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論評22 これでいいのか東京モーターショー
2011.12.15

幕張から東京ビッグサイトに会場を移して12月3日から9日間一般公開された第42回東京モーターショー、1991年には200万人を超えた入場者数は前回が61万人と低迷したが、今回は交通の利便性にも助けられてか84万人を超えた。

「世界はクルマで変えられる」がテーマの今回は、自動車工業会会長のメッセージによれば「世界一のテクノロジーモーターショーを目指した」とあるが、日本車の展示の質の低さ、新しい商品や技術の提案の貧しさ、ほれぼれとするデザインやクルマに対する夢をかきたててくれる提案の少なさ、"あす"ではなく"あさって"のクルマや小型コミューターのオンパレードなど、まるで今後の日本の自動車産業の厳しさを予見させるようなものとなった。ただし部品メーカーの展示は各々の得意技術を熱心にアピールするものであり、クルマメーカーの展示よりよほど熱意が感じられた。

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今回最も魅力的な展示をしてくれたアウディに代表される欧州メーカーと日本メーカーとのブランドに対する思い入れやモーターショーに対する取り組みの格差を痛いほど感じるとともに、もしも今回輸入車の展示がなかったならば、交通費に加えて入場料を負担した人たちの落胆は想像に難くない。また長年私が主張してきた「学生は是非無料に」だが、高校生以上はいまだに実現されていない。近未来の日本の自動車産業を担ってもらう高校生や大学生にこそ会期中何回も足を運んでもらいたいではないか。

SMART MOBILITY CITY 2011の特別展示の意義は評価するが、コンセプトは必ずしも明確ではなく、新しい街づくり構想、車両規定、特別な税制なども必死に模索し、日本がこの領域で世界を真にリードしてゆくという意気込みは感じられなかった。また一般公開初日に開催された国内5社の代表を交えた「世界はクルマで変えられる」トークセッションそのものには意義を感じたが、場所やトーク内容の選択に関してはもっと別な切り口があったはずだ。

以下今回はプレスブリーフィング時の日本メーカー(アルファベット順)のキーメッセージ(以下『 』内)と各社の展示に対する私の寸評をお伝えしたい。

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DAIHATSU
『小さなクルマが大きく変える未来。2020年を考えても既存技術をもったクルマの比率は大きく、内燃機関の改善による走りの楽しみは大切。ミライースに搭載した低燃費技術は今後他のダイハツ車に順次適用してゆく。』

トヨタよりもブースが明るく、提案性も豊富で技術展示にも将来への意気込みが感じられた。2気筒ターボエンジン搭載の軽スポーツD-Xは大変興味深く、実現に向けて努力を傾けてほしいモデルだし、貴金属を使わない燃料電池の着実な取り組みも評価したい。

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HONDA
『"にんげんの気持ちいいってなんだろう"が今回のテーマ。CO2排出、エネルギーロス、廃棄物ゼロを目指すが、内燃機関の効率化にも注力し3年以内に各カテゴリーでベスト燃費を実現する。N BOXに続きN CONCEPTを順次投入する。』

今回のホンダの4輪の主役は、軽自動車N CONCEPT、EVスポーツ、EVコミューター、プラグインハイブリッドなどだったが、ブース全体が暗く余りにも平板で質感に乏しく、"ドキドキ"、"ワクワク"の演出も限られ、ホンダの苦戦を暗示しているかのようだった。

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MAZDA
『マツダのスピリット「飽くなき挑戦」に基づき社内のかべを取り除き無限の可能性に挑戦したのがスカイアクティブで販売は堅調に推移、その技術を全て搭載したCX-5と、DEでハイブリッド並の燃費を実現した鼓動デザイン「雄」(たけり)に注目してほしい。』

暗くて質感に乏しい床を除き比較的好感のもてるブースだったが、フルスカイアクティブ技術を搭載した CX-5のカットモデルなどの展示がほとんどなかったのはなぜだろう? 実物を見る機会はショーを除いては皆無では? 個人的には「雄」デザインに期待している。

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MITSUBISHI
『グローバルな視点から開発した小型低燃費車新型ミラージュと環境を対応のプラグインハイブリッドEVシステムを採用したコンセプトカーPX-MiEV Ⅱを展示、このEVシステムは2012年中にも導入の予定。』

ブースが地味で、平板な上に展示車両のインパクトの弱さが気になった。ミラージュ、SUVコンセプトともにデザインの新鮮さ、質感、インパクトが乏しく、三菱の今後の発展のためにはデザインの革新が緊急課題だと思わずにはいられなかった。

