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第42回 ボルボV40
2013.8.27

一年半前の輸入車試乗会でのボルボS60試乗記で、「ボルボといえばこれまでは「安全」がその代名詞で、「Fun to drive」とは言えなかったが、S60は違う。走ることが大変気持ちの良いクルマに仕上がっており、外観スタイルも従来のボルボよりずっとエモーショナルかつスポーティーだ。」と述べたが、去る2月に導入され、今回長距離評価に加えて車評コースにおけるゴルフとの同時評価や実測燃費の計測も行うことのできたV40 (ブイフォーティーがメーカー呼称) はその路線を一段と進めた「プレミアム・スポーツコンパクト」で、価格も含め大変魅力的な商品に仕上がっていることを確認した。日本のクルマづくりにも大きな示唆を与えてくれるモデルであり、ボルボの今後には大いに注目してゆきたい。

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・試乗車 ボルボV40 T4 (カッコ内はV40 クロスカントリーT5 AWD)
・全長 4,370mm               
・全幅 1,785mm (1,800)
・全高 1,440mm (1,470) 
・ホイールベース 2,645mm 
・車両重量 1,430kg (1,580)
・エンジン 直4DOHCダーボ (直5DOHCターボ)
・排気量 1,595cc (1,983)
・最高出力 180ps(132kW)/5,700rpm (213(157)/6,500)
・最大トルク 24.5kgm(240N・m)/1,600~5,000rpm (30.6(300)/2,700~5,000)
・変速機 6速DCT (6速AT)
・フロントサスペンション ストラット
・リアサスペンション マルチリンク
・タイヤ 205/55R16 (225/50R17)
・燃料消費率 JC08モード燃費 16.2km/L (12.4)
・車両本体価格 2,690,000円 (3,590,000円) (消費税込)

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ボルボの最先端をゆくV40
クルマという商品の開発において、左脳を駆使した効率的、合理的なクルマづくりが大切であることは論を待たないが、私は右脳へのアピールも非常に大切な稀有な工業製品だと繰り返し主張してきた。近年ボルボの商品開発面で大きな変化があったことは間違いなく、かつての安全が唯一の売りものだったクルマづくりから大きく脱皮、一年半前のボルボS60の評価時点ですでに安全に対する第一級の配慮は維持しつつ、デザイン面や運転することの楽しさなど右脳にも大いにアピールするクルマづくりを展開しつつあると感じていた。今回評価したV40(T4とクロスカントリー)は、①商品コンセプト、②内外装デザイン、③パッケージング、④動的特性、⑤安全への配慮、⑥プライスバリューなどの面から、右脳へのアピールも含めて大変魅力的な商品に仕上がっていることを確認した。日本のクルマづくりにも大きな示唆を与えるもので、ボルボの今後に大いに注目したい。

商品コンセプト
ボルボV40は、今回評価したブルーメタリックのT4、カッパーメタリックのクロスカントリーともに「プレミアム・スポーツコンパクト」を商品コンセプトとし、単なる経済志向の小型車ではなく、デザイン性、プレミアム性、乗ることの楽しさを備えたスポーツコンパクトとして企画されたクルマで、自分らしさを大切にするアクティブなライフスタイルのユーザーにとって大変魅力的な商品に仕上がっている。日本車の中には「誰のためにどのような価値を提供するか」が明確とは言えないモデルが多く、「クリアーな商品コンセプト」は今後の日本車の生き残りのための大きな課題といえよう。

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外観スタイル
V40の外観スタイルはなかなか魅力的だ。スウェーデン本社とカリフォルニアスタジオの競作で、カリフォルニアスタジオ案がベースとなったようだが、カリフォルニアには多くのメーカーがデザイン拠点をおいており、ボルボの事例はその価値が証明されているようで興味深い。V40の外観スタイルは一般的なハッチバック、ステーションワゴンとは異なる独自のフォルムで、フロントグリル、ヘッドライト、ボンネットライン、P1800 をイメージさせるリアドア付近のフック形状を含むサイドの造形、更には6角形のリアウィンドーと独特な形状のテールランプが特色のリアまわりなど、個性あふれるダイナミックでスポーティーな外観スタイルに仕上がっている。クロスカントリー(写真のカッパーメタリックのクルマ)のデザインはSUVの雰囲気を盛り込んだ遊び心あふれるもので、私にはV40のバリエーションの中で最も魅力度が高いデザインだ。

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内装デザイン
「スカンジナビアンデザイン」を標榜する内装デザイン(上がT4で、下がクロスカントリー)も、なじみやすく、好感のもてる造形に加えて素材の選択、カラーリングも魅力的だ。フロントシートのデザイン、座り心地、ホールド性などが大変好ましいものになっていることに加えて、リアシートも悪くない。ただしボルボ特有のセンターコンソールの後ろ側の小物入れはあまり使い勝手が良いとは思わない。カラー液晶ゆえに可能となったメーターパネル表示の3種類切り替えは興味深いが、個人的にはスピードがディジタルで大きく表示される「パーフォーマンスモード」が最も使いやすく、他のモードはほとんど使わなかったことをご報告しておきたい。カメラを駆使して制限速度や追い越し禁止標識などを表示するロードサインインフォーメーションはなかなか便利で、日頃自分がいかにこれらの制約に対してアバウトな感覚で走行しているかを思い知らされた(上記写真)。

