第121回 トヨペット・マスターライン

2022年9月27日

 前回、初代トヨペット・クラウンおよび同時に発売されたトヨペット・マスターを紹介したが、今回は両車をベースに造られた商用車、トヨペット・マスターラインのカタログを引き出してみた。

1955年11月1日に発売された最初のトヨペット・マスターライン

 最初のマスターラインは営業用を目的に造られたトヨペット・マスターがベースであった。発売当初はライトバンとシングルシートのピックアップの2車種であった。

マスターライン・ライトバン(RR17型)のカタログ。マスター、クラウンと同じR型1453cc直列4気筒OHV圧縮比7.2:1、55hp/10.5kg-mエンジン+3速MT(2、3速シンクロメッシュ付き)を積み、ファイナルギア比も同じ5.286であった。リーフスプリングはマスターが前後とも巾×厚さ×枚数が70mm×6mm×5枚なのに対し、マスターラインではリアスプリングを70mm×7mm×7枚に強化している。サイズは全長4275mm、全幅1670mm、全高1600mm、ホイールベース2530mm、トレッド前1317mm/後1370mm、最低地上高200mm、車両重量1235kg、最大積載量500kg、乗車定員6名、タイヤサイズ6.00-16 6P、価格は91万円。

マスターライン・ピックアップ(RR16型)のカタログ。スペックはライトバンと同じだが、車両重量はライトバンより55kg軽い1180kg、最大積載量は750kg、乗車定員3名、タイヤサイズ6.00-16 6P、価格は82万円であった。

1956年8月、マスターラインのマイナーチェンジとピックアップ・ダブルシート(RR19型)追加発売

 58hpエンジン搭載、フロントグリル変更、サイドモールディング追加、ライトバンが4ウインドーから6ウインドーに変更など。

1956年8月にマイナーチェンジされたマスターラインのカタログ。外観ではフロントグリルが変更され、ボンネット前端についていたエンブレムが外された(V型のマスコットは健在)。フロントフェンダーからドアにかけてサイドモールディングが追加され、ライトバン後端のサイドウインドーがブラインドからガラスに変更された。エンジンは58hp/11.0kg-mに強化されている。

 ピックアップには、シングルシート(RR16型)に加えてダブルシート(RR19型)が追加設定された。サイズはシングルシートに比べてわずかに大きく、全長4285(+10)mm、全幅1675(+5)mm、全高1620(+30)mm(シングルシートも5mm低くなり1590mm)、ホイールベース2530mm、トレッド前1317mm/後1370mm、最低地上高190mm、車両重量1225kg、最大積載量500kg、乗車定員6名、タイヤサイズ6.00-15 6P、価格は90.3万円。

1959年3月7日、フルモデルチェンジしたマスターライン

 従来のマスターラインは乗用車マスターがベースであったが、クラウンベースに変更された。

1959年3月にフルモデルチェンジされ発売されたマスターラインのカタログ。車種はライトバン(RS26V型)、ピックアップ・シングルシート(RS26型)、ピックアップ・ダブルシート(RS26P型)がラインアップされていた。フロントのデザイン、インストゥルメントパネルなどはクラウン(スタンダード)と共通している。時計、ラジオ、ヒーター、ウインドーウォッシャーなどはオプションであったが、右側のフェンダーミラーは標準装備であった。サイズは全長4380mm、全幅1680mm、全高1605mm、ホイールベース2530mm、トレッド前1326mm/後1370mm、最低地上高220mm、車両重量1170~1280kg、タイヤサイズ6.00-15 6P、価格はRS26V型81.3万円、RS26型71.2万円、RS26P型79.3万円。

クラウンと同じ58hp/11.0kg-mエンジン+3速MT(2、3速シンクロメッシュ付き)を積み、最高速度100km/h。サスペンションはフロントがダブルウイッシュボーン+コイルスプリングの独立懸架、リアはリーフスプリング(7枚)+リジッドアクスル。クラウンデラックスに「トヨグライド」2速ATが装着可能となったのは1960年10月であったが、マスターラインでは1959年3月、すでにオプション設定され、カタログにも大々的に紹介されている。これは、セダンより条件が厳しく、装着率もそれほど高くないと思われるマスターラインをテストベンチとして、市場テストに利用したのではないかと推察する。クラウンデラックスに装着可能となった1960年10月には、マスターラインでも一応希望により取り付けられるとはうたっているが、正式オプションから外され、1961年7月にはATはカタログから完全に姿を消している。

1959年7月、エンジンが58hpから60hpにパワーアップされた

1960年4月、マスターラインにライトバン 4ドア(RS26VB型)が追加設定された

右側のクルマが追加設定されたライトバン 4ドア。標準エンジンは圧縮比7.5:1の60ps/11.0kgだが、オプションのAT搭載車には、クラウンデラックスと同じ圧縮比8.0:1の62ps/11.2kg-mエンジンが積まれた。また、この時点でホワイトサイドウォールタイヤ(白タイヤ)がオプション設定されている。ライトバン 4ドアの価格は83.3万円。

1960年トヨペット・クラウン・カスタム・ステーションワゴン(RS37L型)

