三樹書房
トップページヘ
syahyo
第38回 第33回輸入車試乗会
2013.2.27

JAIA(日本自動車輸入組合)主催の輸入車試乗会が2013年2月はじめに大磯で開催され、96 台の輸入車が準備された。降雪を心配したが事前に登録したクルマに無事に試乗することができた。今回で33回目を迎えた輸入車が一堂に会するこの合同試乗会は、海外メーカーの最新の商品を、自分の設定した評価コースで相対評価することにより輸入車の進化を知ることができる大変貴重なもので、JAIAとそれを構成するインポーターのご尽力に深く感謝するとともに、日本のメディアやモータージャーナリストのために今後も是非とも継続してほしい。

今回の試乗会後の感想を一言で表すならば、欧州車の進化が一段と加速していること、ダウンサイズしたアメリカ車に脱帽させられたこと、日本のコンパクトカー市場における日本車と輸入車の競合激化が予測されることなどであり、日本車生き残りの為にはクルマづくりの面での一層の奮起が必須であることを改めて痛感した。

2012年の輸入車市場
2012年の外国メーカー車の国内市場における新規登録台数は241,521台と2011年の203,800台、2010年の180,255台を上回った。台数上のトップ3はVW(56,191台)、メルセデスベンツ(41,911台)、BMW(41,102台)で、前年比で増加率の高かったのは、ベンツ(前年比+26%)、BMW (+20%)、ボルボ(+18%)、アウディ(+14%)などだ。

今回短評を加えるモデル(アルファベット順)
BMW 320d BluePerformance Touring Sports..............................511万円
Cadillac ATS.......................................................................439万円
Mercedes-Benz A 180 Blue EFFICIENCY...................................284万円
PEGEOT 208 Aluure.............................................................199万円
Volkswagen Cross Touran.....................................................348万円

04-dai3809.jpg

04-dai3810.jpg

04-dai3811.jpg

04-dai3812.jpg

BMW 320d BluePerformance Touring Sports
「シルキースムーズ」の代表ともいわれた6気筒エンジンがまだ一部に残るものの、4気筒エンジンが主役となった6代目のニューBMW 3シリーズは、昨年2月の国内市場導入後、2L 4気筒ターボ(185 ps、245 psの2種類)、3L 直列6気筒ターボをベースエンジンとするアクティブハイブリッド、2L 4気筒クリーンディーゼルなどバリエーションが拡大してきたが、今回は昨年9月に導入されたクリーンディーゼルエンジン搭載のツーリング(ステーションワゴン)を試乗対象に選択した。

アルミ合金のシリンダーブロックを採用した2L 直列4気筒ディーゼルエンジンは、新世代のコモンレールインジェクションシステム、可変ジオメトリーターボを採用、1750rpmから380Nmの最高トルクを発揮するとともに、8速ATと組み合わせされ、低速から高速まで実に爽快な走りを示してくれた。アイドルストップからの再始動、回転限界の高さに関してはマツダのスカイアクティブDにやや分がありそうだが、トータルビークルダイナミックスはアテンザよりかなり上で、路面の荒れたワインディングロードでのハンドリングや乗り味、路面の凹凸の乗り越えなどに思わずうならされた。

ステアリングホイールの形状、握り感などはアウディ・VWに一歩譲り、メーター周りの質感にもやや「?」マークがつくが、総じて乗ることが実に楽しいクルマに仕上がっており、491万円(今回評価したモデルは511万円)という価格も含めて、国内の3シリーズの販売においてディーゼル比率が高くなることは容易に予想されるとともに、クリーンディーゼルの市場拡大に大きく貢献することになるだろう。実用燃費も含めてアテンザディーゼルとの相対比較の機会を早急につくりたいと考えている。

04-dai3801.jpg

04-dai3802.jpg

04-dai3803.jpg

04-dai3804.jpg

Cadillac ATS
今回試乗した9台の中で私が最もインパクトを受けたのが、2013年北米カーオブザイヤーにも選ばれたキャデラックATSだった。サイズ的にはアテンザより120mmほど全長が短く、BMW 3シリーズに非常に近いコンパクトなモデルで、前後の重量配分が50:50のFRセダンである点も大きな魅力だ。キャデラックのアイデンティティーが明確に盛り込まれた、欧州車、日本車とは一味違う外観スタイルは日本市場にも十分に受け入れられそうだし、これまでのアメリカ車の内装デザインには余りなじめかった私にもATSの内装デザインは魅力的で、質感の作りこみもなかなかのものだ。

