三樹書房
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第1回 レガシィRSタイプRA(1989)/レガシィ・ツーリングワゴンSTI(1992)
2013.9.27

競技で勝つための「RA」と収益を得るための「STI」

■STIの初代コンプリートモデル
 パフォーマンスを追求するために経験豊富な職人が技術とアイデアを投入――。そんなクラフトマンシップを持つ名車が日本にも少なからず存在する。なかでも、スバルのモータースポーツ活動を統括するスバルテクニカインターナショナル、略称「STI」が手がけたコンプリートカーは日本を代表するスポーツカーだと言っていい。
 詳細は著書『STI 20年の軌跡』と、その増補版にあたる『STI スバルブランドを世界に響かせた25年』に譲るが、1988年に誕生したSTIはスバルブランドのマーケティングおよびプロモーションの一環としてモータースポーツ活動を開始。その一方で独自に収益を上げるべく、STIは保証の過ぎたクルマのエンジンを有償で整備するリンクエンジン事業も展開していた。
 さらに1989年にはレガシィの全日本ラリー選手権への投入に合わせてモータースポーツ用のパーツ開発および販売を開始している。これが後にSTIの主要事業のひとつとなるパーツビジネスへ繋がって行くのだが、これと同様にSTIはラリー競技への投入を前提に限定モデルをリリース。これが1989年12月に発売された「レガシィRSタイプRA」で、同モデルがSTIの手がけた最初のコンプリートカーだった。
 レオーネに代わる主力モデルとして1989年1月にデビューし、10万km世界速度記録を更新したレガシィだったが、同年4月、第2戦の「KANSAIラリー」より参戦を開始した全日本ラリー選手権では、ギャランVR-4で挑む三菱ユーザーを前に苦戦を強いられていた。
 そのため、富士重工業は同年10月にモータースポーツ用のベーシックグレードとして、ダンパーおよびスプリング、ブッシュ類の強化を図った「レガシィRSタイプR」を追加。その競技用グレードをベースにしたマシンこそ、レガシィRSタイプRAで、「Handcrafted tuning by STI」と謳われたとおり、パフォーマンスを追求すべく、STIの手で徹底的にチューニングが行われていた。
 まずエンジンに関して言えば、ハイレベルのチューニングに対応すべく、鍛造ピストンおよび高耐圧コンロッドメタルを採用するほか、吸排気ポートの段差修正研磨やクランクシャフト、フライホイールなど回転計系ユニットのバランス取りを行うことによってシャープなレスポンスを実現していた。
 同時に足回りもダンパー、スプリングの強化を図るほか、各ブッシュ類の硬度をアップすることで、ラフロードでの安定性が向上。さらに直進時のギア比が15、最大転舵時で13というバリアブルギアレシオのエンジン回転数感応型パワーステアリングを採用することによって、フル転舵時のクイックな操作性と高速安定時における安定性の両立を実現した。
 そのほか、ヘッドランプが強化されるほか、アンダーカードが標準装着されるなど、まさに同モデルはラリーに最適なマシンで初級から中級レベルの競技に関してはそのまま出場できるほどの仕上がりとなっていた。それだけにモータースポーツユースでの人気が高く、当初は100台限定モデルと発表されていたのだが、月産20台の販売に変更。さらに1990年5月にはクロスミッションを搭載したBタイプが登場するほか、その後もCタイプ、Dタイプと細かい仕様を変えながらスバルユーザーの主力モデルとして進化を重ねていった。
「競技で勝てるようなクルマを作りたい。どちらかというとセールスより技術主体のクルマでした」と語るのは当時STIで国内営業を担当していた津田耕也だが、その期待に応えるかのように同モデルを武器にスバルユーザーが国内外のラリー競技で活躍する。まさに、同モデルはSTIにとって技術プレゼンテーション的な一台で、後に定着するRAシリーズやスペックCシリーズの先駆けとなったのである。

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STIの初代コンプリートカー、レガシィRSタイプRAは、モデル名のRA=Record Attempt(記録への挑戦)からも分かるように、レガシィによる10万km世界速度記録を達成した記念モデルとして1989年12月に発売された。

