三樹書房
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第1回 ブランド構築におけるデザインの重要性
2019.3.25

「ブランド」と「デザイン」は切り離せない関係にある。
現在、世界中の自動車メーカーはブランドを構築するためにデザインを戦略的に活用している。既にブランドを獲得しているドイツの御三家(メルセデスベンツ、BMW、AUDIとVW)をはじめ、欧州メーカーではVOLVO、ジャガーなども、インドや中国の資本が入っても自社のブランドを強調するデザインを戦略的に構築して成功している。一方アジアでは韓国メーカーのKIAがデザイナーを社長に迎え、同様のデザイン戦略で米国等でのブランドの地位を獲得しつつある。
その点では、日本ではマツダがその先頭を走っているといえる。
では何故、ブランド構築が必要なのか?
ブランドとは、一般的に、顧客とメーカーの信頼関係をあらわす考えである。顧客はブランドが強いメーカーの商品は高品質で安心して長く使えることや、ブランドを認知している周りの人からも『良い品を使われていますね』とみられて、優越感も保つことができる。さらにはブランドの活動そのものに、共感を得ることもある。昨今企業のCSR(カンパニー・ソーシャル・レスポンシビリティ)活動には、顧客からも注目が集まっている。CSR活動は企業の人格と言っても過言ではないからだ。
ブランドが重要視されるようになってきた背景には2つの要因が考えられる。
ひとつ目は、技術の進歩が進んではいるが、それぞれの分野での品質が向上して基本的な用途や性能には大きな違いが見られないこと。どの商品を購入しても満足する利用価値は、ほぼ均等に得られるようになった。商品の違いは、デザイン、そしてブランド価値となっている。
ふたつ目は、近年の消費傾向が、昔のように大量生産大量消費ではなく、良い物を長く使うマインドに変わってきた。余計なものを持たない身軽なライフスタイルも浸透して、整理整頓や、ダンシャリなどが賢い生き方になってきている。
このような背景もあり、日用品から、大物品まで、ブランド構築が非常に大切になってきている。自動車メーカーもその例にもれず、顧客に対する自社ブランド価値の確立(ブランドの構築)が重要になってきているのだ。
しかし、ブランド構築は一日にしてならず......。
ブランド構築は、非常に時間がかかり難しいことである。
ブランドの価値は顧客が決めるもので、自動車メーカーが勝手に言えるものではないからである。
自動車メーカーの歴史とともに現在のサービス、そしてメーカーが発信する将来の展望まで含めた、全ての情報から、顧客が判断するのがブランドである。もちろん、周りには無数のライバルがいる中で、比較も日夜行われ、優越が付けられている。気を抜くことはできない。
一度、ブランド構築が出来てしまえば、認知度が増すばかりではなく、デザインが多少物足りなくても、ブランドで購入する顧客もたくさん出てくる。顧客から気に入って頂ければ自動車メーカーと顧客のあいだには深い"きずな"が生まれ、継続的に同じブランドを購入される可能性も高くなる。ロイヤルカスタマーの誕生である。
では、自動車メーカーはどのような戦略を持ってブランドの価値を高め、構築して行くのか?
まずは、広告宣伝。一番顧客の認知を高められるのは、メディアで良いイメージや、購買意欲を高められる宣伝をすること。よく目にするのは、TVコマーシャルや、鉄道移動時のポスターや新聞・雑誌広告等。
その商品や、メーカーの優れた特徴を簡潔に宣伝することで、顧客に認知させ、使ってみたいと思わせることを目的としている。
最近では、別のビジネスパートナーとのコラボレーション商品も、相互の利益を高めるために企画されるケースもある。ダブルネームとも言われる商品企画である。
専門雑誌での企画も、顧客の夢を拡張させるために自動車メーカーがタイアップして実施することもある。
これらの活動はイメージ戦略であり、"モノ"と言うよりは、"コト"、その商品を手に入れると、何が価値として自分に満足やメリットが得られるのか? これを顧客に伝える、理解して頂く手法である。
しかし、一番重要なのは、商品そのものの魅力である。いくらイメージが良くても実際に使ったら、思っていた価値が得られないのであれば......逆にブランドの崩壊につながる。その逆に自分が情報として得たイメージより、満足感が高かったら! それがブランド形成になり、ロイヤルカスタマー誕生!になるのだ。
顧客が持ったイメージよりも良い商品を創り、ブランド化させることには、そのメーカーが持つ他社にない優れた機能、いわゆる「勝ち技」を構築し磨き上げること。そしてその勝ち技(わざ)を一目見て顧客に分かって頂ける『デザイン』構築が重要なのだ。
各自動車メーカーが独自のデザインにチカラを入れるのは、ブランド構築のための重要な戦略なのである。
独自のデザイン構築には、それぞれの自動車メーカーにフィロソフィ(伝統や歴史)があり、それに基づいて表現作業が進められる。
最近では、メルセデスベンツ社が、『デザイン革命』と銘打って新しいデザイン戦略を、新型CLSセダンにて展開を図った。どこが新しいと言うと、時代に合わせてダイナミックに進化していることを顧客に伝えたいのである。メルセデスというブランドは、過去にしがみついている自動車メーカーではなく、常に進化成長していること。これをデザインという切り口で顧客に宣伝しているのだ。ブランドを確立していると思われているメルセデスベンツでさえも、新しい取り組みを表に出して、進化していることをデザインで証明している。

