第31回 江戸女子のあの日

 女性の人生は生理のバイオリズムとともにあります。江戸時代の女子の生理事情はどうだったのでしょう。今回は『江戸の女たちの月華考』(渡辺信一郎著・葉文館出版)という、生理をテーマにした一冊から川柳を引用し、江戸女子のあの日の過ごし方に思いを巡らせます。
 
 「七日にて済めばめでたき汚れ也」
 江戸時代の日本人はお盛んだったので、生理の七日間は禁欲を強いられる、という感覚だったようです。男女の間で、今はダメとか、もう開けたとか、それとなく知らせて終わったらめでたく合体という、現代の性欲減退した日本人からすると異国の話のようです。
「月の内たった七日をぶっつくさ」
「ぶっつくさ」はぶつぶつ言う、の意味です。「ぶつくさ」の原型でしょうか。女性側の気持ちだと思ったら、どうやら男性の思いを綴った川柳のようです。
「七日斗(なぬかばか)なんのこったと女房言い」
奥さんの意見としては、毎晩性生活に励んでいるのだから七日くらい休ませて、という......。夫は悶々とする七日間です。江戸時代の人のバイタリティに驚かされます。
 ところで、生理用品はどういうものを使っていたのでしょう。高分子ポリマー吸収体的なものはない時代ですが、ケミカルではないオーガニックなものを使っていたので体に負担が少なそうです。
「嫁紐と半紙二枚こそと出し」
和紙や半紙を重ねて折りたたみ、紐を通して脇腹のあたりで結ぶ、というのが基本のスタイルでした。奥さんがそっと生理用セットを出しているのを好奇心旺盛な夫が盗み見ている情景です。庶民は「浅草紙」という安くて品質の悪い紙を使っていました。
「乗り初めに駒の手綱を母伝授」
月経は「馬」という隠語でも呼ばれていました。半紙のたたみ方、紐の付け方を娘に教える母の姿。行程が多くて難しそうです。
「血が出ると毛を三本抜く馬鹿娘」
当時、鼻血が出たら後頭部の毛を三本抜くと止まる、というおまじないが信じられていました。予期せぬ出血で慌てた若い娘が毛を三本抜いたけれど止まらなかった、という句です。
「女同士お客と言えば通用し」
 江戸時代は生理を「お客」とも呼んでいました。夫に体を求められた妻が、お客だと言って穏便に断ったり、女同士の会話では「お客なの」で通じ合ったり、さり気なくて良い言葉です。
「あれさまだ汚れているとふりつける」
早く夫婦の営みがしたくてたまらない夫に対し、まだ汚れるからダメ、と軽くいなす妻。
「御亭主は六日のあたりで願って見」
奥さんが生理になって我慢し続け、六日目だけどなんとかお願いします、と懇願する亭主。セックスレスという言葉とは無縁で、かまわずいたしてしまう場合も多かったようです。
「湯に入って来なよ私が罰になる」
 月経は穢れで行為後には体を清めないと罰が当たると信じられていました。終わった後、女性がお清めを薦めています。お風呂で済むのなら気軽にできます。
 十五夜にお月見団子を作る時は、月経中の女性は穢れているので団子作りには関われないという暗黙のルールもありました。
「お丸めなハイ私は私は」
 団子を丸めるように姑に言われて、恥ずかしそうに「私は私は......」と生理をほのめかすお嫁さん。そして結局
「姑に月見挽かせる気の毒さ」
と、お姑さんが団子を作る流れになりました。老体に鞭打って石臼を挽くお姑さん。月見団子の風習がなくなって良かったのかもしれません......。
「月々に女の休む日はあれど」
 江戸時代の女性は働き者でしたが、生理の七日間は重労働からは身を引いていました。現代は生理休暇はあっても、ほとんどの人は使わず、ふだんと変わらず働きまくっている女性が多いのではないでしょうか。バイオリズムに逆らわず、休むときはちゃんと休むことが大切だと江戸時代の先人に教えられたようです。体を大切にすれば内側からパワーがわいてきて、性生活を含めて充実しそうです。

20170426edo31.jpeg

参考文献:『江戸の女たちの月華考』(渡辺信一郎著・葉文館出版)