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第120回 新型スズキハスラー
2020.10.27

2014年1月に導入された初代スズキハスラーは、第44回車評オンラインで、「少なからず私の心をつかんでくれた1台だ。ワゴンRに近い居住性、実用性は維持しつつ、一味違う遊び心のあるデザイン、雪上や軽度なラフロード走行にも適したハードウェア―、良好な走行性能と燃費を備えた魅力的なクロスオーバーに仕上がっており、地方都市や積雪地帯におけるユーザー層の拡大はもちろん、大都市に住むアウトドア―派などへのアピールも予測される新ジャンルの軽自動車となりそうだ。」とご報告したが、導入後販売は好調に推移し、累計生産台数はすでに50万台近くになり、今やスズキを支える大黒柱の一台だ。2020年1月に新型ハスラーが導入され、2月末に試乗会も行われたが、このたびスズキの企画で再度試乗する機会が得られ、合わせてチーフエンジニア竹中秀昭氏とのオンライン対談もできたので、新型ハスラーの作りこみに尽力された竹中氏の想いをメインに、試乗時の私の印象も交えてご報告したい。オンライン対談時に語られた竹中氏の想いは、『  』(二重カッコ)で収録している。

竹中氏は1994年スズキに入社され、実験部門でさまざまな車両のNVH(振動騒音)対策に従事、2014年からは四輪車全般のNVH開発の取りまとめを担当、2016年からチーフエンジニアとして新型ハスラー、ワゴンR、ラパンの開発を担当されている。

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【商品コンセプト】
『2代目ハスラーの開発を指示されたが、軽自動車にかけられるコストは厳しく、簡単な開発ではなかった。初代ハスラーは楽しいクルマとして成功し、当然プレッシャーも大きかったが、今回2代目の開発にあたっては、エクステリアとインテリアにそれなりのコストをかけることができた。エクステリアに関しては初代の特徴をかなり意識しつつ、よりハスラーらしいデザインを求めたが、実は、社内の新型ハスラーの審査会で、ダメだしがありデザインを大きくやり直した経緯もある。チーフエンジニアとして再考して、初代の頃とは明らかに変化しているアウトドアに対する考え方を学んで2代目に取り込んでいる。それは「本物志向」であって、クロスオーバーや/アウトドアに、近年はより本物が求められる時代と意識してクルマづくりをまとめた。』

商品コンセプトに対する私の所見
初代ハスラーはまさに軽クロスオーバーの先陣を切ったクルマといってもいいが、2代目ハスラーは、その後の世界的なクロスオーバーブームの中で、遊び心のある内外装デザイン、パッケージング、各種のアウトドア活動に対する使い勝手の良さ、優れた走りと動的な質感の高さなどにより、先代の特色でもあったアクティブなライフスタイルへの対応に一段と磨きをかけたモデルに進化しており、引き続き日本の軽自動車市場をけん引してゆくクロスオーバーとして安定した販売が期待できる魅力的なモデルに仕上がっていると感じた。私は、竹中氏をはじめとする新型ハスラーの開発にかかわられた方たちのご努力に心から拍手を送りたい。

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【エクステリア・インテリア】
『そうしたことを考慮して、形式的には好評の丸型ヘッドライトなどは継承しながら、ボディーは全体に角張った力強いエクステリアデザインとして、かたまり感を意識(表現)している。サイドからみるとルーフをさらに伸ばして3つ目の窓を新設し6ライトを実現することにより、初代より視界も改善した。

インテリアは、遊び心を大切にして、全面的にデザインし直したが、インテリアの中で一番大変だったのは、9インチという大画面のナビゲーションをインパネ内に納めることだった。インテリアは今までにない「チャレンジング」であり私としては気に入っている。機能的にはショッピングフックや助手席シートアンダートレイなど、初代に付いていたものを継承しながら使い勝手を向上させた。例えば新設したセンターコンソールは、初代はベンチシートを採用していたのでできなかったが、車中泊などでシートを倒して休んでいる時などにこのスペースにスマートフォンなどを置くことで利便性を上げた。インテリアの中で特徴的な3連インパネガーニッシュは、バーミリオンオレンジ色とデニムブルーメタリックは少し派手な専用色を採用しているが、年配者の方や落ち着いた色を好む方には、グレーイッシュホワイトもオプションとして選べるようにしている。他のカラーもインパネガーニッシュに選択できるように配慮した。』

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外観スタイルに対する私の印象
今回のモデルから新しく採用した6ライトの外観スタイルに対する私の印象は総じて非常に良好で、一目でハスラーと分かるだけでなく、初代よりも力強く、サイド、リヤの質感の向上にも目を見張った。2トーンカラーバージョンも魅力的だ。唯一気になるのは先代そっくりのフロントデザインで、初代の時にすでに申し上げたが、一寸可愛すぎる、もう一歩力強い顔つきにできなかったのだろうかというのが正直な印象だ。女性ユーザーも少なくないようで「可愛さ」も大切だとは思うが、今後のバリエーション展開の中で、丸形ヘッドランプは残してでも、是非、よりタフで力強い顔つきのフロントグリルをオプションとして追加してほしいと思う。

