三樹書房
トップページヘ
syahyo
第63回 マツダロードスター
2015.8.27

2014年9月から段階的に情報を開示し、2015年5月から国内における販売を開始した4代目マツダロードスターは、初代が1989年、2代目が1998年、3代目が2005年に導入され、遠からず累計生産台数が100万台に達する、日本が世界に誇るライトウェイトスポーツだ。このたび三浦半島ドライブに加えて、初代ロードスター、ホンダS660、ダイハツコペンセロも交えて、車評コースで、RJC所属の武田隆氏、飯嶋洋冶氏、三樹書房メンバーと評価する機会がもてたので、4代目ロードスターの評価を中心にご報告したい。

04-dai6301.jpg

ライトウェイトスポーツ
スポーツカーにはいろいろなカテゴリーがあるが、軽量、コンパクトなライトウェイトスポーツの母国はイギリスで、かつてはMG、オースチン、トライアンフなど多くのモデルが存在した。市場規模という視点からはアメリカも非常に大切なマーケットだったが、安全規制の強化などにより次々と姿を消してゆく中で、マツダが初代ロードスター(NA)を導入したのが1989年、四半世紀前だ。以来2代目(NB)が1998年、3代目(NC)が2005年に導入され、累計生産台数は2011年2月に90万台を達成、「小型オープンスポーツカー生産累計世界一」としてギネスブックにも登録されたが、100万台達成も目の前だ。4代目(ND)は、一言でいえばライトウェイトスポーツへの原点回帰を目指したもので、世界市場での反応も非常に良好で、今後が楽しみだ。

ND開発上の注力点
2001年以来Zoom-Zoomをブランドのスローガンとして掲げるマツダだが、新型ロードスターの開発に当たっては「スカイアクティブ技術」と「魂動(こどう)デザイン」による「人がクルマを楽しむ感覚の徹底的な進化」に注力したという。その中で特に重視したのが「軽快感」、「意のまま感」、「開放感」とのこと。NAの後継車、NB、NCがアメリカを意識しすぎた結果、サイズ、重量などが拡大傾向にあったことから決別して、「ライトウェイトスポーツの原点回帰と革新」を目指したクルマで、開発におけるキーワードは、「守るために変えて行く」だったとのこと。

NDの開発にあたっては、軽量化への注力は並大抵のものではなく、サイズのコンパクト化に始まり、ボディーシェル形状最適化や、高張力鋼鈑、超高張力鋼鈑、アルミ材の仕様比率の拡大、1.5Lエンジンの採用、エンジン・トランスミッションの最適設計などにより先代に比べて100kgの軽量化を実現したという。エンジンに関しては、アメリカは2Lを譲らなかったのだろうが、国内は1.5Lに限定、6速MTは新規開発だ。後述するが、ソフトトップの開閉性へのこだわりにも拍手したい。

04-dai6302.jpg

04-dai6303.jpg

04-dai6304.jpg

04-dai6305.jpg

04-dai6306.jpg

04-dai6307.jpg

04-dai6308.jpg

04-dai6309.jpg

内外装デザイン
2014年9月、マツダは世界3拠点で同時に新型ロードスターを初公開、新型ロードスターのデザインに初めて接した時の高揚感は今でも忘れられない。NA、NB、NCの中では私はNAのデザインが最も好きで、今でも十分に通用するものと考えているが、一方で、見方によっては、優しすぎ、女性的で、力強さに欠けるという印象は、当初からどうしてもぬぐえなかった。NDはそれらの点でも大きく前進しおり、全体として力強く、躍動感にあふれ、リフレクション(光の反射と陰影)が美しい外観スタイルに仕上がっている。フロントフェンダーピークの盛り上がりも躍動感に大きく貢献している。

内装デザインも奇をてらったものではなく、オーソドックスな造形で、3連メーターも魅力的だ。質感も好ましいレベルに仕上がっている。ボディー色のドアトリムの上部からフェンダーピークへの力強い稜線により、クルマとの一体感を強く感じとることが出来るのもうれしい。ヘッドレストの左右に組み込まれたスピーカーシステムを採用したBoseサウンドシステムは、オープン時にもクリアーに音楽が楽しめ、大変魅力的だ。

内装のマイナス点としては、ステアリングホイール下のひざ上スペースが、身長167cmの私でもぎりぎりで(NAよりもスペースがなく)、アメリカの知人から6フィート2インチの人間の乗り降りは非常に難しいと聞かされた。早急な改善を提案したい。

