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第83回 アバルト124スパイダー(ロードスターとの同時比較)
2017.4.27

4代目マツダロードスター(以下ND)とアバルト124スパイダー(以下アバルト)は、プラットフォームが共通で生産も広島のマツダで行われている。NDに関する試乗記はすでに第63回で、その兄弟車アバルトに関する短評は第81回「最近の輸入車試乗記」で報告済みだが、今回NDとアバルトを同時評価する機会がつくれたので、アバルトの特徴を中心にご報告したい。アバルトはイタリア製のターボエンジン、外観スタイル、動的性能などによりNDとはポジショニングと味わいの異なるクルマに仕上がっているため顧客層も異なると考えられ、国内市場では双方にとって相乗効果のあるプロジェクトになることは間違いなさそうだ。

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マツダとフィアットグループの協業
1989年に初代が導入されたロードスターはNDが第4世代で、累計生産台数が100万台を超える世界的に見てもライトウェイトスポーツの代表車種ということが出来る。フィアットグループとの話し合いはNDの開発段階から始まり、当初はアルファロメオブランドとして検討が始まったようだが、フィアットグループ内においてアルファロメオをプレミアムブランドとすることが決定し、その結果NDベースのオープンスポーツカーはフィアットブランドとすることと、北米市場をメインマーケットとすることが決定したのだろう。欧州市場などには自然吸気エンジン搭載車もあるようだが、日本市場とアメリカ市場はターボエンジンのみで、国内では170psのターボ仕様を搭載したアバルト124スパイダー(以下アバルト)のみとなり、アメリカではフィアット124スパイダー(1.4Lターボ160ps)と排気系の違いによると思われる164psのフィアット124スパイダーアバルトが市販されている。

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NDとアバルトの相違点
このようなメーカー間のコラボレーションは生産規模の限られる車種に関しては双方にとって効率的な手法であり、今後も拡大して行っても不思議ではない。差別化のための投資をおさえるために一般的には同一スペックに近いものが多いが、ロードスターとフィアット&アバルト124スパイダーの差別化戦略は大変興味深い。プラットフォームこそ同一だが、フロントウィンド―とソフトトップを除く外観スタイルは独自なのでボディー外板は専用で、全長もアバルトの方が145mm長い。 外観スタイル上の特色は1966年の初代フィアット124スパイダーのデザインモチーフが再現されている点だ。一方の内装デザインは差別化がミニマムで、ドアトリムとシートの外観、細部の装飾などの相違がメインだ。開閉の非常に容易なソフトトップ、キャリーオンバッグなら二つを収納できるトランク、前席シートバック上部のエアロボードによる快適なオープン走行などは両モデルとも共通だ。

フロントのダブルウィッシュボーン、リアのマルチリンクのサスペンションシステムは同じだが、タイヤサイズがNDの195/50R16に対してアバルトは205/45R17と1インチ大きく、アバルトにはビルシュタイン製のモノチューブシュックアブソーバー、ブレンボ製ブレーキシステム(フロントにアルミ製4ピストン対向キャリパー搭載)が装着されている。

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エンジンの違い
アバルトには1.4Lターボエンジン(170ps)が搭載され、国内仕様のNDの1.5L 自然吸気エンジン(出力131ps)よりかなりパワーフルだ。アバルトのエンジンはマルチエアーと呼ばれるもので、フィアットパワートレインテクノロジーが10年の歳月をかけて開発、すでにフィアット&アルファロメオに採用されている。排気バルブ側にはカムシャフトがあるが、吸気バルブは油圧制御により吸気バルブの連続可変タイミング&リフトを実現、バルブタイミングとリフト量には大きな自由度が与えられる。6速MTはNDの流用ではなくNC用のものが使われているとのこと。ちなみにアバルトの国内市場における変速機の選択比率はATのほうがかなり多いようだ。

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内外装デザイン
初代フィアット124スパイダーのデザインモチーフが再現された外観スタイルは決して悪くないが、見方によってはかなりクラシックなデザインといえよう。個人的にはNDの外観スタイルのほうがより近代的で、躍動感があり、リフレクションも魅力的で、フェンダーピークの位置と形状もNDの方が「クルマとの一体感」を感じ取りやすい。しかしアバルトの外観スタイルの方を好まれる顧客層も間違いなくあると思う。

内装は、ダッシュボード、3連メーターなど非常に近いデザインだが、ステアリングホイールの太さ、握りの形状、触感はアバルトの方が明らかにベターだ。加えてシートの内部構造は同一だと思うが、表皮デザイン、カラーリングなどはアバルトの方が好ましく、着座感もアバルトの方がいい。アバルトの内装デザインで一点だけ早急に改善をしてほしいのがスピードメーターの判読性だ。30km/h刻みは妥協するとしても、40、50、70、80、100などの日本では大切な速度の判読がむずかしいのだ。せめて10km/h毎の目盛りを太くするだけでも随分判別が容易になると思う。

走りと燃費
走りと燃費はどうだろう?アバルトのマルチエアーターボエンジンのトルク特性に起因してか、3,500回転以上回すとかなりパンチのある走りが可能だ。高速道路走行中の加速はNDより活発な上に、オプションの排気系の排気音も含めて「男性的な走り」を味わうことが出来る。ただし回転上昇時の音質も含めた「気持ち良さ」はもう一歩なのと、低回転時のトルクはが弱いためか、発進、低速時の走りはそれほどインパクトがないのが残念だ。小生は不慣れなためか発進時に複数回のエンストも経験した。

