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第93回 新型スズキジムニー
2018.7.27

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国産車、輸入車の新車発表会に出席する機会はたびたびあるが、近年の発表会の会場で、商品コンセプト、内外装デザイン、パッケージング、使い勝手、バリューフォーマネーなどの視点から購入意欲をそそられるモデルが少ない中で、新型スズキジムニーはその場で思わず「欲しい」と感じた、まれにみるクルマだ。広報車両の準備はまだ整っておらず、スズキによる試乗会も8月上旬と、今回の車評オンラインに間に合わないと思っていたが、クルマ関係のビジネスを展開、ジャーナリストもされている旧来の友人出来利弘氏が私同様に新型ジムニーに心をひかれ販売店での試乗後に即刻注文したところ、ラッキーにも7月中旬に入手されたため、原稿の締め切りまでに霧ケ峰方面への一泊二日のドライブをすることが出来た。今回はまず新型ジムニーの商品紹介と、そのドライブを通じての印象をご報告し、次回は8月初旬に予定されているスズキの試乗会でのジムニーと小型車バージョンのジムニーシエラの比較試乗や、開発関係者との話し合いの結果なども含めてご報告したい。新型ジムニーは私にとって不思議なほどインパクトの大きい新型車となった。

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1970年 初代ジムニー(LJ10)

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1972年 初代ジムニー(LJ20)

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1981年 二代目ジムニー(SJ30)


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1998年 三代目ジムニー(JB23)

ジムニーの歴史
まずはジムニーの歴史から始めよう。軽自動車で本格的なオフローダーを目指した初代ジムニーが導入されたのが1970年、半世近くも前だ。当初は国内市場がメインだったが、1977年には小型車枠のジムニー8が挿入され、1970年代後半からは海外市場での販売が急増する。1981年に導入された二代目ジムニーは海外市場を意識した世界戦略車として開発され、小型車バージョンの排気量は1982年に1000㏄、1984年には1300㏄に拡大、1980年以降海外市場で販売台数を急速に伸ばした。1987年には国内市場での販売台数は1.5万台程度だったが、海外市場での販売が20万台近くになり、1987年には累計生産100万台を達成した。

1990年以降海外販売台数が急減するが、その最大の要因は1980年代後半まで続いた円安(1ドル200円以上)が急速に1ドル100円強の円高に変わったことにあるはずだ。なぜならジムニーにとってバリューフォーマネーは非常に大切な要素だからだ。その代わりに2000年ごろまでは国内市場で年間2万台を超える安定した需要があり、1998年に三代目のジムニーが導入されたが、三代目は軽自動車の規格拡大に対応したもので、小型車バージョンはワイドトレッド化されジムニーワイドと称され、2002年からはジムニーシエラに改名された。累計生産は2001年に200万台を達成、以来国内外とも安定した販売台数を確保、これまでの累計販売台数は285万台、販売を行ってきた国と地域の数は194にもなる。ちなみに海外のメイン市場は欧州で、これまでの累計販売台数91万台強と、国内の累計販売台数82万台弱を上回っている。そして今回の四代目ジムニーは20年ぶりのフルモデルチェンジだ。

新型ジムニーの魅力点
新型ジムニーの商品魅力点を整理すると以下の通りだ。

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(1) 伝統の基本構造の継承
・あらゆる条件下で扱いやすいコンパクトなサイズ
・車体剛性を大幅に高めたラダーフレームと副変速機付きパートタイム4WD
・大きなアプローチアングルをもたらすFRレイアウト
・前後輪とも3リンクリジットアクスルによる悪路における優れた接地性
・走りやすさと信頼性を追求した新型エンジンをフロントミッドシップ

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(2) 合理的で無駄のない機能美を追求したデザイン
・車両寸法をフルに活用した機能的なスクエアボディー
・伝統を引き継いだ合理的、魅力的で質感の高いエクステリアデザイン
・個性豊かなボディーカラー
・機能に徹した、魅力的で質感の高いインテリア

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(3) 使い勝手
・取り回しの良いボディーサイズ、見切りの良いボンネットと視界のよさ
・フラット化が可能な後席と荷室
・拡大された荷室容量と向上した使い易さ

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(4) スズキ セーフティーサポートの搭載と優れた衝突安全性
・SRSカーテンエアバッグを含む6つのエアバッグの標準装備
・デュアルセンサーブレーキ、標識認識機能、誤発信抑制機能などを一部グレードに採用

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霧ケ峰往復ドライブ
以下、霧ケ峰往復の試乗での新型ジムニーの印象をお伝えしたい。