米国市場向けにある2.5L 直4、3.6L V6はなく、日本に導入されるのは2L 直噴ターボエンジンのみだが、276psと非常にパワーフルで、1580kgという軽量な車体にも起因して素晴らしい加速性能を発揮、BOSEアクティブノイズキャンセレーションの効果もあってか4気筒のネガティブポイントを感じさせないスムーズで静粛なエンジンに仕上がっていることに驚かされた。動力性能とともに驚いたのがステアリング・ハンドリングだ。オンセンターフィールもよく、そこからハンドルを切りこんだ際のボディーロールもよくコントロールされており、これほどハンドリングの気持ち良いアメリカ車にこれまで接した記憶がない。ロードノイズも良く抑えられ、乗り心地も良好だ。

古典的な「アメリカ車」との決別といってもよいこのモデルがラインアップに加わったこともあり今年1月の米国市場におけるキャデラックの販売台数は過去23年の中でベストとなり、米国市場への適合性の高さを推し量ることができるが、この進化はキャデラックに留まることはなく、GM車全体、ひいてはアメリカ車の小型化の促進とクルマづくりに少なからぬ影響を与えることになるだろう。

04-dai3813.jpg

04-dai3814.jpg

04-dai3815.jpg

04-dai3816.jpg

Mercedes-Benz A 180 Blue EFFICIENCY
3代目のベンツAクラスが大きな変身をした。初代、2代のAクラスがバッテリーや燃料電池の収納も視野に入れたサンドイッチ構造のフロアとなっていたのに対して、FFは踏襲しつつBクラスのプラットフォームを採用、全長は旧型に比べて405mmも伸ばされ4,290mmとなり、全高も160mm下がったワイド&ローの全く新しいプロポーションとなった。現在日本に導入されているのはA 180 Blue EFFICIENCY、A 180 Blue EFFICIENCY Sports、A 250 SPORT(210ps)だが、今回評価したのはA 180 Blue EFFICIENCYで、エンジンは1.6L 直噴ターボ、最高出力は122psと控えめなもので、新開発の7速デュアルクラッチトランスミッションと組み合わされている。

最新のベンツアイデンティティーを盛り込んだ新しいデザインテーマ、必要にして十分な室内居住性、284万円からというベンツとしてはアフォーダブルな価格などを合わせて考えると、A 180 Blue EFFICIENCYは新しい購買層にも間違いなくアピールし、日本はもちろん世界市場におけるメルセデスベンツの販売台数を押し上げることは間違いないだろう。また日本市場における200万円台の輸入プレミアムブランドの拡大は日本車にとっても脅威となることは間違いない。

走りは122psの最高出力から想像できるように、同じ1.6L 直噴ターボでも180psのボルボV40 のような胸のすく走りというわけにはいかず、FFであることにも起因してか、BMW3シリーズに比べると乗り味も取り立てて称賛に値するレベルではない。足回りも期待したほど「しなやかでしたたか」ではなかった。加えて内装デザインは、明るいところでの視認性にやや問題のあるメーター基盤や、目立ちすぎるエアコンルーバーなど、私の心を余り捉えてくれなかった。

04-dai3805.jpg

04-dai3806.jpg

04-dai3807.jpg

04-dai3808.jpg

PEGEOT 208 Allure
プジョー208も、「はっとさせられた」1台だ。プジョー200シリーズの歴史は古くは1929年に遡るというが、日本市場でイメージを確立したのは205からで、その後206、207と進化、今回「リジェネレーション」をコンセプトに登場したのが208だ。プジョーのいう「リジェネレーション」とは基本設計、スタイリング、人間工学、環境対応、ドライビングという広範囲に及ぶものだ。208 Premium、Cielo、Allure、GTとバリエーションも豊富で、エンジンもAllureの3気筒1.2L(82ps)、PremiumとCieloの4気筒1.6L (120ps)、GTの4気筒1.6L (156ps)の3種類が準備されている。評価車両は208 Allureという3ドアHBで、変速機は5MT、全長、全幅、全高こそ5ドアHBと同一だが車両重量は4つのモデルの中で最軽量の1070kgだ。

