第4回 日産ルークス

2025年12月27日

日産ルークスがフルモデルチェンジして4代目に進化した。日産と三菱のジョイントベンチャーであるNMKVが開発した軽自動車で、日産はルークス、三菱はデリカミニとeKスペースが兄弟車となる。そのベースデザインは日産主導で行なわれたのだが、そこには予想外の思いが込められていた。

■乗用車ライクから軽自動車ならではへ

もともと“日産デザイン”は、日産自動車が日本の企業であることを踏まえ、ジャパニーズモダニティをベースにデザインされているという。これは「日本ならではの表現をデザインに込める」ということで、例えばアリアはフロント部分に組子柄を用いていることでもわかる。

そういったことも含めて、具体的に日産グローバルデザイン本部第二プロダクトデザイン部プログラム・デザイン・ダイレクターの入江慎一郎さんにルークスのデザインについて話を聞いてみた。

ルークスのエクステリアスケッチ

入江さんがまず考えたことは、デザインをする以前の問題点だった。
「先代のルークスも担当していて思ったことは、日産自動車に軽自動車があると知っている方が、あまりいないんです。しかもSAKURAですら知らない人もいる。これはなんとかしないといけないと思いました」。

入江さんはデザイン開発をスタートするにあたり、その原因を自分なりに分析したという。
「軽自動車というカテゴリーは日本独自のもの。その中で多くのメーカーが“軽自動車ならでは”のデザインやしつらえに特化させています。一方、日産が作ってきた軽自動車は良くも悪くもコンベンショナル、つまり日産がこれまで作ってきた登録車と同じようなデザイン、言い換えると“軽自動車ならではの魅力”以外を求めたデザインだったため、市場全体の中に埋もれてしまっていたんです。従って日産としてはゲームチェンジしなければいけない、改めてコンベンショナルではない軽自動車ならではのデザインをしようという意気込みを持ちました」。

実は軽自動車をデザインするのは非常に難しい。サイズは軽自動車の枠を超えてはいけないし、その中でパワートレインを収め、室内空間を最大限確保していくと“デザインしろ”はほとんどなくなってしまうことになる。そのうえで前述した登録車のようなコンベンショナルなデザインにしようとするとさらにハードルは上がってしまう。そこで入江さんは「このハードルをポジティブに受け取ったデザインができないか」と思考を変えた。そのきっかけはルークスの語源である。

「ルーミーのマックス、マキシマムな広さ感や大きさ感がルークスです。先代を振り返ると、フロントやリアウィンドウが寝ていて乗用車ライクなコンベンショナルなデザインでした」。
つまり、軽自動車のカテゴリーでポジティブに捉えられている、室内の広さなどの要素がデザインをするうえでのキーポイントとして伝わっておらず、あえて乗用車ライクにしてしまったことが市場に埋もれてしまった原因と分析した。

2020年発売の3代目日産ルークス

そこで、入江さんはどうすればいいかを探った。
「スーパーハイトワゴンならではとか、軽自動車ならではのパッケージング、AピラーとDピラーを立てることで室内空間をより広く出来るように大きく変えました。そしてそのパッケージングがデザインの魅力のひとつになるように四角というテーマでトライしたのです」。

ただし、言葉通りに受けとると単なる四角い箱型の軽自動車になりかねない。そこで入江さんは、“上質さ”をキーワードに挙げる。
「クルマに限らず日常に使うものや、家もそうですけれど、何かにこだわるときにはしつらえの良さや、上質なものに目が行くでしょう。これは非常に重要なキーワードなんです。ですから軽自動車規格のクルマとして、それを超える価格以上の上質さが備われば絶対にお客様に選んでいただける。そこに特化させてデザインしこだわり抜いたのがこの1台なんです」。

■カラーブレークラインの妙

カラーブレークラインが表現されたエクステリアスケッチ

前述の「ただの箱になりかねない」デザインを変える手段のひとつに、サイドのキャラクターラインが挙げられる。入江さんによるとデザインの初期の段階からこの案はあったもので、“カラーブレークライン”と呼ばれ、ツートーンカラーの塗り分けを意識したものだという。ルーミーマックスという大前提のコンセプトのもとにデザインすると、
「ただの四角いバンに見え、かつスーパーハイトワゴンなのでより高さだけが勝ってしまい、縦横比で細長く見えたり、単なる大きさだけを感じさせるつまらないクルマに見えてしまいます。しかし、このツートーンカラーを採用すると全長と全高の比率が変わって見えるんです。もちろんスーパーハイトワゴンなので背が高いことは是なんですけど、ワイドさも感じるようになる。その理由はキャビンとボディのバランスがカラーブレークラインによって変わって見え、よりワイドに見えるからなんです」。
入江さんの説明の通り、初見ではスーパーハイトワゴンに見えないくらい落ち着いた印象だ。同時にユニークさも感じさせ、そこから上質さにもつながっている。

