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2020年2月20日

2020年2月4~6日の3日間にかけて、大磯プリンスホテルを拠点に第40回JAIA輸入車試乗会が開催されました。その様子をお伝えします。(レポート:相原俊樹)


去る2020年2月4~6日の3日間にかけて、大磯プリンスホテルを拠点に第40回JAIA輸入車試乗会が開催された。同試乗会に参加する機会を得たので、その時の印象をお伝えしよう。


イタリア製スポーツカーとスポーツハッチに陶酔する

当日早朝、試乗車両の準備に余念がないFCAジャパンのスタッフ。

屈曲に富んだ箱根の有料道路。料金所を通過して5分も経たないうちに、私は高揚感と緊張ゆえ、大声を上げそうになるのを懸命に堪えていた。そのイタリア製スポーツカーは、私の予想を遙かに超えて刺激的だったのだ。 

アルファロメオ4Cスパイダー・イタリアに乗る機会を得たのは幸運だった。アルファが久し振りに放ったピュアスポーツ「4C」がベースの、ルーフをファブリックにした派生型。ごく少量の限定生産のため、日本に導入されたのはわずか15台という希少モデルである。

ボディカラーは専用のミザーノ・ブルー・メタリック。

ステアリングがノンアシストなのは知っていたので、パーキングスペースから動き出した瞬間、ずしりとした手応えを伝えてきたのは予想通りだった。しかしいったん走り始めれば、操舵力はスポーツカーとして適切なレベルを終始保つ。

湘南の海に沿った自動車専用道路を走り始めると、4Cスパイダーは早くもその本性の片鱗を垣間見せた。ここの路面はごく平滑で、普通ならリラックスして走れるのだが、4Cスパイダーはそれを許さない。目に見えない微細な轍と目地段差を前輪が敏感に感じ取り、そのままドライバーに伝えて来る。だから直線路でも緩やかなカーブでも、常に両手で軽くステアリングを握っている必要がある。

ピアノブラック仕上げのエアインテークやリヤディフューザーを採用。(以降、これを含めて4点の写真はFCAのオフィシャルフォトを使用)。

やがて前方に料金所が見えてきた。試乗車にETCの備えはないので、私は「一般」と記されたゲートにノーズを向けた。折悪しく係員は不在、自動支払機で料金を払うしかない。私が4Cスパイダーの極端に低い全高(1190mm)を実感したのはこのときだ。とにかく着座位置が低い。CFRP製センタータブに深く沈み込んだ位置に座っているので、窓を開けただけでは紙幣を入れるスロットに手が届かない。ドアを開ければ楽なのだが、自動支払機のコンクリート製台座と干渉しそうで、それもままならない。人には見せられないほど身体をよじって、ようやく難事をこなした。

リヤホイールアーチ手前にあしらわれた専用ロゴ。イタリア車はこうした小技でアクセントをつけるのが巧い。

冒頭に述べた箱根の有料道路は幸いにも空いていた。短い直線部分でそれまでよりほんの少しスロットルを深く踏み込んでみると、1060kgの軽量ボディは間髪を入れずに車速を増す。視線が路面に近いだけに、実際のスピードより俄然速く感じる。たちまち最初のコーナーが眼前に迫り、ブレーキを踏むが、思ったようにスピードが落ちない。あとで聞いて知ったのだが、4Cスパイダーのブレーキはノンサーボで、「止まる」とか「減速する」という強い意志をもってペダルを踏む必要があるのだ。それさえわかれば、前後のベンチレーテッドディスクは踏力に応じて盤石の制動力を発揮する。

前後のベンチレーテッドディスクは盤石の制動力を約束する。

4Cスパイダーでカーブを曲がる私は一瞬たりとも気を許せなかった。もちろん現代のクルマだからスタビリティコントロールは備わっており、万が一の場合は助けの手を差し伸べてくれるはずだ。クルマからは「もっと踏め!」とけしかけられる。

たまたま試乗当日は関東地方がこの冬一番の寒波に見舞われ、路面脇の地面には一部雪が残っており、太陽光が当たらない路肩は不気味に黒く濡れている。2380mmという短いホイールベース。ミッドシップレイアウト。さらには例の敏感なステアリング。そうした要素が頭にちらついて、右足が力を込めることを拒む。

おそらく私が精一杯頑張ったところで、4Cスパイダーが持っている旋回性能の3割も使えないだろう。そんな私にも1つ確かに言えることがある。こんなに運転操作に没頭したのは久し振りだった。

