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第105回 躍進するボルボ
2019.7.27

ボルボが世界市場において躍進を続けている。2019年上半期の販売台数は340,286台と前年同期を7.3%上回り、中国市場は10.2%増、米国は5.2%増、その他の世界市場では10.2%増となった。2014年に465,866台だった世界市場での販売台数は順調に拡大、2018年には642,253台となったが、2019年は70万台近くになりそうだ。国内市場も例外ではない。22年前には2万台を超えた販売台数はその後低迷、2014年に13,264台だった販売台数はその後順調に回復、2019年は再び2万台に達しそうな勢いだ。現在ボルボ・カー・ジャパンが販売しているのは、40、60、90シリーズのV(ワゴン)、CC(クロスカントリー)、XC(SUV)モデルで、セダン(S)は60シリーズのみだ。このたびV60 T6、V60CC T5、XC90 D5に試乗することができ、中でもV60CC T5に最も心をひかれたので、その印象も含めてご報告したい。

ボルボの簡単な歴史
まずボルボの歴史を簡単に振り返ってみよう。ボルボがスウェーデンの工場で乗用車の製造を開始したのは1927年、1944年に発表したPV444が信頼性、耐久性で高い評価を獲得、1959年には3点式シートベルトを発明して特許を得るも、「安全は独占すべきものではない」として特許を無償で公開、以来3点式シートベルトは全世界に拡がっていった。1961年に導入されたスポーツカーP1800も多くの人の心から離れなかったはずだ。1980年代に入って「700」、「800」シリーズ、1992年には「850」シリーズを導入するが、1999年乗用車部門が「フォード」に売却され、フォードグループの一員となる。しかしその後のフォードグループの業績悪化の影響を受けて2010年にフォードグループがボルボ・カーズの株式を全て中国の吉利汽車の親会社に譲渡、以来中国資本のもとでフォード時代よりも明確なビジョンに基づいた技術開発、クルマづくりが行われており、昨今の世界市場における躍進はまさにその成果とみることができよう。

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VISION 2020
前述のように「安全は独占すべきものではない」との信念のもと、ボルボは幾多の安全関連技術を開発してきた。上図はこれまでの系列的なチャートだが、これで満足しているわけではなく、VISION 2020(2020年までに新しいボルボ車に搭乗中の事故による死亡者や重傷者をゼロにする)を同社のビジョンとして掲げ、このビジョンを妨げる要因として、➀スピードの出しすぎ(死亡事故要因の25%)、➁飲酒や薬物使用による酩酊(死亡事故要因の33%)、➂注意散漫(死亡事故要因の9%)をあげ、➀への対応として2020年以降に生産される全てのボルボ車の最高速度を、速度無制限のオートバーンのあるドイツ市場向けのモデルも含めて180km/hに制限するとともに、任意に最高速度などを設定できる「ケア・キー」を標準装備するという。加えて➁、➂への対応として2020年代前半導入予定の次世代プラットフォーム以降の全てのボルボ車にドライバーモニターカメラを標準装備し、異常を検知した際に、警告、減速、安全な場所に停車、通報できるようにするという。ボルボの安全性関連技術の開発にあたっての大きな特色は、実際の事故データを分析、活用してきたことで、1970年開始以来の事故データは45,000件にのぼるという。

さらにVolvo E.V.A. で検索すると<E.V.A.とは、Equal Vehicle for All(クルマは全ての人を守るべき)と命名されたボルボの新しいセーフティー・プロジェクト>、ボルボが独自で収集、蓄積した安全に関する知識を集約したデジタル・ライブラリーにアクセスすることができ、各種のデータ、映像に加えて200もの論文に誰でも無償でアクセスすることができるというのもボルボの安全に対する確固たる理念に立脚したもので、是非検索してみてほしい。

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V60 CC (クロスカントリー)
今回はV60 CC T5の試乗の印象を以下ご報告したい。3代目V70をベースに2008年に誕生した最初の60シリーズがXC60というクロスオーバーで、2010年にステーションワゴン版の初代V60、2015年には初代V60 CC(クロスカントリー)が登場、2017年に新世代プラットフォームを採用した2代目のXC60が、2018年には2代目のV60が導入され、今回試乗する機会を得たのが新型V60CC T5だ。

V60CCは210mmの最低地上高の4輪駆動モデルで、優れたラフロード走破性を備えた全天候型モデルながら、全高が1,505mmに抑えられているため立体駐車場の利用も可能で、高めのアイポイントによる視界の良さも魅力だ。アクティブで冒険心に富んだ人たちを対象にしながらも都市部に居住する人たちの日常生活にも適したSUVテイストのクルマで、専用フェンダーエクステンションも貢献してV60ステーションワゴンとは一味違った外観に仕上がっている。

