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第44回 スズキハスラー
2014.1.27

昨年11月の東京モーターショーでデビューしたワゴンRベースのクロスオーバー「ハスラー」は少なからず私の心をつかんでくれた一台だ。幸いにも舞浜での試乗会直後にターボ4WDモデルを数日間借り出して評価することが出来たので以下ご報告したい。ハスラーはワゴンRのプラットフォーム、パワートレインをフルに活用、ワゴンRに近い居住性、実用性は維持しつつ、一味違う遊び心のあるデザイン、雪上や軽度のラフロード走行にも適したハードウェアー、更には良好な走行性能と燃費を備えた魅力的なクルマに仕上がっており、地方都市や積雪地帯におけるユーザー層の拡大はもちろん、大都市に住むアウトドアー派などへのアピールも予測される新ジャンルの軽自動車となりそうだ。

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・試乗車 スズキハスラー
・グレード Xターボ 4WD
・全長 3,395mm
・全幅 1,475mm
・全高 1,665mm
・ホイールベース 2,425mm
・車両重量 870kg
・エンジン 直列3気筒DOHC 12バルブVVT インタークーラーターボ
・排気量 658cc
・最高出力 64ps(47kW)/6,000rpm
・最大トルク 9.7kgm(95N・m)/3,000rpm
・変速機 副変速機付きCVT
・タイヤ 165/60R15
・燃料消費率 JC08モード燃費 25.0km/L
・車両本体価格 1,618,050円 (2トーンルーフ仕様)(消費税込)

ハスラーのコンセプト
新型ワゴンRに関しては第35回の車評オンラインをご覧いただければ幸いだが、非常に高い実用性に加えて、70kgもの軽量化、減速中に充電を集約したエネチャージ、アイドルストップ、空調の効率を高めるエコクールの投入などにより、自然吸気エンジンでも不足のない走りと良好な燃費を実現したことを高く評価した。ハスラーは、ワゴンRのプラットフォームやパワートレインをそのまま活用、ワゴンRに近い室内空間と使い勝手を確保しながら、アウトドアーレジャーやスポーツに適した遊び心のある個性的なデザイン、15インチの大径タイヤ(全グレード)、25mm拡大された最低地上高、軽初のヒルディセントコントロール(4WD)などの採用により雪上走行性能の向上やラフロード性能を確保したクロスオーバーで、オフロード性能に重点をおいたジムニーよりはるかに実用性が優れた新しいジャンルのクルマに仕上がっており、地方都市や降雪地帯における生活の幅の拡大はもちろん、大都市に住むアウトドアー派にも新しい軽自動車の価値を提供するクルマになるものと確信する。

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外観スタイル
ワゴンRの大きく傾斜したAピラーとは対照的に垂直近くまで立ったAピラーとボクシーなキャビン、黒色のフェンダーアーチモールやシルバーの前後バンパーガーニッシュなどに代表される外観スタイルはなかなかユニークで、ワゴンRに対して十分な差別化が行われおり、スズキのいう「強いキャラクター」、「伝統の中にも新しさを感じさせるスタイル」、「こだわりのディテール」にも納得だ。試乗車による数日間の走行中予想を上回る多くの人たちが振り向いてくれただけではなく、停車中わざわざ話かけてくる人がいたのにも驚いた。多くの人の目に新鮮に映るのだろう。ただし注文がないわけではない。フロントの可愛い過ぎるデザインはFFに限定し、4WD車だけでももっと力強く男性的なデザインにしてほしいと思うのは私だけだろうか?用品でジムニー風のアッパーグリルを設定するのも一案かも知れない。

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内装デザイン
内装デザインもシンプルで嫌味がなくコンセプトによくマッチしている。インパネカラーパネルは大半がホワイトだが、オレンジの車体色にのみオレンジのカラーパネルが組み合わされる。マルチインフォーメーションディスプレイが組み合わされたスピードメーターも読みやすい。シートは外板色にマッチした細いシートパイピングを除きすべて黒だが、後席も含み、サイズ、触感ともに軽自動車の中ではベストといってもいい。ただしXグレードに装着される革巻きのハンドルの縫い目を含む触感は軽といえども誉められない。ステアリングホイールのデザインは悪くないのだが。

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パッケージングと使い勝手
上記のコンセプト、デザインに加えて、ワゴンR同様の室内居住性と使い勝手はハスラーの大きな魅力だ。「後席の膝前スペースはレクサスLSさえ上回る(?)」とワゴンRで述べたが、後席左右シートの独立スライド(160mm)や3段階リクライニングもうれしい。後席が左右独立でワンタッチでダブルフォールドし、フルフラットな荷室が容易に実現するのも便利だ。