メルセデス・デザインの一時代を築いたのは、"ブルーノサッコ・スタイリングデザイン部門チーフエンジニア"である。『フォルムは機能に従う』という言葉は有名である。
彼は、合理的な直線基調で飽きが来ず、かつ存在感ある1980年代から1990年代のカタチを決めた人物である。エクステリアデザインは四角く無骨。強い面構えで誰もがメルセデスと認識するフロントフェイスを作り上げた。しかし車両後方に行くほど強い絞り込みを行い、空気抵抗の低減が一目見て理解できるデザインになっていた。リヤコンビランプも断面がコルゲート型になっており、汚れた時でもストップランプの視認性がそがれない工夫がされていた。この時代のメルセデスのデザインは何処をとっても論理的で、強い意志を持って構築されていた。このデザイン戦略により、メルセデスベンツは、頑丈で緻密に考えられた工業製品、というイメージを全世界の顧客に与えることが出来た。安心安全な車に乗りたいと言う重要な顧客要望に見事に応えたのがこのデザインであった。本人によるとデザイナー人生で最も燃えた作品は190EとAクラスだったという。
彼は、ブランドについてもこう述べている。『独自のアイデンティティを持つブランドはそれを持つ人の個性を表現する手段となります。ある特定のクルマのブランドへの支持を示すことほど、分かり易い個性表現の方法が他にあるでしょうか?』
メルセデスのスタイルの良さは、伝統に裏打ちされた普遍的な哲学にも表れている。
しかし、次の世代は、流麗なプロポーションになり、ヘッドランプ形状も楕円ツイン型になりユニークな革新的進化を遂げた。次の世代はシャープなエッジデザインを戦略的に採用。このように、メルセデスのデザイン進化は、"伝統的"な内なる哲学は変えず、表現手法は時代とともに"革新"を提案し進化させているのである。
最新のデザインは、ラインやエッジを削減させた『感応的純粋』がデザインフィロソフィとして打ち出されている。
このように、各自動車メーカーは、ブランド構築のためにデザインが重要であることを認識して活動を推進している。
デザインは変化を顧客に分かりやすく瞬時に伝えることができる非常に重要で便利なツールである。顧客は常に新しいモノを欲している。人生を豊かに向上させるには心の充足を伴い、心地よく使い倒せる道具としての性能が欲しいのである。しかし、すべての道具を使って試すことなど時間が無く不可能である。だからこそ、一目見て感覚的に判断できるデザインが顧客に購買意欲を掻き立てさせるために必要なのである。
繰り返しになるが、顧客は、ブランドに対して過去の実績、現在の価値、そして将来の発展や希望をすべて加味してブランド価値を判断する。
デザインは、その最も有効な判断材料のひとつとなる。だからこそ重要なのである。
ブランド構築に、デザイナーは大切な役割を担っている。メーカーの経営戦略にデザイナーが登用されているのには、このような背景がある。

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執筆者プロフィール

1962年(昭和37年)、埼玉県生まれ。
富士重工業株式会社(現在のSUBARU)に入社、デザイン部配属。1991~94年、SRDカリフォルニアスタジオに駐在し、帰国後3代目レガシィのエクステリアデザインリーダー、2代目インプレッサのデザイン開発リーダーを務め、2001年~2007年は先行開発主査、量産車主査を歴任。2011年商品開発企画部部長兼務デザイン担当部長(先行開発責任者)となり、2013年デザイン部長就任。2014年のジュネーブショーカー『SUBARU VIZIV‐IIコンセプト』から、SUBARUのデザインフィロソフィ『DYNAMIC×SOLID(躍動感と塊感の融合)』を発表した。
三樹書房『SUBARU DESIGN』(著者:御堀直嗣)は、石井が御堀のインタビューを受けてまとめられたもので、本書に記載されている450点の写真については、石井が厳選して、それぞれの写真に自らコメントを書いている。

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