第19回 JAIA試乗会


JAIA試乗会

JAIA(日本自動車輸入組合)の主催する外国メーカー車の試乗会が、毎年大磯プリンスホテルで行われるが、第29回目となる今年は2月8日〜10日の間開催され、83台の最新の輸入車が勢ぞろいした。試乗日と試乗希望モデルは事前に申し込む方式で、試乗できる台数、試乗時間も制約されるが、毎年それまでに試乗する機会の得られなかったモデルに一日で何台か試乗できる、またとない機会でもあり、今回は下記の5台に試乗することが出来た。主催者にとって毎年の開催は大変だとは思うが、最新の輸入車が一堂に会しての試乗会は海外でもあまり聞いたことがなく、大変貴重なイベントだ。試乗したクルマの短評を以下アルファベット順にレポートしたい。


昨年の輸入車市場

その前に輸入車市場をざっと見渡してみよう。2009年の外国メーカー車(輸入車というと国産メーカーの海外生産車の輸入台数も入ってしまうため)の新規登録台数は159,143台と前年の192,317台を17.2%下回った。台数上のトップ3はVWの37,925台(前年比83.3%)、BMWの29,089台(80.9%)、メルセデスベンツの28,739台(77.7%)で、2009年に前年を上回ったブランドはアウディの16,171台(100.8%)、フィアットの4,345台(128.5%)、アルファロメオの2,283台(103.5%)などごくわずかだ。第4位となったBMWミニの11,002台(86.3%)も単一モデルであることを考えると健闘しているといえる。ちなみに輸入乗用車が最も売れたのは1996年、その年の登録台数は393,392台だった。


試乗したモデルと車両本体価格

アウディA5スポーツバック 2.0TFSI クワトロ……575万円
BMW X6 M ………………………………………1,490万円
BMW 135i クーペ ………………………………… 560万円
ポルシェ パナメーラS……………………………1,374万円
フォルクスワーゲン シロッコR……………………515万円



アウディA5スポーツバック 2.0TFSI クワトロ

アウディA5スポーツバックは約一年前に導入されたが、これまで試乗のチャンスを逃してきた。このモデルはA4がベースだが、クーペと5ドアハッチバックをブレンドしたようなスマートなボディーを搭載、ドアがサッシュレスで、全高はA4より40mm前後低い。スタイルを重視したスポーティーモデルゆえ、後席スペースは頭上も含めてぎりぎりだ。A4セダンもそうだが、後席のヒップポイントの低さに起因し、前席のヘッドレストがもろに後席に座る人の前方視界を遮るため、後席に座っての長距離ドライブはあまり快適とはいえない。その反面、大きなリアハッチを開いて後席を倒すとステーションワゴンなみのラゲージスペースが実現する。またA4ゆずりの「運転したくなるような内装」(内装各部のデザイン、シートの着座感、タッチ感のいいコントロール類、視認性の良いメーター類など)も魅力のひとつだ。

エンジンは2Lの直列4気筒インタークーラー付きターボで、出力は211psとそれほど大きくないが、1500rpmから4200rpmまで35.7kgmの最高トルクの出るエンジンがデュアルクラッチ式の「7速Sトロニック」トランスミッションと組み合わされ、大変良好な走りを実現している。駆動方式はフルタイム4WDだ。このクルマのダイナミック領域の気持ち良さは加速性能だけではない。ステアリングを操作した場合のクルマの動きがリニアで気持ち良い。加えて極低速時の路面からの若干の突き上げを除き、18インチの40タイヤを見事にはきこなし、スポーティーでありながら、乗り心地が実にマイルドかつしなやかで上質だ。後席の乗り心地も大変良い。これらのことは最近のアウディに共通する魅力である。

後席の居住性が許容できて、それよりもスポーティーで魅力的な外観、気持ちの良い走り、上質な乗り心地、そしてハッチバックによる積載の多用性を求める向きにはこのモデルは間違いなくおすすめだ。日本市場にこの種のマーケットがどの位あるかは読みにくいが、そのような購買層にとっては575万円という車両本体価格はリーズナブルだろう。いずれにしてもアウディの近年の世界市場における好調ぶりがクルマづくりと決して無関係ではないことをこのモデルも物語っている。


