2017年6月アーカイブ

 江戸時代の平均寿命を考えると、当時のおじいさん、おばあさんはいったい何歳になるのか、もしかしたら4.50代かもしれない、という気もしてきます。自分も江戸時代だったらおばあさん......きっと今と時間の流れ方が違うんだと思いたいところです。
 『春画で読む江戸の性愛』(白倉敬彦著・洋泉社)を拝読すると、そこには年齢を感じさせないほどお盛んな老女の姿が生き生きと描かれていました。
 若い男が夜這したら、間違えておばあさんの部屋に入ってしまったというシチュエーションが当時あったようです。「好色土用干」には、逃げようとする若い男を両足でホールドして逃がすまいとする老女の絵が描かれています。髪は白髪まじりで、お腹には何重にもしわが。困っている若い男性と対照的に、目尻が下がっていてエロ目の老嬢。
 若い役者を買う老女もいたそうです。経済力と生命力がありあまっているのでしょうか。
「色ばばあしみしんじつにかわゆがり」
 という川柳には、若い男子を心底かわいがる「色ばばあ」が描かれています。現代でも、何十歳も下のダンサーを寵愛する女性歌手とかたまにいますが、当時は今のような高機能のコスメや整形もなかったので、老女はかなり年齢感がにじみ出ていたと拝察されます。
 「ばあさまの汁けで孫にもりをさせ」
 という句もありました。あまりにも性的におさかんな老女は、そのエネルギーを孫のお守りで発散させた方が良い、という......。色気ではなく「汁け」と表現しているのに、あきれている感じが出ています。
「おばばへこへこの気があるでむづかしい」
という句の「へこへこ」というのは腰を動かす擬態語でしょうか。老いてもまだ性欲がある様子を書いた句です。おばあさんになって能動的に腰を動かせるなんて、江戸時代の女性のスタミナはすごいです。
 夫に先立たれると、老女は性エネルギーを持て余しがちですが、老夫婦の場合はどうなのでしょう。
 「うらやんで爺を起こすしうとばば」
 という句は、隣の部屋でおっぱじめた若夫婦に触発される姑の姿を描いています。「艶本色見種」によると、その後、老女の夫は思うように持続せず、「若い時、五晩続けたことを思い出さしやれ」と老女は欲求不満をにじませていたようです。老夫婦の性を充実させるためには、滋養強壮の薬や性具がマストでした。
 本の中では、江戸時代のシニアのセックスの必殺技が紹介されていました。「さしまくら」という小咄本で図入りで紹介されているとのこと。男性側は「陰茎によりを掛ける」、ねじってあてがいます。女性は直前に、茶碗を裏返してカポッと性器に当ててねじります。そうすると中の圧力が高まってバキューム力が出るのでしょう。そして合体すると、ねじった男性器が戻る力でドリルのように侵入という、涙ぐましいテクニックです。準備の段階で萎えてしまいそうですが......。あきらめないで夫婦生活を持続させようとする努力はすばらしいです。後世の参考にさせていただきます。

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参考文献:『春画で読む江戸の性愛』(白倉敬彦著・洋泉社)