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2021年10月25日

2021年10月21日、本田技研工業(株)にて『Honda F1 2021 シーズンクライマックス 取材会』と題した、報道関係者向けオンラインイベントが開催されました。その様子をお伝えします。(レポート:相原俊樹)

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去る10月21日、本田技研工業(株)は『Honda F1 2021 シーズンクライマックス 取材会』と題した、報道関係者向けオンラインイベントを開催した。その様子をお知らせしよう。

F1への取り組み
この日の司会・進行役を務めるのは、ブランド・コミュニケーション本部 広報部 商品・技術広報課の三浦 元毅氏。まずは氏よりホンダの「F1への取り組み態勢」について概要説明があった。現在ホンダはレッドブル・レーシングとアルファタウリの2チームにパワーユニット(以下、PUと記す)を供給している。日本のHRD Sakuraと英国ミルトン・キーンズのHRD UKの共同作業だ。


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2021年シーズンを戦うレッドブルRB16B・ホンダV6。


今シーズンのF1は全22戦で行われ、第16戦トルコGPを終えた時点で近年にない混戦模様だと三浦氏は説明する。ドライバー部門はレッドブル・ホンダを駆るマックス・フェルスタッペンが262.5ポイントで(ポイントに0.5の端数が付くのは第12戦ベルギーGPが豪雨のため3周で打ち切りになり、規定ポイントの半分が与えられたため)、メルセデスAMGのルイス・ハミルトン(256.5ポイント)を抑えてトップに立っている。


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レッドブル・ホンダを駆るマックス・フェルスタッペン。第16戦トルコGPで2位入賞を果たす。


一方、コンストラクター部門では首位メルセデスをレッドブル・ホンダが36点差で追っている。以降、本稿執筆時点でアメリカ、メキシコなど6戦が残っており、その成績次第で今季の王者が決まるわけだ。

三浦氏に続いて登壇したのは浅木 泰昭氏。HRD Sakura センター長兼F1プロジェクトLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー)だ。


PUの開発の推移
今季ホンダが供給しているPUは「RA621H」だが、浅木氏が今の役職に就いた2018年はRA619Hのスペック2時代で、燃焼効率の向上を目指して「副室ジェット燃焼」と呼ばれる機構を採用していた。

さらにスペック3では新しい超高速の燃焼を可能にしたが、これが原因でエンジン内部が高圧と高温に晒され、ピストンなどの内部パーツが壊れたと浅木氏は明かす。対策としてホンダ・ジェットのターボチャージャーに関するシミュレーションが助けになったと語る。

オール・ホンダによる取り組み
F1の技術陣はどうしても目の前にある問題の解決に集中せざるを得ない。技術はシーズン中も時々刻々と進歩しているからだ。一方、頻繁にモデルチェンジができない航空機では長期的視野に立ったシミュレーションが必須で、ホンダ・ジェットのターボチャージャーから解決のヒントを得た、そういう趣旨の説明が浅木氏からあった。PUの開発は「オール・ホンダによる取り組み」の好例だと語る。

また「F1 FUEL」と呼ばれる新しい燃料をエクソンモービルと共同開発したとも紹介する。アンチノック性能が高く、しかも「カーボンニュートラルを可能にすることをレースで立証した燃料」だという氏の言葉から、将来的に市販内燃機関への応用もあり得るとの印象を得た。この辺りには「走る実験室」を標榜したホンダイズムがまだ生きていると感じさせる。


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中止になった日本GPで用いる予定だった特別なカラーリングをまとってトルコGPを力走するレッドブル・ホンダ。


新骨格エンジンの投入
さらに続いて浅木氏は、2021年シーズンには「新骨格」のRA621Hを投入したと明かす。低重心化とコンパクト化を眼目に置いた設計だが、これに加えてバルブの挟み角を狭くすることで燃焼効率の改善も果たしている。バルブの挟み角が広いと必然的にピストンクラウンの形状が山なりになってしまい、これが燃焼室内で温度差を招来する。挟み角を狭くすればこの温度差を小さくできるので、燃焼効率の向上に繋がるのだという。

ES(エネジーストア)と呼ばれる新しいバッテリーの解説も興味深かった。F1のPUでは瞬時の瞬発力と重量当たりの出力が重要で、これに特化したバッテリーだ。しかもこのESに投じた新しい技術については特許登録したことを明かす。通常、F1の技術は部外秘で全てを公開する特許とは無縁なのだが、今後、ホンダがこの技術を広範囲に活かせるように特許を取ったのだそうだ。


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RA619Hパワーユニット。


ライバルとの厳しい戦い
自分が開発を率いたPUがいかにライバルと戦うかをサーキットで確かめてきた浅木氏の解説は、聞いていて面白かった。

「2020年シーズンはライバルのメルセデスもそろそろ(開発の)限界に達しただろうと期待していた」のだが、相手はまだ伸び代を残しており、ホンダの方が限界に近かったという言葉からは、苦しい時期を乗り越えた氏の胸の内が伺える。

「今シーズンは直線区間ではライバルに負けていないが、例えばトルコGPなどではステアリングが直進状態の時には速いのだが、舵角を切った状態では遅いことがわかった」と明かす。しかし「その理由はわからない。メルセデスはコーナーから出る際にパワーを出す機構があるのだろうか」とも考えたという。

来季に向けて
PUのサプライヤーとしてのホンダは2021年シーズンをもってF1から撤退する。しかし今回の取材会に先立つ10月7日、同社はプレスリリースにて、レッドブル・グループとの新たな協力関係に合意したことを表明している。このプレスリリースでは、レッドブル・グループからの要請のもとに、ホンダのPU技術を同グループが2022年以降のF1に参戦するために使用することを許諾し、同グループ傘下のスクーデリア・アルファタウリとレッドブル・レーシングのF1参戦を支援する旨を表明している。

主な合意内容は次の通りだ。
・PUに関する知的財産権の使用許諾
・ホンダによるレッドブル・パワートレインズ(レッドブル・グループ内でF1向けPUを製造する会社)への2022年シーズンにおけるPUの組立支援や、サーキットおよび日本におけるレース運営サポートの実施
・現在、ホンダの英国におけるF1参戦活動の拠点であるホンダ・レーシング・ディベロップメントUK従業員の、レッドブル・パワートレインズへの転籍

事実、この日も浅木氏から「(レッドブルからは、来季に向けて)今年と変わらないほど(多岐にわたる)内容を求められている」との説明があった。

ホンダとレッドブルはドライバーとコンストラクターの両タイトルを目指して残りのシーズンを戦う。2015年から始まったホンダF1参戦第4期、2021年がその有終の美を飾る年になることを祈りつつ声援を送りたい。
(本文中のF1スケジュールは本記事執筆時のものです)