



マツダは2024年、中国市場においてBEV(バッテリーEV)セダンのEZ-6を発表し、最近では欧州にもMAZDA6eとして導入を開始。そのデザインは、OEM車両に“魂動デザイン”をまとわせた稀有な例であり、そのポイントについてデザイナーに語ってもらった。
■“オーセンティック・モダン”をコンセプトに

お話を伺ったのはマツダデザイン本部チーフデザイナーの岩内義人さん。1999年にマツダに入社し、エクステリアデザイナーとして多くの車種を担当してきた。初めて携わったのは初代マツダ6(日本名アテンザ)で、それ以降、すべてのマツダ6のエクステリアデザインに関わってきた。EZ-6はマツダ6の後継とも位置付けられることから、EZ-6を担当する、最もふさわしいデザイナーといっても過言ではない。
EZ-6の開発は2022年の春ごろにスタートした。中国市場におけるマツダのEVとしてのプレゼンス(存在感)をどう打ち出すかが課題だった。岩内さんは、当時の中国市場の分析と、EZ-6のデザインの方針を以下のように語る。
「中国市場は新しさを求めすぎて、奇抜なデザインも目立ちます。しかしマツダは安易にそういった目先のトレンドに寄せるのではなく、クルマが持つ本来の美しさや感動を大切にして、デザインを練り込んでいきたいんです。そうすることでマツダは引き続き独自のポジションを獲得していこうと考えました」。
当然現地調査も行なった。その結果は、「中国のBEVは先進的であり、かつユーザーの期待値はとても高いレベルにあることから、日本とは異なり、中国には既にBEVの時代が到来している、という印象を受けました」とショックを受けたという。

その市場に投入するEZ-6は、長安汽車のプレミアムブランド深藍(ディーパル)のセダン、SL03をベースにマツダ側でデザインしたOEM車両と決まっていた。そこで開発初期の検討段階ではOEMということもあり、オーセンティック(伝統的、正統的なスタイル)とモダン(現代的で洗練されたスタイル)という2つの軸の中で、SL03から少しずつスタイルの変更範囲を広げていった。「オーセンティックな美しさの象徴である、マツダビジョンクーペに寄せていくことができないかという検討をしました。良いバランスがどこかにあるんじゃないかなと思ったんです。しかし、案外これがうまくいかなくて……。一方、新しさを感じさせるモダン方向に振っていくと、マツダらしいオーセンティックな美しさが抜けてしまうんです。しかしオーセンティック方向に振るとモダンさが遠ざかってしまう」と、その苦労を語る。

また、「ベースモデルの完成度が高く、さらにかなりのウェッジシェイプデザインなので、そこに“魂動デザイン”を纏わせることは非常に難しかった」と振り返る。同時に中国市場はデザインにおいても、「ものすごく先進的でモダンで、想定を超える進化をしていますので、そこに打ち勝つ(奇抜ではない)デザインを纏わせないと市場では勝負にならない」ことも難しさに拍車をかけた。
そこで、これまでの固定概念とらわれず、改めて打ち立てたコンセプトが“オーセンティック・モダン”だった。岩内さんはこのときの様子を、以下のように語る。
「単純ですが、“魂動デザイン”で培ったオーセンティックでピュアな美しさと、電駆時代の新しさやモダンさを融合させるのが狙いです。そこにはこれまでマツダではあまりやってこなかった様々なトライもあります。魂動デザインの生命感ある美しさは押えながら、どこまで電駆時代のモダニズムや先進性を融合させられるかにチャレンジしました」。

■OEMの難しさ
さて、ベースとなったSL03はバッテリーを搭載している関係で全高が高くなり、かつFF的なサイドビューシルエット(フロントノーズが短くキャビンが全体的に前にある)だった。岩内さんは、「マツダのCDセグメントのセダンとして車高を低くしたり、Aピラーを少し室内側に引いたり、キャビンをちょっとタイトにしたり、水平方向のキャラクターを作りたいと考えました。しかし、ボディの骨格(Aピラーの位置や角度、Cピラーの位置など)でどうしても動かせない箇所があり、ベース車両から印象を変えるのが難しかったですね」と語るように、コンセプトは決まったものの、そこから初期のクレーモデルを作るうえでは非常に悩んだという。
そこでボディを薄く、低く見せるために2つのテクニックを用いた。まず、「あらゆるモチーフを水平方向に見せるために細かく切り刻んで(あとから数えたら12層あったという)、なるべく視線が前後方向に抜けるように見せるようにしました。これにより前後方向に長い塊として見えてくるのです」。人間でも横ストライプを着ると横に広い体躯に見え、縦ストライプを着るとスリムに見えるのと同じ効果を狙ったわけだ。

次に、「“上半身”と“下半身”のそれぞれに “長尺モチーフ” をつくりました。上半身はショルダーを軸に前後ランプ、ベルトモール、ドアハンドルなどを一本に束ねるイメージの長尺モチーフを採用しました。下半身は、加飾や黒く落とした箇所を連続させて長尺モチーフにしています。この上下2本の長尺モチーフにより全長をくまなく使い切り、圧倒的な“長さ感”を演出しているのです」と説明した。サイドビューから見て長い線があると伸びやかさとともに、実寸以上の長さを感じるというデザインテクニックを用いているのが理解できる。