外観スタイルは豊かな表情の顔周り、インパクトの強いサイドのキャラクターライン、ひと目で分かるテール周りなどなかなか好感のもてるものだが、それ以上にインパクトがあったのは小径ステアリングホイールを中心とした内装デザインだ。ステアリングホイール上方のウィンドスクリーン上に運転に必要な指標を表示するケースはあったが、小径ステアリングホイールを採用してメーターそのものをステアリングホイール上方に配置するという例は私の知る限りは初めてであり、表示数値のサイズがやや小さめという難点はあるが、視認性は良好で、なおかつ楕円で小径のステアリングホイールでクルマをあやつる感覚は新鮮だ。

フリクションロスを徹底的に低減したという1.2L 3気筒自然吸気エンジンによる走りはなかなかのもので、バランサーシャフトの貢献もあってか3気筒故の悲哀を感じる場面はなかった。燃費もJC08モードで19.0km/Lと良好だ。ステアリング・ハンドリング、ブレーキ共にコントロール性がよく、大変気持ち良く走ることが出来た。199万円という価格は大きなアピールポイントだが、Allureは3ドアHB、5速MTしか設定がないので市場は非常に限られそうで、売れ筋は1.6Lエンジン搭載の4ドアHBとなるだろう。

04-dai3817.jpg

04-dai3818.jpg

04-dai3819.jpg

04-dai3820.jpg

Volkswagen Cross Touran
遊び心満載というよりは質実剛健なコンパクトミニバンと言った方がよかったゴルフトゥーランに、アクティブなライフスタイルの購買層にアピールする遊び心を加えたクルマがクロストゥーランだと言ってもいいだろう。前後フェンダーにSUV風のオーバーフェンダー、サイドスカート、前後バンパーをつけ、最低地上高を10mmアップしているが、4輪駆動ではない。パワートレインは1.4L TSIエンジン(インタークーラー付きターボ&スーパーチャージャーで140psを発生)と7速DSGを組み合わせたものだ。サードシートの格納に加えてセカンドシート三席を個別に簡単に取り外すことができるのは便利で色々な荷物も積み込める。自転車を分解せずに搭載できるのもうれしい。

当日の朝一番、あまり大きな期待をせずに乗り始めた瞬間、そのドライビングフィールの良さに脱帽したのがこのクルマだった。セミオフロード風に見えるが、ステアリング・ハンドリング、乗り心地、ロードノイズの低さなど、走行中の動的質感はすばらしく、ミニバンクラスの中では突出していると言ってもいいだろう。フル積載も考慮されているはずのこのクルマを一人乗りで走った山間部凸凹路での足まわりのしなやかさとしっとり感には驚かされた。また1250rpmから220Nmの最高トルクを発揮する1.4L TSIエンジンと7速DSGを組み合わせたパワートレインが車両重量1580kgのクルマをあらゆる速度領域で全く不足なく引っ張ってくれるのもうれしい。価格は340万円で、走りも楽しめるミニバンを求めている方にはぜひとも検討をおすすめしたい1台だ。

このページのトップヘ
BACK NUMBER

【編集部より】 車評オンライン休載のお知らせ

第128回 私のクルマ人生における忘れがたき人々 ポール・フレールさん

第127回 私のクルマ人生における忘れがたき人々 大橋孝至さん

第126回 コンシューマーレポート「最良のクルマをつくるブランドランキング」

第125回 三樹書房ファンブック創刊号FD RX-7

第124回 日本自動車殿堂入りされた伊藤修令氏とR32スカイラインGT-R

第123回 日本自動車殿堂(JAHFA)

第122回 コンシューマーレポート信頼性ランキング

第121回 マツダ MX-30

第120回 新型スズキハスラー

第119回 急速に拡大するクロスオーバーSUV市場

第118回 ダイハツTAFT

第117回 私の自動車史 その3 コスモスポーツの思い出

第116回 私の自動車史 その2 幼少~大学時代の二輪、四輪とのつながり

第115回 私の自動車史 その1 父の心を虜にしたMGK3マグネット

第114回 マツダ欧州レースの記録 (1968-1970) その2

第113回 マツダ欧州レースの記録 1968-1970 その1

第112回 私の心を捉えた輸入車(2020年JAIA試乗会)