またワゴンR譲りの簡単な操作でフラット化が可能な左右の前後シートアレンジは、ハスラーのアウトドアー派オーナーにとってワゴンRユーザー以上にうれしいポイントとなるはずだ。釣りマニア、スキーヤー、スノーボーダー、キャンプを楽しむ人たちなどにとって、マットを敷くだけで長身の大人二人が足を延ばしてゆったりと寝ころがれる貴重なスペースだからだ。

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走りと実用燃費
走りと実用燃費も悪くない。ワゴンR同様自然吸気(NA)エンジンでも不足のない走りが味わえるのは、R06A 型という新型ロングストロークエンジンと副変速機付きCVT、ワゴンR開発時の大幅な軽量化、「エネチャージ」と呼ぶ減速中の集中的な発電などのお陰だろう。「NAでは一寸不満、やはりターボが欲しい」という大半の競合軽自動車の動力性能と比較して大きな価値といえよう。また停車中はほとんどアイドルストップするため3気筒エンジン特有のエンジン振動はほとんど気にならない。

今回借り出したターボ4WDの走りは高速も含めて非常に良好で、実用燃費が大きな関心事だったが、首都高と市街地を交えた車評コースと近似した走行条件における約200kmの燃費は満タン法で17.4km/Lとなった。これは新型ワゴンR(NA)の車評コースにおける燃費21.2、旧型ワゴンR(NA)の18.5に比べて、ターボ仕様であること、4WDであること、ワゴンR(NA)より80kg重いこと、次項でのべる私があえて減圧した2.0気圧のタイヤ空気圧などを考えるとなかなかの数値で、一昔前のターボに比べると大幅に改善されている。ハスラーを日常の足として使う人にはFF & NA、アウトドアー派なら4WD & ターボという選択肢は大いにありそうだ。

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ハンドリング・乗り心地
重心がやや高いクロスオーバーなので、ハンドリング・乗り心地がある程度犠牲になっているのではと心配したが、1インチ大径の15インチ60タイヤ(ワゴンRは55)、サスペンションセッティング、軽量だが剛性の高いボディーなどに起因してか、ワゴンRよりもむしろしっとりとした乗り味が実現できているようだ。総じて走りの質感は良好でハンドリングもスポーティーとはいえないものの合格点をつけられる。後席の乗り心地は下手な上級セダンよりも良いくらいで長距離ドライブが全く苦にならないのもうれしい。

ただしタイヤの空気圧に関しては一言苦言を呈したい。ワゴンRでは2.8気圧というタイヤ空気圧に警鐘を鳴らしたが、ハスラーは2.5とやや低めの設定なので、今回の長距離試乗に際してはまず標準の2.5のままで走行してみたところ、乗り心地は前後席ともぎりぎり許容できるのだが、ステアリングを通しての路面振動の伝達が不快だった。そこで2.0に落してみると「え!こんなに違うの?」というほど乗り心地、ステアリングへの振動伝達、直進時の気持ちよさなどが改善されることが分かったので、今回大半の走行は2.0で行った。メーカーとしては2.5で認証を受けているので2.0は推奨出来ないだろうが、ハスラーユーザーには是非2.0程度の空気圧を試すことをお勧めしたい。以前にも触れたようにフォルクスワーゲンup! は2名乗車の場合フロントが2.0、リアが1.8でありながら優れた実測燃費を実現しており、スズキに限らず日本全メーカーにカタログ燃費競争のための過剰空気圧設定はやめるべきと改めて強調したい。空気圧を高めることによる実用燃費への貢献は限られるが、適切な空気圧に下げた場合の動的質感の向上は常時体感できるからだ。

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雪上走行と安全への配慮
ハスラーの装備でうれしいのは雪上走行と安全への配慮だ。4WDの場合、175mm(2WDは180)の最低地上高に加えて、滑りやすい下り坂でブレーキなしに7km/hで降坂できる軽初のヒルディセントコントロール、更には雪道などでの発進をサポートする同じく軽初のグリップコントロールなどを標準装備、加えて衝突被害軽減ブレーキ、誤発進制御機能、エマージェンシーストップシグナル、車両走行安定システムなどもベースモデルを除くCVT車に標準装備される。今回は雪上走行を行えなかったが、機会を見つけて是非雪上での評価もしてみたい。

価格
最後に価格帯について一言ふれておこう。車両本体の価格帯は 1,048,950~1,618,050という既存のトールワゴンとあまり変わらないところにあり、その魅力的なコンセプトと合わせて今後かなりな月販台数に結びついてゆきそうだ。


ハスラー(ターボ&4WD)の+と-
十個性的な内外装デザイン
+優れた居住性、実用性と、遊びに適したシートアレンジ
+満足のゆく走りと良好な実用燃費
-フロントの顔つき
-高い空気圧に起因したステアリングへの振動伝達

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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