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インテリア―に対する私の印象
まずハスラーのインテリア―の居住性と使い勝手に触れておきたい。初代ハスラーの時にも私は「後席の膝前スペースはレクサスLSさえ上回る(?)上に、後席左右シートの独立スライドや3段階リクライニングもうれしく、後席が左右独立で、ワンタッチで倒せてフルフラットな荷室が容易に実現するのも便利だ」と述べているが、新型ハスラーもそれらのメリットは継承、写真のように大人がゆったりと寝ることができるのも非常にうれしいポイントだ。初代はフロントシートがベンチシートだったが、新型では左右独立のバケットシートとなっており、ホールド性が向上しており、長距離運転や山間路の走行などには新型の方が向いているだろうし、助手席の人が運転手とは全く独立してシートアレンジできるのも貴重だ。インパネの3連カラーガーニッシュに関しては、バーミリオンオレンジのものは、やや強烈すぎて違和感を感じたが、デニムブルー、グレーイッシュホワイトのものには違和感が全くなく、新開発の9インチのナビゲーションがインパネ内に納まるのも非常に見やすく好感が持てる。

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【動力関係】
『CVTは今までのジャトコ製からアイシンAW製に変更している。CVTに関しては、今までNVHを担当してきた経緯もあり、音には注意している。車内が静かに出来たのは、車体の剛性アップが貢献していると考えている。走行性能についてはISGが発進から積極的にアシストすることによって、発進から中低速の領域を向上している。このモーターアシストは先代モデルと比較して時間が10%程度長くなり、燃費向上にも貢献している。』

走りに関する私の印象
写真はNAだが今回試乗したのはVVTターボで、ISGのモーターサポートも含めて、発進、登坂を含む市街地の走りが非常に軽快だった。ターボによる過給も実にスムーズで、自然吸気エンジン搭載のコンパクトカーよりもはるかに望ましい、全く不足のない走りを示してくれたのがうれしかった。実用燃費もかなりよさそうだ。新開発のCVTも非常に静粛で、走行時の違和感がなく、大変好ましいCVTに仕上がっている。機会をみつけて是非NAにも試乗してみたい。

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【ハンドリング、乗り心地、車体構造】
『初代のハスラーを継承しているが、足回りに関しては、よりフラフラしない、しっかりとしたコーナーリングを目指した。空気圧は240キロパスカルとし、タイヤメーカーと新開発したタイヤを装着した。継ぎ目などの乗り越えには高圧タイヤによる初期のあたりの強さの影響を受けている。車体剛性が増したことで、ハンドリングも良くなり、しっかりとサスペンションが機能することでよい方向になったと感じている。新型ハスラーには、スズキでは初になる「構造用接着剤」を採用したことにより、初代ハスラーに比べて車体の曲げ剛性が20%、ねじり剛性が30%ほど強化できた。この製法は部品間の僅かな隙間を埋めることで、接合やボディー全体の剛性を高めることができるメリットがあり、今回のハスラーでハンドリングや乗り心地に加えて室内の静粛性の向上などに貢献しているのは間違いない。』

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ハンドリング、乗り心地、車体に対する私の印象
初代ハスラーやワゴンRでは、私は乗り心地向上のためにもう一歩空気圧の低減ができないかと提案した。そんな事情もあり、今回のハスラーのハンドリングと乗り心地に興味があったが、乗り始めた途端にハンドリングのリニアリティの高さと、車体剛性の高さに感心するとともに、市街地、一般道での乗り心地がなかなか上質で、ロードノイズもかなり低くおさえられており、総じて軽自動車とは思えない走りの質感を体感することができた。プラットフォームの剛性に加えて、「構造用接着剤」の採用による曲げ剛性とねじり剛性の向上が貢献しているようだ。ただし乗り心地に100%満足したわけではなく中速以上での大きな凹凸乗り越え時の乗り心地はもう一歩改善してほしい。また内容は省くが、ハスラーでうれしいのは各種のセーフティーサポート機能が充実していることだ。

【最後に】
私は最後に竹中氏にこれからのハスラーの展開についてたずねてみたところ、興味深い答えが返ってきたのでご紹介したい。
『27年前にデビューした「スズキワゴンR」は、そのパッケージングが高く評価されて軽自動車分野でのハイトワゴンという新しいジャンルを確立し、その後ワゴンRは、多くのバージョンを展開している。ハスラーもクロスオーバーの軽自動車として新しいジャンルを形成し、今はワゴンRの後継車といえる存在になっている。今後はハスラーも選べる軽自動車として、色を変えたり、バージョンを増やしたり育ててゆきたいと考えている。チーフエンジニアとして、新型ハスラーは「ワクワクするクルマ」を作りたかったが、それを実現することができたと考えているし、長く乗っても飽きないクルマとして、新型ハスラーを、自信をもってお薦めしたい。』と語ってくれた。私もこれからのハスラーの新しいバリエーション展開に期待することをお伝えして本稿の終わりとしたい。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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