キャビンの騒音レベルにも触れておこう。低速ではタイヤが拾った砂や砂利がホイールハウスの内側を叩く音が聞こえる。スピードを上げると、頭のすぐ後ろに位置する1742cc 直列4気筒 インタークーラー付ターボエンジンが発する旺盛な排気音に、使わなかった過給圧を大気に放出するシュパッ!という音が加わる。それらが渾然一体となってキャビンを満たし、スピード感をいやが上にも高める。

スポーツレザーステアリングとアルカンターラシート、レザーやアルミニウムの加飾パネルを取り入れたインテリア。

極端に低いノーズは傾斜地への出し入れに気を遣うし、斜め後方視界が限られるのも4Cスパイダーを普段使いに供するうえで覚悟するべき点だ。

しかし、腕に覚えのあるドライバーにとっては、ひとたびワインディングロードを走ればそうしたことは一掃されてしまうに違いない。ボディはコンパクトだし、左右のフロントフェンダーは車両感覚を掴むのに絶好。なにより「走る」「曲がる」「止まる」の3要素に介在する電子制御やアシスト装置をこれほど最小限に抑え、運転の主体をドライバーに据えたスポーツカーは今では珍しい。

試乗を終えて興奮が鎮まった今、あらためてアルファロメオ4Cスパイダー・イタリアを振り返った私はあることに気づいた。ステアリングホイールは正しい位置にて両手で握ること、ブレーキは「止める」意思を込めて踏むこと、カーブの手前では充分にスピードを落として曲がること。これはスポーツカーに限らず、自動車を運転する基本だろう。4Cスパイダーのおかげで、私は運転の原点に立ち返ることができた気がする。

次に乗ったアバルト595コンペティツィオーネも今年の試乗会でぜひ試したい1台だった。MT仕様が用意されていたからだ。ATモード付5速シーケンシャル装備のアバルト595系にはかつて乗った経験があるが、5速MTは今回が初めてだ。それは期待に違わぬ、痛快なホットハッチだった。

大磯プリンスホテルを出発して少し走ると、コンパクトハッチを走らせるのにぴったりな農道がある。適度な上りと下りの勾配があり、ヘアピンカーブが連続するルートを595コンペティツィオーネは活き活きと走った。

MT仕様の595コンペティツィオーネをスムーズに走らせるには、クリスティアーノ・ロナウド並みのステップワークも、エリック・クラプトン顔負けの”スローハンド”も要らない。クラッチペダルは軽く、繋がりもスムーズなので発進はごく容易。シフトアップもダウンも難しいことはなにもない。ひと言で言って、とても乗りやすい。

この日は試す機会がなかったが、高速道路の下り勾配区間を走る際などは、低いギヤをキープしてエンジンブレーキの効用を100%引き出せるので、むやみに高いギヤを選ぼうとするATより走りやすいだろうと感じた。

2017年、アバルトは595のマイナーチェンジを行い、その際にグローブボックスに蓋がつくなど内外装の細部が新しくなった。写真はFCAのオフィシャルフォト。

直列4気筒 DOHC 16バルブ インタークーラー付ターボエンジンは1368ccの排気量から 180psという充分な最高出力を生み、速い高速道路の流れにも無理なく乗れる。高い巡航性能は、歯切れのいい操縦性と並んでアバルトモデル全般に共通する美点だ。

この日、むしろ印象的だったのは230Nmの最大トルク。カタログを見ると発生回転数は 2000 rpmとだけあるが、数値以上にトルクバンドは広く感じた。例えば緩い上り勾配の小さく回り込んだカーブでも3速のまま苦もなくクリアする。同じカーブを2速で回れば、より機敏でメリハリの効いた走りができる。

アバルト595コンペティツィオーネは、アバルトならではの「山椒は小粒でもぴりりと辛い」キャラクターをMTで楽しみたい向きには絶好の1台だと思う。

今年のJAIA輸入車試乗会で体験したイタリア製スポーツカーとスポーツハッチの印象は、この原稿を書いている今も鮮やかだ。アルファロメオ4Cスパイダー・イタリアは、ある程度スキルを備えた乗り手を前提にシャシーを設定していると感じた。ここまで運転の主体をドライバーに委ねたスポーツカーは今どき珍しく、その潔い設計思想はすがすがしい。こういうスポーツカーを世に送り出したアルファの首脳陣に拍手を送りたい。アバルト595コンペティツィオーネのMT仕様は、今やすっかり少数派となった”スティックシフト”の喜びを堪能できる、実用的なホットハッチだった。

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