走りと燃費
今回の霧ケ峰往復は大人3人+それぞれの手荷物と、ジムニーにとってはかなりな荷重の追加となり、動力性能への影響は明らかだが、それでも高速道路の巡航は全く苦にならず、標高のかなり高い美ヶ原周辺の登坂路では「軽」の非力さを感じたもののそれなりの走りを提供してくれた。ちなみに霧ケ峰では凹凸の激しい山間路を一人乗車でも評価してみたが、軽のオフローダーとは思えないスポーティーで満足のゆく走りとハンドリングに感銘した。近く行われるスズキの試乗会でのジムニーとジムニーシエラの走りの比較も楽しみだ。

車載燃費メーターによる燃費値は高速道路走行時16~17km/L(カタログ値は16.5 )、一般道と山間部走行時が11~13 km/Lと驚くほど良いレベルとはいえないが、今回はほとんどの区間は3人乗りだったこと、従って登坂路では通常よりは一段低いギヤの使用頻度が高かったことなども考えるとなかなか良好なレベルと言えそうで、出来氏が以前愛用していた旧型ジムニーの実用燃費よりは大幅に改善されているとのことだった。

ジムニーで感銘したのは走りと燃費だけではない。ラダーフレーム、前後輪リジットアクスルのオフローダーから想像していた乗り心地、ハンドリング、NVHが私の予測をかなり超える快適なクルマに仕上がっていることにも驚いた。首都高速の継ぎ目はほとんど気にならず、高速道路におけるロードノイズや風切り音などが非常に良くおさえられており、乗り心地もかなりな凹凸のある路面でも決して悪くない。新開発のラダーフレーム、追加クロスメンバー、追加されたX(エックス)メンバーなどにより1.5倍に強化されたボディー剛性と、大型化されたボディーマウントゴムによる振動の吸収なども貢献しているものと思われる。

また新規に装着されたステアリングダンパーによる減衰効果が大きいのか、直進時のハンドルのセンターフィールが良好な上に、舵角を与えた時の反応が素直で、凹凸によるキックバックも非常に少ないなど、ハンドリングの質感も総じて非常に望ましいレベルに仕上がっている。

今回はオフロード性能の評価をする機会は持てなかったが、私が現役時代に各種4WDオフローダーによる比較評価を行った折に、ジムニーのオフロード性能に感服した思い出がある。今回から装着されたブレーキLSDトラクションコントロールにより悪路脱出性は一段と向上しているものと思うので、いずれ新型ジムニーの悪路走破性も体験してみたい。

室内居住性と実用性
長距離走行に耐えられる室内の居住性、実用性、シートの快適性も大きな魅力だ。まずは運転席のシートだが、着座した瞬間から、シートのサイズ感(今回シートフレーム幅が70mmも拡大されたという)、着座時の快適性、凹凸路を走った場合の乗り心地などに好感が持てた。

加えて今回前後乗員間距離が40mm拡大されたため、前席を私のドライビングポジションに設定した際、後席の膝前には握りこぶしが充分入るスペースがあり、リアシートクッションの前後長がやや物足りないが、身長が170cm以上の人でも後席で快適に長時間のドライブに耐えることが可能だ。今回の大人3人乗車での霧ケ峰往復時に後席の快適性も充分に確認することができた。

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また後席のフラット化だけではなく、左右共に前席も含めたフルフラット化ができる為、170cmの人でも快適に車中で横になることがが可能なことは新型ジムニーの顧客にとって計り知れない魅力となるだろう。

ジムニーの商品企画開発関関係者に拍手
先述のように発表会で私の心をひきつけた新型ジムニーは、今回の試乗体験を通じてますますその魅力が拡大、スポーツカーなどを所有している人たちにとっても魅力あふれるセカンドカーとなることは間違いなさそうだ。その理由として、「軽に乗ることのネガティブイメージを全く感じさせず、記号性が高く、胸を張って乗れて、優れたオフロード走行性能に加えて、一般道での快適性、実用性が非常に高いクルマに仕上がっている上に、バリューフォーマネーも非常に高い」ことなどがあげられよう。新型ジムニーの商品企画開発に従事された皆様に心から拍手を送りたい。なぜならこのような魅力にあふれた商品の企画開発は決して容易ではないと思うからだ。8月初旬の開発関係者も交えた試乗会も非常に楽しみだ。ただし予測販売台数を大幅に超える注文が市場から湧き上がってきても不思議はなく、そうした需要にどのように対応するかがスズキの最大の課題になるのではないかだろうか。

近年心に響く新型車が少ない中で、競合各社のマネージメントも含む商品企画開発関係者に是非とも新型ジムニーを味わってみてほしい。そのうえでオフローダーに限定せず、「顧客の心を先取りした魅力的な商品の開発」はどのように行うべきかを議論してみることをおすすめしたい。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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