第24回 ポロとフィットの同時比較から見る
日本の小型車の課題
第24回 ポロとフィットの同時比較から見る日本の小型車の課題
・試乗グレード  TSIハイライン
・全長  3,995mm
・全幅  1,685mm
・全高  1,475mm
・エンジン形式  CBZ
・種類  直列4気筒SOHC
          インタークーラー付ターボ(2バルブ)
・排気量  1,197cc
・最高出力  105ps(77kW)/5,000rpm
・最大トルク  17.8kgm(175N・m)/1,550-4,100rpm
・車両本体価格  2,420,000円(税込)

※フィットのスペックは、第4回のフィット試乗記をご覧ください。



両モデルの概要

5代目VWポロは、日本には2009年10月にまず1.4Lの自然吸気エンジンモデルが導入され、2010年5月からは、待望の1.2L TSIエンジン+7速DSG搭載モデルに変身した。車体サイズは2代目ゴルフに非常に近く、プラットフォームは4代目がベースだが、高張力鋼板や超高張力鋼板の広範囲な使用や最新の接合テクノロジーを駆使して、より強固で軽量なボディーを実現、フロントには新設計のマクファーソンストラット式サスペンションが採用された。外観スタイルは、オーソドックスだが、エレガントに変身、内装の進化、中でも質感の向上が顕著だ。

一方のフィットは、2001年導入の初代から、ガソリンタンクをフロントシート下に配置、従来のコンパクトカーの概念を破る居住性や使い勝手を実現、世界で200万台以上が販売された。2代目はその基本レイアウトを踏襲しつつ、車両寸法の拡大と、パッケージング、使い勝手の進化を追求、2007年10月に導入された。1.3Lエンジンは4バルブ化され、低速トルクと高速の伸びが向上、さらにルコン付き新型CVTが採用され、前後サス、電動パワステなどにも大幅なてこ入れが行なわれた。去る8月の販売台数は、エコカー補助金終了前の駆け込みもあり17,000台を超え、軽自動車も含みプリウスに次ぐセカンドベストセラーとなった。

いつから発売?

ホンダフィット:2007年10月から発売
VWポロ:2010年5月から発売

お値段、価格帯(車両本体価格)は?

ホンダフィット:1,197,000円 1,197,000円〜1,865,600円
VWポロ:2,420,000円 2,130,000円〜2,420,000円



走り

             

ポロ:   ★★★★★
フィット:★★★

両車の比較はまず走りから始めたい。本来なら間もなく導入されるフィットハイブリッドとの比較が筋かもしれないが、今回はまず現行フィットとの同時比較とし、フィットハイブリッド発売後には車評メンバーと、車評コースで評価を行い、改めてポロとフィットハイブリッドの走りと燃費の対比もレポートしたい。

新型ポロのエンジンは、2バルブSOHC化された1.2Lだが、小径ターボ、水冷インタークーラー、電子制御式のウェイストゲートなどにより最小のターボラグを実現、1,550〜4100 rpmの広い回転域で175Nmの最高トルクを発揮、これに7速DSGが組み合わされ、各種走行条件下でとても105馬力のエンジンとは思えない素晴らしい走りをしてくれた。Sレンジで走れば下手なスポーツカーもたじたじだ。ただし発進時のショックはやや気になった。

対するフィットの4バルブ化された1.3Lエンジンは、トルコン付きのCVTと組み合わされ、1.3Lのコンパクトカーとして通常の走行では全く不満のない走りを提供してくれる。しかしながら、最高出力は100馬力とポロと大差ないものの、トルクの絶対値、ならびに最高トルク発生回転域(4800rpmで127Nm)に大きな違いがあるために、両車の走りにはかなりな差がある上に、燃費の面でも明らかにポロの方が上だ。


燃費

ポロ:   ★★★★★
フィット:★★★★

(ポロ)(フィット)
カタログ値:20.0km/L24.0km/L
車評コースの実測燃値:15.314.6
高速主体の長距離走行燃費:17.4(八ヶ岳往復)  14.0(那須往復)
高速巡航燃費:19.818.7
純市街地燃費:  8.1  8.5
e-燃費:16.014.4

上記は両車の各種条件下での燃費を比較したものだが、カタログ値と純市街地燃費はフィットが勝るものの、車評コースでの実測燃費、高速主体の長距離走行燃費、高速巡航燃費などは明らかにポロが勝っており、日本のユーザーの平均燃費ともいえるe-燃費もポロがフィットにかなり水をあけている。両車の燃費上の特性としては、低速市街地走行など日本の燃費測定モードがカバーする領域ではフィットに部があるが、高速巡航、あるいは高速主体の長距離走行燃費ではポロの優位性が明確だ。ただしフィットの燃費は日本のコンパクトカーの中で決して悪い方でないことは強調しておきたいし、フィットはレギュラーガソリンでOKだが、ポロはハイオクが必要だ。ホンダがフィットの高速領域の燃費改善に注力すれば日本のユーザーの平均燃費はもう一段向上するはずだ。