BMW X6 M

正直言ってこのクルマは誰のためにどのような価値を提供したいのか、あるいはどのようなシーンで使いたくなるクルマを目指したのか、良く分からなかった。BMWがスポーツアクティブクーペと呼ぶX6は全長4,875×全幅1,985×全高1,675mmという、大変大きなクロスオーバービークルで、車両重量は2,360kgもある。ところがリアシートには2人しか座れず、4人乗りだ。BMWにはX3、更にはその上にX5という、いずれも十分な実用性をそなえた魅力的なSUVがあるだけに、X6ではそれらとは異なるものを追求したかったのは理解できるが、何を求めようとしたかが判然としない。

X6の外観スタイル、内装デザインに共通するのは骨太感だ。ダイナミズムを表現したかったことは理解できるが、クーペ風のルーフ形状がどのような意義を持つのだろうか? リアハッチ開口部の高さも重量物の乗せ降ろしにはつらい。また前席、後席ともに乗り降りが楽でないことが写真からお分かりいだけよう。室内に入ると、まずステアリングホイールの太さに驚かされる。物入れなど使い勝手に関する配慮も十分とは言い難い。またグラスサンルーフが装着されてはいるが、かなり後方に位置したルーフのため、運転席からも、後席からも余りメリットを感じない。

ただし4.4LのV8で555psを絞り出すエンジンと6速ATの組み合わせによる走りはトルクが豊かで骨太な走りを約束してくれる。またハンドリングも車両のサイズから想像するよりははるかに軽快だ。クルマ全体としてもサイズの割に扱いやすく、乗り心地も決して悪くない。BMWは昨今世界市場でかなり苦戦を強いられているようだが、日本市場ではX6のようなモデルが業績に貢献をするとは思い難く、今後のBMWのクルマづくりを見守ってゆきたい。


BMW 135i クーペ

同じBMWのクルマだが、今回最も大きな期待を持って試乗したクルマがこの135iクーペだった。ハンドルを握って走り始めた瞬間から、走りの気持ち良さは期待を大幅に上回った。直6の3Lで305psを発揮するエンジンはパワーフルな上に、トルクがリニアで、加速性能もすばらしく、その上、直6エンジン独特のすばらしいサウンドが楽しめる。エンジン音を殺すのではなく、心地の良い音が見事に作りこまれている。

「走る」に加えて「曲がる、止まる」も見事だ。直進時のステアリングが大変気持ち良い上に、舵角を与えた時のロールの少なさ、クルマのリニアな反応、更にはブレーキの効きとリニアリティの高さなども特筆に値する。加えて18インチのランフラットタイヤにもかかわらず、市街地を含むあらゆる路面でクルマがばたつかず、しなやかで、しっとりした乗り味が作りこまれている。洋の東西を問わず、現存するスポーツ、スポーティーカーの中では最も運転することの楽しい一台と言って間違いなく、日本のスポーツ、スポーティーカーづくりに関わっている人たちには是非とも味わってほしいクルマだ。

もうひとつこのクルマで評価に値するのは室内の居住性と快適性だ。後席は一見狭そうに見えるが、大人4人が乗っての長距離旅行すら苦にならないレベルだ。また前後席ともシートの座り心地、ホールド感ともに秀逸で、後席も後輪からの突き上げはミニマムで非常に快適だ。リアシートの折りたたみ機構も便利で、2名、もしくは3名乗車でかなりなラゲージを搭載できるのがうれしい。

しかしこれだけ魅力にあふれるクルマなのに、残念なのが外観スタイルだ。私の目には単なる3ドアクーペにしか見えない。このように素晴らしい走りの魅力に加えて、セクシーで、心をとらえて離さない独自のスタイルが備わっていれば、多くの人たちにとってはポルシェよりも魅力的なスポーツカーになっても不思議はない。そうなれば560万円はまさにバーゲン価格といえるだろう。


ポルシェ パナメーラS

2009年4月の上海モーターショーのワールドプレミアーで初めて目にしたポルシェパナメーラには、是非試乗してみたいと思っていたが、今回その機会をもつことが出来た。ポルシェと言えばRRというのが一般的なイメージだが、歴史をたどれば924、944、928などのFRがあり、その意味ではパナメーラは突然異変ではない。しかし4ドア、4人乗りのグランツーリスモはポルシェとして初めての挑戦だ。アメリカ市場をメインマーケットと位置付けているからかもしれないし、中国市場も視野に入っている可能性もあるが、サイズ的には全長4,980×全幅1,930×全高1420mm、車両重量も1.9トン前後と、日本での使用には若干大きすぎるというのが正直な印象だ。

