第12回 江戸時代のデート

 江戸時代の男女はどこで出合(デート)をしていたのでしょう。春画を見ると男女は、民家の蚊帳の中や、川が見える縁側、どこか風流な和室などで戯れ合っているようです。しかし、多くの若い男女はそんな余裕はなく、「出合茶屋」(ラブホテル)にも行けず、逢い引きの場所は「共同後架」(共同トイレ)、「明店」(あきだな。人の住んでいない家)などでした。
「雪隠の出合い必ずとなり有り」
「雪隠を一人出て又壱人出る」
雪隠という字面が優雅ですが、今のように水洗でないし、匂いがこもっていそうです。トイレデートは「雪隠出合」と呼ばれるくらいポピュラーなものでした。もしかしたら当時は人間の排泄物は肥料として重宝されていたので、トイレの匂いも許容範囲内だったのかもしれません。
 店子がいない空き家も格好のデートスポット。不法侵入ですが......。
「明き店でこそりこそりと無理をいひ」
「明店へはいって対にふるい出し」
人に見つかったらどうしよう、とふるえる男女の緊張感が伝わる川柳です。
利用する方もいつ人が来るかわからないのでせわしないです。
「はづしたりまくったりするせわしなさ」
「あっけない出合い呂の字をしたばかり」
「呂の字」とは江戸時代、キスのことをこう表現していたそうです。口と口がつながっている象形文字的な......。「口吸い」「口口」「お刺身」「口中の契り」など、江戸時代はキスの表現が豊富でさすがです。
「明き店でいけまじまじとはたいて出」
と、空き家でことに及んだあと、何事もなかったかのように出てくるふてぶてしい男女も。
「明店へあらおそろしの旦那声」
大家さんにバレることもありました。
「櫛があったので明き店を釘でしめ」
人が入った痕跡があると厳重に戸締まり。やはり空き家でデートするのはリスクが大きいです。そこで、お金がない男女は「野良出合」。野外で逢い引きするしかありません。
「まだ伸びもせぬにもふ来る麦畑」
「いろりにてくどきおとして麦の中」
麦が茂ると背が高いので、畑の中に横たわってしまえば見つかりません。また、草が茂っていて寝心地が快適そうです。北欧における藁のベッドのような......。雪隠よりはムードも良いです。
「麦中でそべれそべれとくどくなり」(「そべれ」=田舎言葉で「寝ろ」)
「麦ばたけかかしの前もはばからず」
「野良出合上で雲雀がくぜってる」
「むぎ畑そば切り色をまくり合い」(野良着の下半身のみまくり上げ......)
ヒバリが飛ぶ青空の下、黄金色の麦畑で......。もし先祖がこんなロマンチックなデートをしていたら子孫として嬉しいです。
「野良出合麦へとろろを懸けて行き」
麦飯に白濁したトロロ状の液体をかける......生々しいですが生命力がほとばしる川柳。
「会陰を蟻にさされる村出合」
しかし野外は虫問題がつきものです。
「茶臼とはさてぢうくふな麦ばたけ」
茶臼は座位で高さがあるので麦畑から頭が出てしまいそうです。そして、麦の穂は常に茂っているわけではなく、夏に麦を刈ると密会の場がなくなってしまうのも難点です。
「是からはどこですべいと麦をかり」
「麦をかる迄はとぼへも出さぬなり」
厳格な父親は、麦刈りがすむまで娘を外に出さない、という意味の句です。自分が経験あるからでしょう。
「なびかぬと鎌でおどかす麦の中」
どこからも死角なので物騒な手段で無理強いする男性もいて、たしかに麦畑は危険な面も。
 麦が刈られたあと、路頭に迷った男女は......
「麦ののち芋茎の中でまた始め」
と、今度は芋畑へ。性欲があればどこだってできます。体液は、少しは肥料になるでしょうか......。

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