今回大磯周辺で、あとに短評を紹介する武田隆氏を含め4名で行った屈曲路のかなりなハードな走行も含む比較評価時の実測燃費はアバルトが11.9km/L、NDが13.0km/L、同時に持ち込んだ初代ロードスター(NA)が11.5km/L となったが、アバルトの一般的な走行条件下での燃費はカタログ燃費(13.8km/L)に近いものになるだろう。ちなみにNDでの箱根往復+アクアライン経由千葉往復の実測燃費は16.8km/Lとなった。

曲がる・止まる・乗り心地
この領域はNDが目指している「人馬一体となって駆け抜ける軽快感」とはかなり味わいが異なり、1インチ径が大きくワイドなタイヤ、ビルシュタイン製ショックアブソーバー、ステアリングの味付けなどにより「骨太でしっかりとしたクラシカルなスポーツカー感覚」とでも言えるもので、多くのスポーツカーファンにとって好感の持てるレベルに仕上がっている。乗り心地はNDよりハードだが、ダンパー特性などにも起因してかドライバーへの不快な刺激は少ない。ただしND同様に市街地走行時の乗員に伝わる振動はもう一歩改善してほしいところだ。

アバルトを一言でいえば
NDとアバルト124スパイダーの差別化のための投資規模は分からないが、プラットフォームを共有して、同一工場で生産する兄弟車としては、見た目も走りの味付けもかなり異なる世界的に見てもまれな例といっていいだろう。100万円強の価格差はターボエンジンによる大幅な出力アップ、ビルシュタインダンパー、ブレンボブレーキ、魅力的なシートデザイン、そしてアバルトのネーミングも考慮に入れれば決して高いものではなく、日本におけるNDとのすみ分けは十分に可能なモデルだと思う。一方でメインマーケットであるアメリカ市場のフィアット124スパイダー、フィアット124スパイダーアバルト(いずれも1.4ターボで160psと164ps)とMX-5(アメリカ市場は2.0Lで出力は155ps)はいずれも最廉価モデルが25,000ドル台からと価格帯がほとんど変わらず、性能的にも近似しているため今後のすみ分けがどのようになるかは興味深い。


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武田隆氏の短評

アバルト124スパイダー
ステアリングは太く、サスペンションは硬めで、第一印象としてはマッチョなアメリカンのようにさえ感じる。テスト車に装着されたオプションのマフラーの重厚な排気音もそれを助長する。スタイリングはロードスターに比べるとオーソドックスでも、ロングノーズのプロポーションを借りたうえに素直なボディラインで、見る角度によってはスポーツカーとして惚れ惚れするところがある。けれどもこのクルマの真骨頂は走りだと思う。本来なら通常のロードスターと比較すべきはおそらくフィアット版モデルであって、このアバルト版はハードな走りに耐える仕立てで、クローズドコースで競うのでもなければ、足まわりは多分不足を感じることはなさそう。低回転域で古典的なターボラグのあるエンジンは、高回転域では繊細なアクセルワークに応え、FR車として実にファントゥドライブ。"ブランド・ビジネス"の巧みさも感じられるいっぽう、純粋に走りを楽しめる正統派仕立てのスポーツカーだと思う。

マツダロードスター(ND)
スタイリングは非常にこだわっていて、文句なくカッコイイと思ういっぽう、少し自意識が強いかと感じなくもない。昔の英国製大衆向けオープンスポーツのように、ゆるさがあってもよいかとも思う。しかし不思議なことに、乗ってみると、この乗り味にスタイリングが合っていると感じる。ベーシックモデルということもあって、スポーツカーとしては、足は比較的ソフトでロールをする。エンジンはよく回るいっぽうトルクは細く、ステアリングも握りが細め。車重がそもそも軽いうえに、すべての印象が軽やかで、ことによるとやさしさのようなものも感じられる。単なるスポーツカーではなく、独特の哲学・美学にこだわっている気がする。スポーツカーでありながらアンダーパワーぎみに設定したのは、ある意味思いきったことと思うが、気持ちよいエンジンをいつでも回せるのは、運転好きにとって喜ぶべきことで、MT車で常時まめなギアシフトが望まれるのも、運転好きなら願ってもないことだろう。

試乗車グレード アバルト124スパイダー(6速マニュアル)
≪ ≫内は同時比較車(ロードスターS Special Package)

・全長 4,060 ≪3,915≫mm
・全幅 1,740 ≪1,735≫mm
・全高 1,240 ≪1,235≫mm
・ホイールベース 2,310 ≪2,310≫mm
・車両重量 1,130 ≪1,030≫kg
・エンジン 直列4気筒マルチエアー≪直列4気筒DOHC16≫
・排気量 1,368 ≪1,496≫cc
・圧縮比 9.8 ≪13.0≫
・最高出力 170ps(125kW)/5,500rpm) ≪131ps(96kW)/7,000rpm≫
・最大トルク25.5 kgm(250N・m)/2,500rpm ≪15.3kgm(150N・m)/4,000rpm≫
・変速機 6速マニュアル ≪SKYACTIV-MT(6MT)≫
・タイヤ 205/45R17 ≪195/50R16≫
・タンク容量 45 ≪40 L≫
・JC08モード燃費 13.8 ≪18.8≫km/L
・試乗車車両本体価格 3,888,000 ≪2,732,000円≫(消費税込)

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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