その大きな車体を駆動するのが4.8LのV8エンジンだ。今回評価したS、更にはその4WDバージョンの4Sには自然吸気の400ps仕様が、またパナメーラターボにはツインターボで過給された500ps仕様のエンジンが搭載され、いずれも7速のPDK(デュアルクラッチトランスミッション)と組み合わされる。走り出した瞬間から、加速、クルーズ、ブレーキ、ハンドリングなどの動的な領域は「さすがはポルシェ」といえるもので、加えて18インチのピレリPゼロタイヤを履いての乗り心地、ロードノイズも良好で、大変気持ち良く走ることができる。エンジンサウンドもフラット6とは全く違うが、アメリカ車によく見られるV8の荒いサウンドとは異なり、上質なサウンドに仕上がっている。ただしこれが「ポルシェサウンド」かどうかは疑問だが。アイドルストップ機構がつくけれども、果たしてこの種のクルマでアイドルストップがどのような意義をもつかは疑問が残る。

室内空間は予想以上に広い。中でも後席は頭上に握りこぶしが一つ入るくらい余裕があり、膝前スペースは「ここまで要るの?」と言いたいほどだ。何故ならそれによる重量増加は半端ではないはずだから。全高が低いためにリアのヒップポイントが低く、フロントのヘッドレストがフロントピラーより高い位置まで来るため、前方の1/3は完全にブロックされてしまうのも残念だ。そして最後が外観デザインだ。私にはマセラティクアトロポルテの方がずっとセクシーかつ魅力的に見えてしまうのだが、ここは個人の好みにゆだねたい。


フォルクスワーゲン シロッコR

最後がフォルクスワーゲン シロッコRだ。近年のVWのクルマづくりにはいずれも大変高い評価を与えてきたが、今回のシロッコRには、残念ながら高い評価を与えられない。2Lの直噴ターボエンジンは256psを発生し、それに6速のDSGが組み合わされて、スポーツカー顔負けの動力性能を発揮するし、オーバー100km/hの世界は実に気持ち良く走ってくれる。アウトバーン走行を前提に開発されたモデルなのだろう。また250ps強のエンジンを搭載したFF車としては、コントロール性は悪くない。ワインディングロードでその気で踏み込んでもじゃじゃ馬にはならず、スポーツセダンとしての走りの資質は十分に備えているといえる。

しかしながら、日本での常用領域(1000〜2000rpm)におけるエンジンのこもり音は不快だ。こもり音のピークは1500rpm前後だが、DSG故に、日本では1000〜2000rpmの回転数領域の使用が大半になるといっても過言ではない。また発進時のぎくしゃく感もゴルフにはないもので神経を使う。発売前に日本市場での商品評価を十分に行なうのが常のVWから、なぜこのように日本の道路における走りの気持ち良さには「?」マークを付けざるを得ない状態で登場してきたかは理解できない。予測販売台数が少ないからだろうか? しかし価格は515万円と高額であり、半端ではない。

商品のねらい、デザインにも疑問がある。スポーツセダン、スポーツHBというには外観スタイルにスポーツ性が大きく不足している。インパネデザインも実用車たるゴルフに限りなく近い。また後席への出入りが容易ではなく、後席に座るとサイドウィンドーの上端が極端に低いために、まるで洞窟の中にいるような感覚だ。スポーツモデルであるはずなのにリアのアシストグリップもない。いろいろと述べてきたが、一言でいえクルマのねらいがハッキリとせず、残念ながらお勧めできるクルマではない。



教師&反面教師

国際的な競争が急速に激化する世界市場において日本の自動車産業が今後立ち向かわなくてはならない相手は、前門の虎(欧州車)と後門の狼(韓国車、ゆくゆくは中国車)と繰り返し述べてきた。今回は最新の欧州車に、限られた台数ではあるが試乗、アウディA5、BMW135iクーペ、ポルシェパナメーラなどにみられる「クルマに乗ることの楽しさと喜び」は現在の日本車では残念ながら味わえないもので、日欧のギャップは広がりこそすれ、狭まっていないことを再確認した。その意味で欧州車の魅力は明白だ。一方で、欧州車といえども、デザインやコンセプトに「?」マークのつくものもあることも事実であり、日本の自動車産業は、それらを教師、反面教師としながら、クルマづくり、コンセプトの明確化、デザインの大幅な進化などを目指してゆくことが必須の課題であることを再認識した。



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