こうした工夫により、「太く鈍重だった初期のクレーモデルが、最終的にはスリムで長く見えるようになりました」。そして岩内さんは、「弱点があるとそこに工夫(=テクニックや逆手に取るアイデア)も生まれます。そこからこれまでにない下部加飾のリッチなモダンさが生まれたり、ウェッジの効いた初代マツダ6を彷彿させるようなフレッシュなスポーティーさが生まれたりなど副次的効果も発生しました。今回は弱点があり悩んだからこそ、従来のマツダから一歩踏み出すようなデザインができたのかなと思っています」と語る。
そうしてEZ-6のデザインは完成した。全体のシルエットは5ドアハッチバックで、ショートデッキのクーペスタイルだ。岩内さんは「スポーティーかつ流麗さを纏いながら、ハッチバックなのでユーティリティにも優れている印象を与えています。そのうえで魂動デザイン特有の、後ろ足で勢いよく前に蹴り出す造形も表現しています」と述べる。また「マツダのCDセグメントセダンとしてモダンで伸びやかさも欲しかったので、(俯瞰したときに)シンプルで美しい紡錘形状を目指しました。そこに自然にタイヤのボリューム感を付け加えているのです。いたずらに美しさの原理に反するような人工的なデザインではなく、ピュアでタイムレスな美しいデザインをやり切りました」とその仕上がりに自信を見せた。

■“凛”と“艶”による面構成
マツダのボディにおける面構成は“艶”と“凛”という2つのワードを用いて表情をつくっている。この“艶”というのは、「面に張りがあり豊かでセクシーな表情を指しています」。一方の“凛”は、「フラットでシャープな緊張感のある表情です。この2つの面質のギャップを巧みに融合することで、魂動デザインはドラマチックなサーフェイスを作っているのです」と岩内さんは説明する。

当然EZ-6でも“凛”と“艶”のサーフェイスは随所に取り入れられている。“艶”の表現の代表例は、「リアのぎゅっと絞り込まれた紡錘形状ですが、相当丸みを帯びています」。一方の“凛”はフロントフェイスだ。「ここは徹底した“凛”の表情で、モダンさを表現しています」と岩内さん。もともとマツダのフロントフェイスは、「エアインテークやコーナーの形状を上手く使って柔らかく表現するパターンが多いのですが、今回は割とスパスパッと切ったようなドライな面構成にしています」。その結果、“凛”とした表情をつくりあげた。

またボディサイドのショルダー部分について、岩内さんは次のように語る。「筋肉のようにとても張っているまさに“艶”の表現です。しかしその下にある照り面は、反り返るほどにシャープでスパッと切れている“凛”とした表情。それらの表情は過去最大級の“ギャップ”で極端に振り切りました」。
振り切ったということはどのくらいのレベルなのだろう。岩崎さんはこれまでのクルマ達と比較すると、「個人的には“艶”は15%ぐらい、“凛”は30%くらいアップさせているイメージ」という。「これまでにないモダンで新しいのを出すために特に凛の成分を多めに注入しているのです」と説明し、「甘いものを感じさせるのに、ちょっと塩を入れて甘さを引き立たせるというイメージです」と説明した。

EZ-6の大きな特徴、これはまさに中国のもつイメージへの対策ともいえるが、マツダデザインの重要なシグネチャーウイング(フロントグリル周り)が光るように仕立てられたことも挙げられる。岩内さんによると、「これまで“魂動デザイン”の家紋として、シグネチャーウィングをクロームで表現してきました。そこから新たにBEV時代を表現すべく、モダンさを訴求するために羽ばたく翼を光で表現しています」という。この光はアニメーション機能も備えており、オープニングの時に光が動いたり、給電の時に点滅してインジケーターになったりしている。岩内さんはこれを「BEVとしての先進性を示すようなアイテムとしても使われています」と説明している。

また中国の夜は、「ビルや店の電飾もすごくて、光の渦のような感じです。その“ノリ”がダイレクトにクルマに降りてきている印象があります。そこで、夜間、光で存在感を表すことも間違いなく先進表現のひとつと考えました。同時に遠くからでもマツダ車が来たとすぐに分かるようにデザインしているのです」とコメントした。

■戦闘モードに入る
生みの苦しみを味わった岩内さん。EZ-6のデザインを担当することが決まった時は「実は最初はピンとこなかったんです」と笑いながら教えてくれた。そこで、「ベース車両に比べてどこまで変えられるのかからスタートしました。実車を確認したところ、結構レベルが高く新しさも表現出来ていたので、結構ショックでした。中途半端な変え方をしてOEMで出したら恥をかいてしまうわけです。本当に頑張って飛び越さないと絶対ダメだと “体感”した時に、初めて背中がゾワゾワっとして、よしこれを越そうという戦闘モードに入りました」という。
そして完成したクルマをベース車のメーカーに見せたところ、「すごいのを作ってきた、みたいな感じで嫉妬されました。だから良かったかなと思いますね」とほっとした様子で語った。

欧州でも販売が開始されたにもかかわらず、残念なことに日本への導入アナウンスはいまだにない。マツダ6の後継として、ぜひ日本の光の下で、このデザイン、そして走る姿を見てみたい。
(文:内田俊一 写真・資料提供:マツダ)


