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第107回 世界初の先進運転支援技術を搭載した新型スカイライン
2019.9.30

初代スカイラインが導入されたのが62年前の1957年、今回の「新型」スカイラインは2014年に導入された13代目のビッグマイナーチェンジ版で、3L V6ツインターボを新規に搭載、その400馬力バージョン(400R)もラインアップするとともに、ハイブリッドモデルには3.5 LV6エンジンを使用、同一車線内でハンドルから完全に手を放すこと(ハンズオフ)が可能となる世界初の先進運転支援技術「プロパイロット2.0」が標準装備された。今回日産自動車の御協力により先進運転支援技術の説明会と公道試乗会が行われ、「プロパイロット2.0」の先進性、精度、安全性への貢献の可能性を体感、将来のクルマの在り方を考える貴重な機会を得ることができたので以下ご報告したい。

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スカイラインの歴史と思い出
スカイラインはプリンス自動車時代の日本を代表するモデルとして1957年に初代が導入され、その後1966年に日産とプリンスが合併後も日産のイメージリーダーカーとして永年にわたり継続されてきたが、1989年に導入されたR32 GT-Rはその代表ともいえる1台だ。初代スカイラインは大学時代の友人が所有していたのでクルマ好きの仲間たちと各地へドライブしたことが懐かしいが、上記の写真はたまたま1960年、正丸峠にドライブした時のものだ。またマツダにおいて3代目RX-7の開発責任者だった折に導入されたR32 GT-Rは、RX-7プロジェクトで早速購入して一般道はもちろん、サーキットも含めて思う存分に試乗、RX-7の目指した方向とは異なるものの、ポテンシャルと志の高さにプロジェクトメンバー全員が敬服、非常に大きな刺激を与えてくれた。

スカイラインの国内販売台数は4代目の5年のライフサイクル中で67万台強、5代目の4年のライフサイクル中の54万台弱あたりがピークで、その後次第に低下、現在は大半がインフィニティブランドとして海外で販売されており、国内販売は年間4000台程度と少なく、「新型」スカイラインも国内月販計画が200台前後と少ないのが大変残念だが、今回の大幅なテコ入れにより導入初期とはいえ目標販売台数を大きく上回っていることに拍手を送りたい。

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新型スカイラインの概要と課題
新型スカイラインは見た目も中身も大きく変更が加えられている。まずベースモデルにはこれまでのダイムラー製2Lターボにかわり、輸出用のインフィニティQ50に搭載されてきた日産製の3LのV6ツインターボエンジンが搭載され、その高性能バージョン400Rはスカイライン史上最強の400馬力を実現している。

一方「プロパイロット2.0」が標準装備されるハイブリッドモデルは3.5L V6の自然吸気エンジン(最高出力306馬力)が搭載され、更に出力68馬力のモーターが加えられる。価格はベースモデルが420万円台~480万円台、400Rが552万円、ハイブリッドが570万円~600万円台だ。今回はベースモデルと400Rには試乗することができなかったが、遠からず是非試乗してみたいモデルだ。現時点の受注実績によると52% がターボモデルで、そのうち約半数が400R、残りの48%がハイブリッドモデルとのこと。

デザインはフロントに日産ブランドの象徴「Vモーショングリル」、スカイラインのアイコンともいえる「丸目4灯リヤコンビランプ」を採用、これまでのモデルに比べて一目でスカイラインと分かるデザインとなったが、若干気になるのは外観スタイルの「プレミアム感」が必ずしも十分とは言えないことだ。内装は、デザイン、使い易さ、質感とも十分と言えるものになっている。

今回の試乗の焦点は「プロパイロット2.0」で、走行条件も高速道路に限定されたが、、動力性能はモーターアシストに加えてエンジンのレスポンスも良くスムーズで、プレミアムセダンとして大変好感が持てた。ハンドリングもステアリングの動きを電気信号におきかえ、ステアリングアングルアクチュエーターを作動させてタイヤを操舵する「ダイレクトアダプティブステアリング」が貢献してか、非常にスムーズ、リニア、かつ正確なことにも感銘した。乗り心地もハイブリッドモデルに標準装備される「ダブルピストンショックアブソーバー」により微小振動も有効に抑えられるためか、高速道路の凹凸も全く気にならなかった。

「プロパイロット2.0」にはこのあと触れるが、スカイラインの最大の課題は低迷する日本のセダン市場にいかに再挑戦するかということだろう。路上で一番目に付くセダンはトヨタクラウンのタクシーで、あとはベンツ、BMW、レクサスなどのプレミアムブランドが多い。国産のスポーツセダン、ファミリーセダン市場が極端に縮小しているなかでスカイラインが今後どのような販売動向を示すかは非常に興味深く、導入初期の勢いが継続されることを願う。その意味でも意義深いのがこのあとご紹介する「プロパイロット2.0」だと思う。