ここで入江さんは、カラーブレークラインが一時構想から消えかかったことを明かす。その理由は複雑な形と前後フェンダーとドア周りにかけて塗り分けられるために、塗装の困難さがあったからだった。特にドアやフェンダーが工差によって色ずれが起きかねない。何とかカラーブレークラインを実現できないかと生産現場などと話し合いを進めた結果、専用の治具をつくり、そこにルーペをつけることを現場から提案された。
「そのルーペを覗きながらズレを見ているんです、その誤差は1.5mm以内です」。
入江さんは工場の協力のもとにこの難局を乗り越えたのである。

そしてこの塗り分けの形自体は唐破風(からはふ)をイメージした。これは日本建築に用いられるもので、中央部分を山形にした様式でお城などにもよく見られるもの。
「軽自動車は正真正銘ジャパンオリジナル、日本の中で生まれた自動車です。そこで日本にしかない伝統的なものを取り入れられないか、グリルだけとかではなく、ボディ全体で表現できないかと考えました」。
そこで入江さんが目をつけたのがスライドドアだった。
「ボディサイドから人を招き入れる、おもてなしの心みたいなものをエクスリアで表現できないかなと、古来伝わる建築様式の唐破風という門構え様式を取り入れました」。

■おいしそうなカラーネーミング

この入江さんのイメージに応えたのはCMF(カラーマテリアルフィニッシュ)デザイナーの日産グローバルデザイン本部アドバンスドデザイン部の三宅広華さんである。三宅さんによると、日産のツートーンエクステリアカラーは、ルーフに黄色などの色が入ったカラーを採用するという特徴があるという。
「それをルークスも受け継ぎつつ、新しい世代のルークスでどういう表現ができるかを考えていきました」。

三宅さんは今回、すべてソフトコントラストで組み合わせを考えた。
「全部ソフトコントラスト、優しく柔らかい2色の組み合わせです。メインのお客様である女性はもちろん、男性にも受け入れられやすいカラーの組み合わせを考えてラインナップしました。奇抜さは目指さず、日常に馴染むものや溶け込むような、生活に馴染むという言葉を第一に考えていましたので2色のコントラストを柔らかくしたのです。全体としてルークスの明るく楽しい生活が感じられるようなラインナップにしています」。
ちなみに三宅さんのお勧めは、「プレミアムツートーンのホワイトパールに、フローズンバニラパールです」とのこと。

入江さんはこのカラーを、食卓のテーブルウェアに例えた。
「食卓でいうと、食材を彩るテーブルウェアなんです。メインはあくまでも食材で、それを彩る、引き立てるためのサブ的な役割がテーブルウェア。ですからテーブルウェアが引き立ちすぎると食材が沈んでしまうんですよね。クルマに置き換えるとあくまでもお客様、これに乗る人がメインという考え方です。ですからお客様がより素敵に、より彩り豊かな生活を送れるようにサポートする役割がこの色味なんです」。
そこで、カラーのネーミングも、「ほぼ食べ物の名前」をつけた。例えばフローズンバニラやソルベブルー、カンジュクカシスなどを挙げ、
「日常的にある、みんなが馴染みやすい食べ物の名前にちなんで名付けています」。

最後に入江さんは個人的な意見としたうえで、
「今回のルークスはパイクカーだと思って開発したんです。軽自動車は日本のガラパゴス化から生まれた特有なクルマ。そこから感じるのは、軽自動車の原点は籠だと思うんです。籠って世界中見てもないですよね。そのイメージが強くて、籠みたいなクルマをつくりたいなと思っていたんです。そういう意味でもパイクカー的なデザイン、つまりコンセプシャルなコンセプトのクルマに見えると思うんです」。

日産グローバルデザイン本部第二プロダクトデザイン部プログラム・デザイン・ダイレクターの入江慎一郎さん(左)と、日産グローバルデザイン本部アドバンスドデザイン部の三宅広華さん(右)

あくまでも日産自動車は日本の企業。だからこそ日本に根付いたデザインを育んでいきたいという入江さんや三宅さんの思いがひしひしと伝わってきた。だからと言ってそこに引っ張られず明確にクルマのコンセプトも明確に表現している真摯な姿勢も大いに感じられた。今後、他のクルマでもこういった姿勢が貫かれていくのであれば、“日産デザイン”の未来は明るいと思う。

(文・写真:内田俊一 スケッチ提供:日産自動車)

^