04-dai6310.jpg

04-dai6311.jpg

04-dai6312.jpg

04-dai6313.jpg

ルーフ開閉と使い勝手
新型ロードスターのソフトトップの扱いやすさは特筆に値するもので、このクルマの大きな魅力点としてもっと強調されてもおかしくない。たまたま今回三浦半島ドライブの帰路、高速道路を80km/hで走行中に突然の雷雨に見舞われたが、減速することもなく、ワンタッチでソフトトップを占めることが出来たのには驚いた。これまでこれほどルーフ開閉の容易なオープンカーを見たことがない。リトラクタブルハードトップの開閉には、クルマを停止し、サイドブレーキを引かなければならない独自規制のある日本では、NDのソフトトップの操作性ははかりしれない価値といえよう。

また機内持ち込み可能な小型旅行バッグなら、2個をトランク内に収納できることにも拍手を惜しまない。なぜならいくらスポーツカーと言っても、小型旅行バッグはもちろん、スーパーに行った際の買い物も積み込む場所がないという割り切りには多くの人が同調できないと思うからだ。ソフトトップの開閉の容易さ、荷物の積載性など、日常生活における使い勝手への配慮は、NDの大きな魅力点だ。

04-dai6314.jpg

走りと燃費
国内市場向けは1.5Lエンジンのみで出力は131ps、NCの2Lエンジン(170ps)に比べると大幅なダウンだが、7,000回転まで気持ちよく回り、アクセル操作に応じたレスポンスも良好だ。一方で、前述のように約100kg軽量化された車体も貢献して、NCにそん色ない走りを実現、新開発6速MTのシフト操作の気持ちよさとも相まって、走る楽しさは大幅にアップをしている。更に、スポーツカーにおいてはエンジンサウンドは大切な要素だが、この1.5Lエンジン音はノイズではなく、サウンドと呼べるものに仕上がっている。

スポーツカーといえども燃費も大切だ。車評コース評価の前日に行った三浦半島ドライブ(高速、一般道、市街地を組み合わせたもの)における実測燃費は14.1km/Lと悪くない数値だった。車評コースでの実測燃費は通常e燃費と非常に近いのだが、今回の車評コースにおける実測燃費は11.8km/Lと、e燃費(14.9km/L)をかなり下回った。その理由としては、評価に参加した7人が、それぞれのクルマの高速、市街地周回中に走りの性能の評価も行ったためと考えるのが妥当だろう。ちなみに同時に評価したNAの実測燃費は9.6km/L、ダイハツコペンセロは11.1km/L(e燃費は18.0)、ホンダS660は14.3km/L(e燃費は18.3)だった。

04-dai6315.jpg

曲がる・止まる
NDは曲がる・止まる、の領域も大変気持ち良い。思い切った軽量化、50:50の前後重量配分、ヨー慣性モーメントの低減、低重心化、軽量高剛性のスカイアクティブボディー、ジオメトリーを最適化した新設計の軽量・高剛性の前後サス、新規採用の電動パワーステなどでなどにより、コーナー時や制動時の自然で正確なフィードバック、車両挙動を目指しており、コーナリング時のローリング、ピッチングは予想よりは大きかったが、決してそれが不安感を醸成するものではなく、クルマの挙動がつかみやすいものになっている。ブレーキのタッチ感とコントロール性の良さも印象に残った。ただし直進時のステアリングオンセンターフィールはまだ改善の余地があるように思う。

振動、騒音、乗り心地(NVH)
NVHについては一言云っておきたい。まず、ルーフをあけて走行する場合は気にならないが、ルーフを閉じて走行中の、粗粒路におけるロードノイズが非常に高いことだ。最上級のレザーパッケージのモデルの場合、ソフトトップ内に吸音性がすぐれたインナークロスが採用されているのは、その対策だろうが、日本のようにルーフを閉めて走行する割合が非常に高い市場ではその条件下での快適性も非常に重要で、300万円近い価格となるスペシャルパッケージにも是非標準装備すべきだと思う。

