973
車評 軽自動車編
トップページヘ