運転の楽しさ、気持ち良さ

ポロ:   ★★★★★
フィット:★★★

ポロがフィットに勝るのは走りと燃費だけではない。運転の楽しさ、気持ち良さの面でも明らかにポロが上だ。まずポロの電動油圧パワステによるステアリング・ハンドリングはセンターがクリアーで、まっすぐ走ることが気持ち良く、山道でのステアリング・ハンドリングも正確で気持ちいい。一方今回評価したフィットは14インチタイヤ装着の、リアスタビもないモデルだが、初代に比べるとステアリング・ハンドリングがかなり改善はされてはいるものの、センターの不感帯がまだ広く、ステアリングレスポンス、高速直進を含めて運転することの気持ち良さは今一歩だ。ブレーキはフィット1.3Lがフロントのみディスクブレーキ、ポロは前後ともディスクなので、同時比較はフェアーでないかもしれないが、初期の効き、その後のコントロール性ともにポロが上だ。総じて「運転することの楽しさ、気持ち良さ」という評価軸における両車のギャップは大きい。


振動、騒音、乗り心地

ポロ:   ★★★★
フィット:★★★

振動、騒音、乗り心地面でのギャップも無視できない。ポロのタイヤサイズは185/60R15だが、かなりなハードコーナリングでも十分期待にこたえてくれる上に、「粗粒路」を走る時のロードノイズの低さは脱帽ものだ。低速時の大きめのギャップ乗り越え時のショックはやや大きいが、それ以外の路面では、足がしなやかに動き、フラットな乗り心地が気持ちいい。車体剛性が非常に高いことも寄与しているのだろう。加えてエンジンノイズ、風騒音も大変望ましいレベルに抑えられている。

一方のフィットは175/65R14とワンサイズ小さいタイヤだが、まず気になるのはロードノイズだ。低速時もそうだが、特に高速の「粗粒路」を走る時のタイヤからのノイズはかなり大きい。燃費指向のタイヤや、コストに起因した遮音材の限定使用などにその原因があるのかもしれない。乗り心地は悪くはないが、ポロの高速のフラットな乗り心地には及ばない。また同時比較して大きな差があったのが、高速時にドアミラー付近から発生する風切り音だ。総じて振動、騒音、乗り心地の領域で両車の間にはかなりなギャップがあり、この領域にもっと厳しい目標を設定する必要があるといわざるを得ない。


室内居住性

ポロ:   ★★★
フィット:★★★★★

逆にフィットがポロに勝るのはパッケージング、室内居住性だ。2代目フィットは初代に比べて、全長を55、全幅を20、ホイールベースを50mm拡大(それでも全長はポロに比べて95mmも短い)、更にフロントピラーを120mm前進させることにより、足もと、膝周り、頭上のスペースなどを拡大し、前席、後席ともにミドルクラスセダンなみの広い室内スペースを実現している。前席を私のドライビングポジションにセットしたときの後席乗員の膝前スペースも写真のようにフィットの方がかなり大きく、調整角度こそ限られるが、後席に簡単なリクライニング機構があるのもうれしい。またセンタータンクレイアウトのためか、多くの日本車にあるようなシートクッションの薄さを感じないのもいい。

一方のポロは前述のように寸法的には2代目ゴルフに近く、ファミリーカーとして不満のある室内居住性ではないが、後席はぎりぎりといってもよく、後席のシートバックの角度はやや立ちすぎているし、リクライニング機能も無い。加えて後席に座るとまるでクーペに乗っている錯覚を覚えるほどの閉塞感があり、後席での長距離ドライブは余りうれしくない。ただし前後シートの形状、サイズ、着座感、ホールド感はいずれをとっても多くの日本製の同クラスのモデルよりも好ましく、長距離ドライブでもシートの快適性は光ったし、後席中央用の3点シートベルトも評価したい。


利便性、使い勝手

ポロ:   ★★★★
フィット:★★★★★

利便性、使い勝手もフィットが上だ。フィットのリアシートは、ワンアクションで前方に倒れるダイブダウン機構と、リアシートクッションを上方に跳ね上げることで実現するトールモードがあり、操作も簡単だ。トールモードではかなりな全高のあるものも積載可能だし、ダイブダウンに加えて助手席のシートバックを倒せば全長2.4mの長尺物まで積載可能となる。またスペアタイヤ廃止に伴い、大きな床下スペースを確保、リアのラゲッジスペースの使い分けが可能になった。グローブボックスは上下に2箇所、オーナーズマニュアルが後席クッション下に入るのもいい。ドリンクホルダーは何と10ヵ所もある。