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NISSAN
『リーフはすでに2万台販売したが、2012年は更なるクルマとインフラの拡充に挑戦する。NISMOは本年全てのレースで優勝、今年は拠点を鶴見に移して一段と注力、今年ニッサンは販売台数480万台を達成する見込み。』

ニッサンのメインブースはEVのみ! 昨今ホンダと比較して元気のいいニッサンだが、正直言ってここまでEVに特化していいのかという疑問が。EVスポーツのデザインは40年前のオリジナルZにも及ばず。ただしNISMOブランドの今後の積極活用には注目したい。

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SUBARU
『安心で愉しいクルマ作りに向けて革新をつづける。BRZ、新型インプレッサに加えてアドバンストツアラーコンセプトを展示するが、このクルマは1.6Lの水平対向直噴ターボエンジンとハイブリッドを組み合わせたモデルだ。』

スバルブースも大変地味で、BRZもメインステージにはおかず、なぜか地味なカラーのモデルを遠慮ぶかく展示していた。BRZデザインはもっとセクシーにできなかったのだろうか? またスバルに軽自動車をあきらめてほしくないと改めて感じたのは私だけだろうか?

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SUZUKI
『スズキの目指すのは、「環境対応性能」と「いきいきしたクルマのある生活」。レジーナはそうした挑戦の一つだし、アルトで実現した優れた燃費技術を他のコンパクトにも展開する。スイフトEV ハイブリッドの開発も順調に進んでいる。』

スズキブースはかなり明るく、それなりの楽しさも演出されていた。好き嫌いは別にレジーナは一つの挑戦だと思うし、EV ハイブリッドの早期実現も期待したい。スイフトスポーツは時代にマッチした一台であり、遠からず評価を行いたいと考えている。

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TOYOTA(LEXUS)
『クルマは単なる移動の手段ではなく夢や感動を与える存在でなくてはならず、わくわく、ドキドキが大切。今の若者はクルマばなれがはげしく、だからこそ"FUN TO DRIVE, AGAIN"はトヨタの決意表明。ものづくりで培った現場力に自信と誇りを持っている。』

今回のショーにおける日本メーカーのブースで一番がっかりしたのはトヨタ、レクサスだった。全体が平板で、暗く、お世辞にも質感があるとは言い難く、 "FUN TO DRIVE, AGAIN"ともつながらなかった。海外からの来訪者の落胆も想像に難くない。ただし休日の86への人だかりは半端ではなかった。それにしても交通費と入場料を負担してくれている来訪者に(他社が全て行っていた)ちらしの配布すら行っていなかったのはなぜだろうか?

以上が今回の国内各社のブースや展示物に対する私の寸評だが、一言でいえばお世辞にも日本メーカーのブランドの世界的な認知を高めることに貢献するものではなく、「世界一のテクノロジーモーターショー」という掛け声は大いに賛成だが、展示の内容はその目標と余りにもかけ離れていた。加えて世界に対して日本の自動車産業の商品、デザイン提案力の弱さをアピールする結果となったように思う。自動車工業会はもとより、国内メーカー各社は襟を正して今後のモーターショーのあるべき姿を真剣に考え直す必要があると感じたし、またそうすることの絶好のチャンスととらえるべきだろう。


以下はセカンドオピニオンとして日本の自動車メーカーで長年海外宣伝のトップをつとめ、多くの海外モーターショーにも関わってこられた室谷行雄さんのご意見をご参考までにお伝えしよう。

『期待して出かけたが、薄暗い節電モード(?)の国内メーカーブースと、素晴らしい質感と仕上がりの欧州メーカーブースの格差を痛感、国内メーカーの対応に激しい憤りを感じた。こんな思いをしたモーターショーは初めてだ。

欧州メーカーの中でもワーゲン・アウディグループのコーナーは群を抜いていた。遠眼にも映える明るいブース、明解な展示コンセプト、高精彩LEDディスプレイを使用したクリアな映像、高級な床材と仕上げの良さ、そしてスポットライトで浮き上がるプロダクトの美しさ、どれを取ってもクルマへの憧れを駆り立てるしっかりとしたブランド戦略が見て取れる。若者のクルマ離れを嘆く日本メーカーの手抜き・コスト削減は、顧客のクルマ離れを加速こそすれ憧れを醸成するにはほど遠い。ブランドに信頼を抱いてもらえるようなユーザー目線のプレゼンテーションが何故できないのか。国内メーカーのコミュニケーション力の向上は緊急課題だ。』


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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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