一方で、この度導入されたベンツのAクラスセダンは、サイズ、動力性能などでスカイラインと競合するクルマではないが、不足のない室内居住性、荷物積載性、魅力的な外観スタイルを備えながら価格は344万円からとスカイランよりは大分安く、何よりも「ベンツとしての存在価値」により、かなりなヒット商品となりそうな予感がする

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プロパイロット2.0
「プロパイロット2.0」は、高速道路の複数車線を、ナビゲーションと連動して設定したルートを走行し、「3D高精度地図データがあり、中央分離帯があり、制限速度内」ならば、ドライバーが前方に注意して状況に応じてハンドルを操作できる状況下においては、完全にハンドルから手を放した状態での(ハンズオフ)走行が可能となる世界初の運転支援システムだ。

従来のプロパイロットが同一車線内での運転支援機能であったのに対して、「プロパイロット2.0」では前方の車両の速度が遅い場合にシステムが追い越し可能と判断すると、ディスプレーと音でドライバーに追い越しを提案、ドライバーがハンドルに手を添えてスイッチ操作すると右側への車線変更を自動で行い、追い抜きが完了すると同様の操作で元の車線に戻る。また設定ルート上の高速道路出口に近づくと、ディスプレーの表示と音でドライバーに知らせ連絡路に分岐後ナビ連動ルート走行を終了するというもので、高速道路走行には大変便利な運転支援システムだ。尚「プロパイロット2.0」はハイブリッドモデルに標準装備されるが、その他のモデルには搭載されない。

「プロパイロット2.0」のキー技術
「プロパイロット2.0」のキー技術としては、
➀ 3D高精度地図データ
➁ 7個のカメラ、5個のミリ波レーダー、12個のソナーなどの最新の高性能化されたセンサーによる白線、標識などの認識と、周辺車両の360度センシング
➂ リアルタイムに分りやすい情報表示、操作しやすい操作系、ドライバーモニターによりドライバーを監視するインテリジェントインターフェイス
などがある。

試乗時の印象
今回は短時間の試乗ではあったが、まずはレーンキープの精度の高さには脱帽した。これまで試乗したことのある運転支援機能の場合、レーンキープはしてくれるものの、その精度に関してはどうしても違和感がぬぐえなかったのとは大きな違いだ。また「遅い車の追い越し」もシステムから提案が出た際にハンドルに手を添えながらハンドル上のスイッチを押すだけで車線を変更してくれ、非常に安心して走れることが体感できた。高齢者や、普段あまりハンドルを握らない家族の運転時などに対する安心感も大きくなりそうだ。今回体験は出来なかったが、停止保持機能が3秒から30秒になったメリットも大きそうだ。

混雑した高速道路における長距離走行におけるこのシステムのメリットは大きく、ドライバーの疲労削減、更には事故削減にも間違いなく貢献するはずであり、何らかの方法で事故率低減の予測が出来れば、このシステムの普及に大きく貢献するのではないだろうか。また今後色々な車種に拡大展開してゆくためには、システムの更なる進化とコストダウンが大きな挑戦課題だと思うが、日産は必ずなし遂げるものと確信する。

現時点では3D高性能地図データの対応上「プロパイロット2.0」の導入は日本市場に限られているようだが、今後は順次海外市場にも導入されることになるようで、例えばアメリカの長距離ドライブなどでは日本以上の有難みが感じられることは間違いなく、先進運転支援技術は日産の大きな財産になってゆくものと確信する。

今後への希望
以下ささやかな希望を何点か申し添えたい。
➀音声認識機能をもう少し拡大してほしい(例えば、「前方に遅い車がいます。今なら安全に車線変更できます。ご希望ならスイッチを押してください」などと音声でも知らせる)
➁高速道路料金所接近時などの減速時の違和感を何とかもう少し改善する。
➂法令上やむを得ないことは分かるが、この運転支援機能を活用できるのは法定速度+10km/h程度のようで、それをもう少し広げることにより高速道路の実際の流れとのギャップを縮小できることは間違いなく、何らかの対応を期待したい。
➃またこのようなシステムの定着のためには販売店におけるユーザー教育やプロモーションも欠かせない思うので、購入を希望されるお客様への実車デモや、購入いただいたお客様への同乗アドバイスなどが出来ればユーザーのこのシステムへの理解を急速に高めることができるのではないだろうか?

最後に
今回の日産の説明、試乗イベントは非常に意義が大きく、改めて心から感謝しつつ今月の車評オンラインを締めくくりたい。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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