また、アイドリング時のシフトノブの振動も残念だ。最近の4気筒エンジンでアイドリング時にこれほどシフトノブが振動するクルマに接した記憶がない。エアコンをオフにすると若干よくなるが、それでも許容レベルではない。そしてもう一点気になるのがアイドルストップからの再始動時の振動だ。特に停止中に自動で再始動する場合の振動が大きく、スズキのSーエネチャージ付き軽自動車におけるアイドルストップから再始動した際の振動の無さとは対照的だ。乗り心地は高速道路走行時には問題なく、総じてほぼ許容できるレベルだが、市街地の凹凸路の極低速走行時の乗り心地はもう一歩の改善を期待したい。

NDを一言でいえば
最後にNDの評価を手短にまとめてみると、ライトウェイトスポーツの原点に返るとともに、絶対性能ではなく、「人がクルマを楽しむ感覚の徹底的な進化」に注力したことにより、「心高まる内外装デザイン」、「走ることに夢中になれる運転感覚」、「オープンカーならではの気持ちよさ」が実現、細かい注文はあるが、大変魅力的なクルマに仕上がっていることが確認できた。ただし現在の日本の、そして若者の経済状況を考えるとき、価格はせめてもう20万円ぐらい安くしてほしかったというのが正直なところだ。

試乗車グレード S Special Package ≪ ≫内はNA同時比較車(ベースグレード)
・全長 3,915 ≪3,970≫mm
・全幅 1,735 ≪1,675≫mm
・全高 1,235 ≪1,235≫mm
・ホイールベース 2,310 ≪2,265≫mm
・車両重量 1,030 ≪940≫kg (新型ロードスターSは990kg)
・エンジン 直列4気筒DOHC16バルブ
・排気量 1,496 ≪1,597≫cc
・圧縮比 13.0 ≪9.4≫
・最高出力 131ps(96kW)/7,000rpm ≪120(88)/6,500≫
・最大トルク 15.3kgm(150N・m)/4,000rpm ≪14.0(137)/5,500≫
・変速機 SKYACTIV-MT(6MT) ≪5MT≫
・タイヤ 195/50R16 ≪185/60/R14≫
・タンク容量 40 ≪45≫L
・JC08モード燃費 18.8 ≪12.2(10・15モード)≫km/L
・試乗車車両本体価格 2,754,000円(消費税込)≪1,700,000円(消費税別)≫

同時比較した軽スポーツと初代ロードスターの短評
最後になるが同時比較した軽スポーツ2台と、初代ロードスターにも以下簡単に触れておきたい。

04-dai6316.jpg

04-dai6317.jpg

ホンダS660
このクルマは内外装デザイン、中でも外観スタイルがなかなか魅力的で、これまでの軽スポーツのイメージから一歩踏み出したものといえよう。また「曲がることの楽しさ」では突出しており、ワインディングロードでの走行は実に楽しい。リアミッドに搭載されるエンジンは、64ps規制(?)により頭打ち感があるのが残念だが、6速MTのシフトフィールと節度感はなかなかのものだ。車評コースでの実測燃費はコペンを大きく上回った。ただし高回転時のエンジン音はノイズとしかいえず、「巻いてしまえるロールトップ」をフロントのユーティリティーボックスに収納すると、荷物が一切載せられないことは非常に残念だ。現時点では注文してから入手までにはかなりの日数を要するが、日常性の欠如は多くの人の購入にブレーキをかけることは明らかで、長期的に安定した台数を売り続けることはホンダにとって大きな課題となるだろう。

04-dai6318.jpg

ダイハツコペンセロ
新型コペンは2014年6月にまずローブが登場、その後エクスプレイ、セロというバリエーションが加わった。ローブ導入時に行われたお台場でのジムカーナ走行で、アンダーステアが気にならず、リアもよく追従、軽快に動くビークルダイナミックスの面で予想をかなり上回り、旧型からの進化を確認することが出来た。その後の試乗会での印象も良かったが、今回のセロの市街地評価では、空気圧の高さにも起因してか、市街地凹凸路での乗り心地はとても許容できるレベルではなかった。リトラクタブルハードトップの操作性は良いが、ルーフを開けると物がほとんど積めなくなるのは残念だ。またドレスフォーメーションとよぶ着せ替え人形プロジェクトには「?」マークを付けざるを得ない。総じてターゲットカスタマー像がクリアーに見えてこないのも事実で、かつては北海道から沖縄まで年間20戦、参加者が2000人を超えていたダイハツ車によるジムカーナ大会、「ダイハツチャレンジカップ」の再開を大いに期待したいところだ。

