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論評28 圧巻フランクフルトショー
2013.10.29

東京モーターショーが間近に迫った。前回の東京モーターショーにおける日本メーカーの展示は、あたかも日本メーカーの将来に対する不安を醸成するような貧しさで、欧州メーカーとのモーターショーに対する取り組みの格差を見せつけられたが、先月久しぶりに出向いたフランクフルトモーターショーでその思いは一層拡大した。以下前回の東京モーターショーの印象サマリーと、今回のフランクフルトショーの代表メーカーブースの印象を簡単にご紹介したい。果たして今回の東京モーターショーの行方はどうなるだろうか?

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2年前の東京モーターショーに関する私の印象のエッセンスは以下の通りだ。「1991年には200万人を超えた入場者数は前々回には61万人にまで減少、前回は東京ビッグサイトへの会場移転にも起因してか84万人とやや回復はしたが、日本車の展示の質の低さ、新しい商品・技術提案の貧しさ、夢をかきたててくれるクルマの少なさなど、日本の自動車産業の将来を予見させるようなものとなり、欧州メーカーとのブランドに対する思い入れやモーターショーに対する取り組みの格差を痛感した。海外からの来訪した知人のジャーナリストが、『こんなショーなら半日で十分だ』といったのが今でも忘れられない。」

日本の自動車メーカーで長年海外宣伝の中核をつとめ、多くの海外モーターショーにも関わってきた方から2年前にいただいたコメントは以下のようだった。「期待して出かけたが、薄暗い国内メーカーブースと、素晴らしい質感と仕上がりの欧州メーカーブースの格差を痛感、国内メーカーの対応に激しい憤りを感じた。若者のクルマ離れを嘆く日本メーカーの手抜き・コスト削減は、顧客のクルマ離れを加速こそすれ憧れを醸成するにはほど遠い。ブランドに信頼を抱いてもらえるようなユーザー目線のプレゼンテーションが何故できないのか。国内メーカーのコミュニケーション力の向上は緊急課題だ。」

さて今回の車評オンラインではフランクフルトモーターショーにおけるドイツ系各社のブースの写真を中心に手短にご紹介しよう。各社ともEV、ハイブリッド、自動運転システムなどに注力する一方で、インパクトのある新型車の提案は少なかったが、展示のスケール、展示に対する投資、モーターショーにかけるメーカーの情熱は半端なものではなく、今回の東京モーターショーにおける日本車ブースとの比較が非常に興味深い。

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まず今回のフランクフルトショーの中で最もインパクトのあったベンツの展示をごらんいただきたい。この3階建てのブースには合計で65台ものベンツが展示されるとともに、入口からの入場者が会場を一方通行で全て回れるように設計されており、混雑の激しい休日でも動線がスムーズだった。建物内の誘導路を通ってメインステージに入る各種新型車のデモは見ごたえのあるもので、各フロアーに展示されている車両の見取りも容易だ。総じてベンツの展示はブランドと商品体系を情熱的に訴求する大スケールのもので、日本車メーカーにもその心をぜひ見習ってほしいものだ。

ベンツにとっては高級大型車が大切な商品群であることに変わりはないが、私の目に新鮮に映ったのは新型Aクラスのバリエーション展開だった。4ドアクーペといっても良いCLAはFFコンパクトカーとは思えないプレミアム感と魅力にあふれ、価格も含めて日本でもヒットする可能性は大きく、またGLAと呼ぶクロスオーバーカーもグローバル市場で人気モデルとなりそうだ。加えてインフィニティとの協業にも前向きで、Q30がAクラスのプットフォームを活用したモデルであるというのも大変興味深い。

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次に目を見張ったのがBMWのブースだ。常設館の室内をぐるぐると回る「室内ハイウェー」とでも呼べそうなデモ走行路をショーのために建設し、その上を色々なBMWがかなりな速度で走りまわるのには驚かされた。私の写真がお粗末で、そのスケールやインパクトをお伝えできなのが残念だが、この「室内ハイウェー」の建設費は半端ではないはずだ。たまたま観覧席で待機中にメルケル首相がBMWブースを訪れ、i3に乗り込んで感想をのべ、観衆を前にスピーチを行う場面に出くわしたが、首相は全てのドイツメーカーブースを訪れたようで、自動車産業に対する日本の為政者の対応との大きなギャップを感じずにはいられなかった。

BMWの展示車両の中核は、今年末に発売される電気自動車i3とその後導入予定のi8だったが、BMWはこれらのEV生産工場のために500億円を投資、またEV購入者には長距離ドライブ用にBMW一般車両の安価なレンタルシステムも導入するとのこと、なかなかのアイディアだし、BMWのEVへの注力が半端ではないことが分かる。新型X5もこのショーでデビューしたが、インパクトは限られたものだった。