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パッケージング
V40のサイズはベンツAクラス、BMW 1シリーズと非常に近く、前席の居住性には全く不足がないが、クーペ風にルーフラインが後方に傾斜したデザインでサイドウィンドーも小さく、後席スペースはかならずしも潤沢とはいえない。しかし5人乗りとは言いつつ4+1(?)と割り切って後席の左右シートを車両中央に寄せたため、後席の左右に座ってもあまり窮屈に感じず、加えてこのシートポジションにも起因し前方視界はS60を含む多くの欧州車よりはるかに良好で、新型ゴルフよりも良い。このクルマに大人5人が乗車して長距離を走るというケースはまれなはずで、このようなシートポジションの割り切りは大いに共感できる。またラゲッジルームも後方からの見た目よりは大きく、後席をフラットにすると最大で1032Lのスペースが得られ、折りたたみ式のラゲッジボードによる2段スペースなど使い勝手も便利だ。注文をつけるとすれば、後席のシートスルーの機能がないため、スキーなどの長尺物を積載して4人乗車することが難しく、特にクロスカントリーには是非追加してほしい装備だ。

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走りと燃費
V40ベースモデルの排気量はベンツAクラス、BMW 1シリーズと同じく1.6Lターボエンジンだが、出力はベンツ122ps、BMW136psに対して180psと強力で、トルク特性もグラフのように1500rpmから5000rpmまで最高トルクが継続して得られるもので、このエンジンと6速DCTと組み合わされた走りはそれらの競合車よりはるかに上だ。以下が今回測定した各種の実用燃費(いずれも単位はkm/L)だが、ご覧いただくと分かるようにV40 T4の1.6 Lターボの車評コース実測燃費は10.0と、新型ゴルフ1.4Lの14.0、1.2Lの14.6にはかなり差をつけられているが、高速燃費の違いはそれほど大きくなく、省燃費走行をとりたてて行わなかった箱根往復の満タン法による計測は13.8km/Lとなった(同行したゴルフ1.2Lは16.9km/L)。


V40 T4 V40 クロスカントリーT5 AWD
・車評コース総合:10.09.1
・車評高速セクション:14.413.4
・車評市街地セクション:6.36.0
・箱根への往路(東名御殿場経由):13.9
・箱根からの復路(小田原厚木経由):16.3
・箱根往復:13.8

ハンドリング・乗り心地
プラットフォームはキャリーオーバーだが、アッパーボディーは新設計で、衝突強度、剛性強化、軽量化を実現するために高強度鋼板がふんだんに使用されていることも車体剛性の向上、ひいてはドライバビリティーに貢献しているのだろう、V40のステアリング・ハンドリングはレスポンスも良好で、動的質感も高く、運転することの大変楽しいクルマに仕上がっている。ただしV40 T4の市街地凹凸路や舗装の継ぎ目での乗り心地と粗粒路におけるロードノイズはもう一歩改善してほしいところで、この点ではむしろタイヤサイズが1インチ大きいクロスカントリーの方が良かったことを申し添えておきたい。

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安全装備
従来からのボルボの最大のアピールポイントだった安全性への配慮はV40も特筆に値するもので、上級車をも上回る各種安全装置が装着されている。詳細はさけるが一言言及しておきたいのは作動速度が50km/hまで広がった自動ブレーキ(全車標準装備)、歩行者エアバック(オプション)、そして20万円のセイフティーパッケージに含まれる、歩行者・サイクリスト検知機能も併せ持つ「ヒューマン・セーフティー」だ。V40に世界で初めて採用された歩行者用エアバックは、バンパーに内蔵された7つの加速度センサーで歩行者との衝突を検知し、フロントフードの後方を持ち上げると共にバッグを展開、フロントピラーによる頭部への衝撃値も低下させる役割も果たすもので、特に交通事故死亡者の中でも歩行者の割合が37%にも及ぶという日本では、6万円のオプション設定で歩行者の安全性が向上するのは大変意義深い。またサイクリスト検知機能を含む「ヒューマン・セーフティー」も、日本のように、歩行者に加えて道路上を走る自転車、中でもチャイルドシート付きの自転車が多い国では大変有効な安全装置と言えるだろう。ボルボでは長年にわたり多くの事故現場に技術者が直接出向き、事故の実態を分析しているとのこと、事故現場と関連する個人情報にも起因し、各国の安全規制への対応を中心に安全装備の開発を行っている大半の日本のメーカーとは大きなギャップがありそうだ。

プライスバリュー
最後に触れたいのがプライスバリューだ。今回ボルボジャパンはV40 の価格を269万円からに設定したが、以上述べてきた商品性を考えると大変魅力的な価格であり、単に輸入コンパクトと競合するだけではなく、日本車からの乗り換えも多くなりそうだ。現在の最量販車種は装備の充実したSE(309万円)、2リッター5気筒エンジン搭載のクロスカントリー(359万円)の販売も好調とのことで、V40の日本市場における売行きは世界でもトップレベルにあるという。ただし私の視点からは、クロスカントリーやR-デザインに搭載される2L 5気筒ターボは、走りは良いが、価格、燃費などでのディメリットもあるので、1.6Lエンジン搭載のFFクロスカントリーも加えてほしいところだ。


ボルボV40の+と-
+クリアーな商品コンセプトとプライスバリュー
+個性豊かで魅力的な内外装デザイン
+十分な走りとリーズナブルな燃費
-低速凹凸路における乗り心地
-長尺物に対応したシートスルー機能の欠如

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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