第111回 東京オートサロンの魅力

第110回 RJC カーオブザイヤー

第109回 私の2019カーオブザイヤーマツダCX-30

第108回 大きな転換期を迎えた東京モーターショー

第107回 世界初の先進運転支援技術を搭載した新型スカイライン

第106回 新型ダイハツタントの商品開発

第105回 躍進するボルボ

第104回 伝記 ポール・フレール

第103回 BMW M850i xDrive Coupe

第102回 日産DAYZ

第101回 Consumer Reports

第100回 2019年JAIA試乗会

第99回 東京モーターショーの再興を願う

第98回 2019年次 RJCカーオブザイヤー

第97回 ニッサン セレナ e-POWER

第96回 クロスオーバーSUV

第95回 大幅改良版 マツダアテンザ

第94回 新型スズキジムニー(その2)

第93回 新型スズキジムニー

第92回 おめでとうトヨタさん! & RINKU 7 DAYレポート

第91回 名車 R32スカイラインGT-Rの開発

第90回 やすらかにおやすみ下さい 山本健一様(最終回)

第89回 安らかにおやすみ下さい 山本健一様(その3)

第88回 やすらかにおやすみください。山本健一様(その2)

第87回 ”やすらかにおやすみください。山本健一様”

【編集部より】 車評オンライン休載のお知らせ

第86回 ルノールーテシア R.S.

第85回 光岡自動車

第84回 アウディQ2 1.4 TFSI

第83回 アバルト124スパイダー(ロードスターとの同時比較)

第82回 スズキワゴンRスティングレイ(ターボ)

第81回 最近の輸入車試乗記

第80回 マツダRX-7(ロータリーエンジンスポーツカーの開発物語)の再版によせて (後半その2)

第79回 RX-7開発物語再版に寄せて(後編その1)

第78回 RX-7開発物語の再版によせて(前編)

第77回 ダイハツムーヴキャンバス

第76回 ニッサン セレナ

第75回 PSAグループのクリーンディーゼルと308 SW Allure Blue HDi

第74回 マツダCX-5

第73回 多摩川スピードウェイ

第72回 ダイハツブーン CILQ (シルク)

第71回 アウディA4 セダン(2.0 TFSI)

第70回 マツダデミオ15MB

第69回 輸入車試乗会で印象に残った3台(BMW X1シリーズ、テスラモデルS P85D、VWゴルフオールトラック)

第68回 新型VW ゴルフトゥーラン

第67回 心を動かされた最近の輸入車3台

第66回 第44回東京モーターショー短評

第65回 ジャガーXE

第64回 スパ・ヒストリックカーレース

第63回 マツダロードスター

第62回 日産ヘリテージコレクション

第61回  りんくう7 DAY 2015

第60回 新型スズキアルト

第59 回 マツダCX-3

第58回 マツダアテンザワゴン、BMW 2シリーズ、シトロエングランドC4ピカソ

第57回 スバルレヴォーグ&キャデラックCTSプレミアム

第56回 ホンダ グレイス&ルノー ルーテシア ゼン

第55回 車評コースのご紹介とマツダデミオXD Touring

第54回 RJCカーオブザイヤー

第53回 スバルWRX S4

第52回 メルセデスベンツC200

第51回 スズキスイフトRS-DJE

第50回 ダイハツコペン

第49回 マツダアクセラスポーツXD

第48回 ホンダヴェゼルハイブリッド4WD

第47回 ふくらむ軽スポーツへの期待

第46回 マツダアクセラスポーツ15S

第45回  最近の輸入車試乗記

第44回 スズキハスラー

論評29 東京モーターショーへの苦言

第43回 ルノールーテシアR.S.

論評28 圧巻フランクフルトショー

論評27 ルマン90周年イベント

第42回 ボルボV40

第41回 ゴルフⅦ

第40回 三菱eKワゴン

論評26 コンシューマーレポート(2)

論評25  コンシューマーレポート(1)

第39回  ダイハツムーヴ

第38回 第33回輸入車試乗会

第37回 マツダアテンザセダン

第36回 ホンダN-ONE

第35回 スズキワゴンR

第34回 フォルクスワーゲン「up!」

第33回 アウディA1スポーツバック

第32回 BRZ、ロードスター、スイフトスポーツ比較試乗記

第31回 シトロエンDS5

第30回 スバルBRZ

第29回 スズキスイフトスポーツ

第28回 SKYACTIV-D搭載のマツダCX-5

論評24   新世代ディーゼル SKYACTIV-D

第27回 輸入車試乗会 

論評23 モーターショーで興味を抱いた5台

論評22 これでいいのか東京モーターショー

論評21 日本車の生き残りをかけて

執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

関連書籍
ポルシェ911 空冷・ナローボディーの時代 1963-1973
車評 軽自動車編
トップページヘ