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アウディの展示ブースは常設館ではなく、広い広場にこのショーのためだけのために建設された平屋の建造物だが、広さはかなりなもので、館内のデザインや装飾もなかなかインパクトのあるものだった。ただしベンツ館に比べて人の流れに対する配慮が少ないためか、あるいは一旦入場した人たちの滞留時間が長い為か、休日には実に長い入場待ちの行列ができていた。前回の東京モーターショーで最も魅力的な展示をしてくれたのがアウディだったので、今回もどのような展示をしてくれるかが楽しみだ。

アウディ展示車両の中で私が最も共感を覚えたモデルはA3カブリオで、大変魅力的なクルマに仕上がっていた。日本市場でもかなりなファン層を捕まえることができそうだ。反対に共感を覚えなかったのが、スポーツクワトロコンセプトで、プラグインハイブリッドで700馬力の出力といえば性能的には驚異的だと思うが、昨今のアウディデザインの停滞とジレンマをそのまま表しているような外観デザインにはがっかりした。

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フォルクスワーゲングループにはアウディ、ポルシェ、ベントレー、ランボルギーニなどもあるが、ここではシュコダとセアトにのみに触れたい。戦前オーストリー・ハンガリー最大の自動車メーカーであったシュコダは戦後チェコの国有メーカーとなったが、1991年、フォルクスワーゲングループに入り、一方のセアトは戦後にスペインにフィアットの系列会社として誕生したが、1993年にはVWの完全子会社となった。両ブランドともVWのコンポーネントをフル活用、近年デザイン面でも大きく進化し、いずれも魅力的なラインアップとなってきた。今回のショーでは写真のように非常に大きなスペースをこれらのブランドのためにさき、VWも含めて統一した質感と仕上がりの大変魅力的なブースなのが印象に残った。

VWの新型車で私の心をつかんだのはEVではなく、従来のゴルフプラスにかわるモデル、ゴルフスポーツバンだ。3列シートではないが、後席居住性は素晴らしく、また一般的なバンとは一線を画したレイアウトや使い勝手に加えて、ゴルフセブンの流れをくんだ魅力的なデザインが特徴だ。ある意味では理想的なファミリーカーということも出来そうだし、今後これをベースにしたクロスオーバーなどの派生車も期待したいところだ。

以上がドイツメーカーの展示の一部だが、単にスケールが大きいというだけではなく、入場者目線でのプレゼンテーション、展示への情熱、強いブランドメッセージの発信などが共通してみられ、日本車のブースとは大きなへだたりを感じたのは私だけではないだろう。以下日本車の展示に関する一ことコメントで締めくくりたい。

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トヨタブースは「ハイブリッド」一色だった。トヨタがハイブリッドの世界をリードしてきたことに疑問をさしはさむ余地はないし、欧州市場に更なる浸透を図りたいという意図も分かるが、それだけではトヨタの繁栄が継続できないことは明らかで、デザインを含む総合的な商品魅力の向上とブランドの確立も急務だ。またレクサスのコンセプトSUVには思わず目を疑ったのも事実で、あのデザインをみて、苦戦する欧州におけるレクサスブランドの今後に確信を抱いた人が果たしてどの位いるだろうか。

ホンダブースもNSXが展示されてはいたものの統一感とインパクトに乏しく、このショーでデビューを果たしたシビックツアラーのデザインには大きな疑問を抱かざるを得なかった。スバルWRXのコンセプトカーは好感がもてたが、ブース全体としては同じく統一感とインパクトに乏しかった。展示に疑問を持ったのは三菱だ。部品館の中の中国長安自動車の大きなブースの前に、アウトランダーと2台のi Mievを並べた今回のショーのなかでは最小スケールの展示を見て、三菱にポジティブなイメージを持った人が果たして何人いただろうか? そんな中で比較的良かったのはマツダブースで、新規導入のマツダ3を前面に押し出し、展示車両のカラーを統一、休日のブースの人だかりが日本メーカーの中で一番多かったのが印象に残った。

最後に私の心をとらえた一台をご紹介しておきたい。スズキブースの隅を飾っていたスズキの軽ターボエンジンを搭載したケーターハムスーパー7で、日本では軽自動車としての登録が可能なクルマだ。スズキの販売チャンネルでは取り扱えないモデルかもしれないが、今回の東京モーターショーでは是非ともスズキブースへの展示を期待したい。このスポーツカーの原点ともいえるモデル、更には展示が予定されている、新しく復活するダイハツコペン、ホンダ軽スポーツなどでクルマ好きや若者の心を是非ともかきたててほしいからだ。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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