一方のポロは、シートバックだけを倒すことも出来るが、リアシートクッションを持ち上げて前方に倒せば(ダブルフォールディング)、フラットで大きなカーゴスペースが生まれる。シートアンダートレーも便利だ。それでもフィットのシートアレンジにはかなわないし、カップホルダー、ドリンクホルダーの類はフィットに及ばない。フィット同様リアカーゴエリアの2段式の物入れは、一緒にしたくない荷物の収納などに便利だ。


内装デザインと質感

ポロ:   ★★★★★
フィット:★★★

ポロの内装デザインは「オーソドックス過ぎる」という見方も出来なくはないが、スラッシュ成形によるソフトなダッシュボード、細部にわたるクロームメッキ調のトリミング、ステアリングホイールの握り感、視認性の良いメーター、更にはシートの見栄えなどが素晴らしく、既存のコンパクトカーの内装の質感とは明らかに一線を画するものだ。ただしそのポロにも問題がないわけではない。写真のようにエアコンルーバーのクローム調のトリムがドアミラーの鏡面にまともに反射し、後方視界を阻害するのだ。

対するフィットのインパネは、洗練されたデザインとは言えない上に、最近の日本車にもれず、クローム調の仕上げを廃したことにも起因して、プラスティッキーで、お世辞にも質感が高いとは言えない。ラッゲージエリアのトリム材の質感も大半の日本車と同等とはいえ、ポロより2ランクは下だ。

このように言うと「ポロとフィットでは価格帯が違う」と言われそうだが、それは日本の固有事情であり、欧州市場では円高の影響もありポロとジャズ(フィットの欧州名)はほぼ同価格帯にあるといっていい。昨年私も参画した欧州における内装のプレミアム性に関する調査では、欧州車が日本車を大きく引き離したが、クラスを問わず、欧州車に見られるような、質感の高い内装への転換は、これからの日本のクルマづくりの上での急務といえるだろう。


2車を比較しての結論は?

VWポロ1.2L TSI搭載車を一言でいうならば、従来のクラス概念を超えたクルマだ。最大のポイントは、TSIエンジンとDSGトランスミッションの組み合わせによる満足のゆく走りと、ハイブリッド車にも迫る燃費が、ハイブリッドのようなコストや重量のペナルティーなしに実現出来ていることだが、加えて注目すべきは、ステアリング・ハンドリング、ブレーキング、振動、騒音、乗り心地などを通しての運転の楽しさ、気持ち良さ、そして内装の質感などユーザーの感性にアピールする領域であり、これらの点では従来の日本車のクラス概念を完全に打ち破るものだ。

一方、現在の日本のコンパクトカーの代表選手といってもいいホンダフィットは、優れたパッケージングと居住性、利便性、使い勝手への配慮、などの面ではポロをかなり上回り、走り、燃費、動的質感も同クラスの日本車には勝るとも劣らず、少なくとも日本市場におけるバリューフォーマネー(お買い得感)は高い。また車体の剛性感にかなり差があるとはいえ、これだけのパッケージングのクルマをポロより100?近く軽い重量で実現している点は評価されてしかるべきだろう。

しかし大幅な円高の進行、欧州車の進化、韓国車の躍進、中国市場の急速な拡大に加えて、世界的に加速しているダウンサイジングの流れなど、日本車を取り巻く環境の激変を考えるとき、一方では生産コスト削減のための海外生産シフトを否定はできないが、他方では国内生産の堅持も必須であり、その場合、フィットに限らず、日本製のコンパクトカーはこれまでの長所を維持、発展させつつ、以下に述べる何点かの「ダウンサイジングを先取り出来るクラス概念の根本的な見直し」が大切であり、その方向をポロが見事に示唆しているといえそうだ。こうした領域の見直しが出来なければ、日本製のコンパクトカーは遅かれ早かれ世界市場の競合から脱落する可能性が大きいと警鐘をならしたい。

・ハイブリッドに依存せずとも、抜群の燃費と胸のすく走り
・ダウンサイジングを加速する、魅力的で質感の高い内外装デザイン
・フィットに代表されるような、徹底したパッケージング
・多くの軽自動車にみられるような、もてなしの心に満ちた利便性
・乗ることの楽しさ、気持ち良さなど、感性領域に注力したクルマづくり
・カタログ数値ではなく、実用領域をあくまで重視したクルマづくり





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