エンジンは2Lのインタークーラー付きターボエンジンで、最高出力は254馬力、35.7kgmの最大トルクが1,500rpmから4,800rpmまで得られ、変速機は電子制御8速ATだ。1.8トンを少し超える車重ながら、走り始めた瞬間から非常に満足のゆく走りを示してくれた。また筒内直接噴射、可変バルブタイミング、電動パワーステアリング、エンジンStart/Stop機能、ブレーキエネルギー回生システムなども燃費効率向上に貢献する機構が採用されている。

新型V60のプラットフォームはSPA(Scalable Product Architecture)と呼ばれるD、Eセグメント用のFFとFFベースの4WD専用のモジュラープラットフォームで、2014年導入の2代目XC90を皮切りに90、60シリーズに採用されており、前輪からアクセルペダルの距離が固定されている以外はその他の全ての寸法を自由に変えることができるという。ちなみにV60CCシリーズのフロント、リヤサスペンションの主要部品はV90CCと共通だ。試乗時の印象としては曲がる・止まるも非常に気持ち良く、路面からの振動伝達も良く抑えられておりに大変好感が持てた。また2014年から全てのモデル、全てのグレードに標準装備されてきた10項目の新安全・運転支援システム(インテリセーフ10)に更に何点か追加されており、ボルボならではの積極的な安全対策だ。V60CCシリーズがアクティブなライフスタイルのユーザーを基軸に今後国内市場の基幹車種に育ってゆくものと確信する。

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ボルボ・カー・ジャパン
次にボルボ・カー・ジャパンに関しても簡単に触れておきたい。ボルボの日本市場への導入はヤナセの系列会社が日本の総代理店になった1960年にさかのぼる。1974年にボルボと帝人の合弁会社に変わり、1986年ボルボ100%出資の日本法人が生まれた。1999年ボルボ乗用車部門のフォードへの売却にともない2000年からフォード傘下のプレミアム・オートモーティブ・グループの一員となるが、その後前述のようにフォードグループの業績悪化の影響を受けて2010年にフォードグループがボルボ・カーズの株式を全て中国の吉利汽車の親会社に譲渡、2013年日本の販売会社の名称が「ボルボ・カー・ジャパン」になった。

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その「ボルボ・カー・ジャパン」を2014年から率いてきたのが木村隆之社長だ。木村社長は1987年に大阪大学工学部を卒業後、同年トヨタ自動車に入社、海外の商品企画を担当、トヨタにおける20年のうち16年間は海外営業を中心に活躍され、中でも欧州市場向けのトヨタヤリスの企画の中核を担い、2003年にはノースカロライナ大学でMBA(経営学)を取得後レクサスに移動、2007年にファーストリテイリングに、2008年からは日産に入られ、インドネシア日産社長、アジア・パシフィック日産、タイ日産代表取締役社長など務められたあと、2014年、ボルボ・カー・ジャパンの代表取締役社長に就任された実に経験豊富な経営者で、近年のボルボの日本市場における躍進の大きな原動力だ。木村社長と自動車ジャーナリストの小沢コージ氏の共著である『最高の顧客が集まる ブランド戦略』(ボルボはいかにして「無骨な外車」からプレミアムカーに進化したのか)≪幻冬舎≫は非常に説得力のある内容で、ご関心のなる方は是非購読されることをお勧めしたい。

木村社長の論点の中で一点私も是非触れておきたいのは広報活動の重要性だ。マツダで通算10年強にわたり広報を担当してきた私としては近年の日本の大メーカーをはじめとする多くのブランドにおける「広報活動軽視」の姿勢に強い危機感をもってきた。たしかにテレビ、新聞、雑誌など古典的といえるメディアのクルマに対する関心の低下、クルマ雑誌の廃刊、若者のクルマ離れのよる発行部数の低下などは否めないが、一方で高額な広告料が必要な「広告」に比べて、ネットも含み対価を払わずに有効な情報を「報道」として拡散できる「広報活動」の方がはるかに必要経費は少ない上に説得性も高く、木村社長の言われる「広報が生み出しているバリュー」に結びつくことは間違いないからだ。

それでも注文はある
以上昨今のボルボの躍進を見てきたが、ボルボに対する注文が全くないというわけではない。まずデザインの刷新だ。安全をメインにアピールしてゆく上では現状のデザインでも問題ないと思うが、プレミアムブランドとして確固たる地位を築いてゆくためにはデザインへの更なる注力は避けて通れないと思う。また車種戦略的にみてバリエーションが複雑で、私も今回この原稿を書くためにかなりな検証を必要としたが、一般ユーザーにもっと分かりやすいようにすべきだと思う。V60でいえばベースモデルとクロスカントリーは非常に近似しており、クロスカントリーとXCに絞ることも一案ではないだろうか?またボルボユーザーにはオピニオンリーダーが多いはずだが、近年のカタログはクルマとの生活をイメージさせる写真が多用される一方で、エンジン、車体、シャシー、安全技術などに関する記述が大変少ないことが理解できない。カタログ内の技術的解説を充実させることは購入を検討している新しい顧客にとっても有意義な情報となることは間違いないはずだ。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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車評 軽自動車編
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