04-dai6319.jpg

初代ロードスター(NA)
NAのような魅力的なクルマが四半世紀以上前に企画、開発され、消えゆく運命にあったライトウェイトスポーツカテゴリーを再生、NB、NCを経てNDにまで進化したことをうれしく思う。NAは今見てもデザインの魅力は大きく、乗ってみても、走りやステアリング・ハンドリングなどは、それなりのレベルにあり、世界中に多くのNAファンが存在するのはもっともだ。日本でも底辺モータースポーツの中核として活躍はしてきたが、アメリカの底辺モータースポーツにおけるMX-5(ロードスターの現地名)の存在は格別で、ワンメイクレースはもちろん、SCCAオートクロス(高速ジムカーナ)では全米でダントツの参加台数を誇る。NDの発売を機に、是非日本でも北海道から沖縄までの「マツダ版チャレンジカップシリーズ」を展開し、一人でも多くの顧客とクルマの楽しさを共有してゆければ、マツダ車の拡販は勿論、日本におけるクルマ文化の推進や、クルマづくりにも間違いなく貢献してゆくものと確信する。

このページのトップヘ
BACK NUMBER

第82回 スズキワゴンRスティングレイ(ターボ)

第81回 最近の輸入車試乗記

第80回 マツダRX-7(ロータリーエンジンスポーツカーの開発物語)の再版によせて (後半その2)

第79回 RX-7開発物語再版に寄せて(後編その1)

第78回 RX-7開発物語の再版によせて(前編)

第77回 ダイハツムーヴキャンバス

第76回 ニッサン セレナ

第75回 PSAグループのクリーンディーゼルと308 SW Allure Blue HDi

第74回 マツダCX-5

第73回 多摩川スピードウェイ

第72回 ダイハツブーン CILQ (シルク)

第71回 アウディA4 セダン(2.0 TFSI)

第70回 マツダデミオ15MB

第69回 輸入車試乗会で印象に残った3台(BMW X1シリーズ、テスラモデルS P85D、VWゴルフオールトラック)

第68回 新型VW ゴルフトゥーラン

第67回 心を動かされた最近の輸入車3台

第66回 第44回東京モーターショー短評

第65回 ジャガーXE

第64回 スパ・ヒストリックカーレース

第63回 マツダロードスター

第62回 日産ヘリテージコレクション

第61回  りんくう7 DAY 2015

第60回 新型スズキアルト

第59 回 マツダCX-3

第58回 マツダアテンザワゴン、BMW 2シリーズ、シトロエングランドC4ピカソ

第57回 スバルレヴォーグ&キャデラックCTSプレミアム

第56回 ホンダ グレイス&ルノー ルーテシア ゼン

第55回 車評コースのご紹介とマツダデミオXD Touring

第54回 RJCカーオブザイヤー

第53回 スバルWRX S4

第52回 メルセデスベンツC200

第51回 スズキスイフトRS-DJE

第50回 ダイハツコペン

第49回 マツダアクセラスポーツXD

第48回 ホンダヴェゼルハイブリッド4WD

第47回 ふくらむ軽スポーツへの期待

第46回 マツダアクセラスポーツ15S

第45回  最近の輸入車試乗記

第44回 スズキハスラー

論評29 東京モーターショーへの苦言

第43回 ルノールーテシアR.S.

論評28 圧巻フランクフルトショー

論評27 ルマン90周年イベント

第42回 ボルボV40

第41回 ゴルフⅦ

第40回 三菱eKワゴン

論評26 コンシューマーレポート(2)

論評25  コンシューマーレポート(1)

第39回  ダイハツムーヴ

第38回 第33回輸入車試乗会

第37回 マツダアテンザセダン

第36回 ホンダN-ONE

第35回 スズキワゴンR

第34回 フォルクスワーゲン「up!」

第33回 アウディA1スポーツバック

第32回 BRZ、ロードスター、スイフトスポーツ比較試乗記

第31回 シトロエンDS5

第30回 スバルBRZ

第29回 スズキスイフトスポーツ

第28回 SKYACTIV-D搭載のマツダCX-5

論評24   新世代ディーゼル SKYACTIV-D

第27回 輸入車試乗会 

論評23 モーターショーで興味を抱いた5台

論評22 これでいいのか東京モーターショー

論評21 日本車の生き残りをかけて

執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

関連書籍
ポルシェ911 空冷・ナローボディーの時代 1963-1973
車評 軽自動車編
トップページヘ