 1959年4月、ニューヨーク国際オートショーに出展され、1960年型としてアメリカで販売された。日本国内より早くから1.9Lエンジンを積み、2ドアと4ドアが設定されフロントグリル周りのデザインはクラウンデラックスに準じている。

アメリカで販売されたクラウン・カスタム・ステーションワゴンのカタログ。エンジンは1897cc直列4気筒OHV圧縮比8.3:1、95hp/5000rpm、15.2kg-m/3000rpm。トランスミッションはクラウン1900と同じだが、カタログには「Overdrive available(オーバードライブ搭載可能)」とあり、標準装備ではないようだが、オプションとしては記載されておらず、国内版カタログでも見られた、オプションとしては記載されていないが「ご希望によって〇〇を装備することができます」という曖昧な表現と同じ。フロントサスペンションにはキングピンではなくボールジョイントが採用されている。タイヤは6.40-13 4P。

1960年10月、マイナーチェンジされたマスターライン

 1960年10月20日、マスターラインがマイナーチェンジされた。フロントグリルがクラウンスタンダードに準じて変更され、内装がインストゥルメントパネルを含めて大幅に変更された。フロントサスペンションのキングピンを廃してボールジョイントが採用され、タイヤが15インチから13インチ(6.50-13 6P)に変更された。この時点で「トヨグライド」2速ATに関する紹介がカタログから削除され、オプションとしても記載されず、スペック表の下に「ご希望によりトヨグライド(流体式自動変速機)が取り付けられます。(本仕様は改良のため変更することがあります)」と記載された。おそらく市場テストはもはや所期の目的を達成し、マスターラインにATを積む必要もなくなったのであろうと推察する。

1960年10月20日、マイナーチェンジされたマスターラインのカタログ。ボディー塗色のツートンカラーが廃止されて単色となった。車種構成は従来と変わらず、ライトバン4ドア/2ドア、ピックアップ・ダブルシート/シングルシートの4車種がラインアップされていた。サイズは若干長く、低くなり全長4420(+40)mm、全幅1680mm、全高1590(-15)mm、ホイールベース2530mm、トレッド前1330(+4)mm/後1374(+4)mm、最低地上高210(-10)mm、車両重量1170~1270kg。

エンジンはR型1.5L 60ps/11kg-mで、トランスミッションは3速MT(2、3速シンクロメッシュ付き)で、ファイナルギア比を含めて従来と同じであった。最高速度は100km/h。内装はインストゥルメントパネルを含めて大きく変更され、インストの上面は柔らかなパッドでおおわれ、ドライバー正面のメーターユニットにスピードメーターのほか、すべての情報が集約されている。ステアリングホイールも3本スポークから2本スポークのコーンタイプのスマートなものに変更され、ホーンリングがオートリターン式のウインカースイッチを兼ねている。サスペンションはフロントにはキングピンを廃しボールジョイントが採用され、リアのリーフスプリングは7枚から4枚+重荷重がかかった時に作用する2本の緩衝バーを持つ方式に変更され、軽車重時の乗り心地の改善が図られている。

1961年7月、マスターライン1900発売

 1960年10月のクラウン1900デラックス、1961年4月のクラウン1900の発売に続いて、1961年7月にマスターライン1900(RS36型系)が発売された。車種構成は、ライトバン4ドア(RS36V-B型)/2ドア(RS36V型)、ピックアップ・ダブルシート(RS36P型)/シングルシート(RS36型)の4車種がラインアップされていた。価格は1.5Lより2万円高かった。

1961年7月に発売されたマスターライン1900のカタログ(発行No.688)。ボディーサイズなどは1.5L車と同じだが、サイドモールディングの形状が異なり、フロントフェンダーにつく「Masterline」のバッジの位置がやや後方に移動し、ボディーサイドに「1900」のバッジが追加されている。ラジエーターグリルに付くエンブレムがセダンや1.5Lマスターラインのような四角なものではなく独自のデザインが採用されている。エンジンは1.9L 80ps/14.5kg-mを積み、トランスミッションはクラウン1900デラックスと同じギア比の3.059/1.645/1.000、ファイナルドライブのギア比も同じ4.875が採用されていた。

同じ発行No.688で発行されたマスターライン1900のカタログ

 なぜ同じ発行No.のカタログが2種類発行されたのか? 筆者が推察するのは、最初に発行されたカタログの表紙を含む3点の写真が、オプションである白タイヤを履いているにもかかわらず、「白タイヤはオプションです」との注記が入っておらず(もちろんスペック表にはオプションとして白タイヤが記載されている)、白タイヤが標準だと思い込んだ顧客とのトラブルが発生したので、急遽問題の写真を撮り直したのであろう。その際コスト節約のため女性モデル二人は呼ばれなかったようだ。作り直しのついでにオプションであるカーヒーターとウインドーウォッシャーの絵が追加されている。

 このようなカタログを見ていると、当時は初めて新車を買う顧客も多く、クルマを買うことに慣れておらず、非常に高価な買い物であったから、「なんで白タイヤじゃないんだ!」とセールスマンに対して必死に食い下がる姿が目に浮かぶ。

ここに記した2冊のカタログ(発行No.688)についての物語は、あくまで筆者の想像であり、本当は違う物語があるのかもしれません。念のため。

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