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STIが徹底的にエンジンのチューニングを実施。鍛造ピストンや高耐圧コンロッドメタルを採用するほか、吸排気ポートの段差修正研磨やバランス取りが実施されていた。カムカバーのゴールドアルマイト処理が独特の存在感を放つ。

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エンジン回転数感応型のバリアブルクイック・パワーステアリングを採用。ギアレシオは直進時が15、最大転蛇時が13に設定されており、最大転蛇時のクイックな操舵性と高速走行時の安定性を両立した。

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専用のダンパーおよびスプリングを採用するほか、各ブッシュ類も硬度の高い強化パーツを採用。その結果、グラベル路面でも高いレスポンス性能とトラクション性能を発揮するマシンに仕上がっていた。

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エンジンのチューニングに合わせてデュアルラジエータファンを採用。冷却性能の強化が図られていた。

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グラベルラリーの必須アイテム、アンダーカードも標準装備。そのほか、ナイトステージに対応すべく、ヘッドランプも60/55Wから100/80Wのハロゲンバルブに強化されていた。

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90年5月発売のBタイプからはクロスミッションを採用。競技で勝つための技術が注ぎ込まれていたのだが、エクステリアは極めてシンプルで、専用の15インチホイールとリアの「RA」のロゴタイプが同モデルの特徴だった。


■人気のワゴンでSTIバージョンを開発
 このようにSTIにとって初の限定モデル、レガシィRSタイプRAは競技で勝つために開発されたコンペティションモデルで、セールスよりはパフォーマンスを重視して開発されていたのだが、この限定モデルは多くのスバルファンの注目を集めていた。
 同時に「限定モデルは当時のSTI社長、久世(隆一郎)さんのアイデア。その頃、富士重工業の川合(勇)社長からWRCの活動資金は増やせない......と言われていたみたいで、なんとかクルマを作って儲けようとしたことがきっかけでした」と語るのは当時のSTI技術部長、四方寔だが、その言葉どおり、WRCでの活動予算を増やすべく、独自に利益を上げることが求められていたことも影響したのだろう。レガシィRSタイプRAで成功をおさめたSTIは競技者だけでなく、広く一般のファンが楽しめるロードゴーイングカーを企画。かくして1992年8月、ストリートユースとしては初のコンプリートカーとなる「レガシィ・ツーリングワゴンSTI」が発売されたのである。
 同モデルはその名のとおり、レガシィ・ツーリングワゴンをベースに開発されていたのだが、その理由について前述の四方は「スバルで一番売れているクルマで作ろう......ということでレガシィのワゴンをベースにしました」と語る。
 グレードもGTの4ATであくまでもセールス面を重視した車種選択だったが、「ワゴンのAT車両でもちゃんと走れるようにやれることはやりました」と四方が語るようにSTIならではの技術が注ぎ込まれていた。
 まず、特筆すべきポイントが専用ECUを組み込んだエンジンで、これにより約20psのパワーアップを実現するほか、全域でトルクアップを実現。同時にTCUの制御にもチューニングを図ることでスポーティなシフトタイミングを実現していた。もちろん、足回りに関しても専用のスポーツサスペンションが採用されており、当時、スバルのワークスチームでWRCを戦っていたアリ・バタネンが絶賛するほど抜群のハンドリングを獲得していた。
 一方、モータースポーツユースのレガシィRSタイプRAと違って、ストリートユースのレガシィ・ツーリングワゴンSTIではエクステリアに関しても専用のカスタマイズが実施されていた。オリジナルのフロント・リップスポイラーを採用するほか、BBS製のアルミ鍛造ホイールを採用。さらにインテリアに関してもチェリーレッドのステッチを持つエクセーヌシートを採用するなど、まさに走行性能のみならず、トータルでスポーティなコーディネイトが図られていたのである。
 同モデルは受注生産で全国200台限定の発売となったが、STIのスピリッツを満載したスポーツカーとして好調な売り上げを記録する。この成功をきっかけにSTIでコンプリートカー事業が確立され、後のヒットシリーズとなる"STIバージョン"が誕生。こうしてSTIはモータースポーツ活動だけでなく、世界に誇るスポーツカーメーカーとしても注目を集めるようになったのである。

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ストリートユースにおける初代コンプリートカーとなったのが、1992年8月、200台限定で発売された「レガシィ・ツーリングワゴンSTI」だった。セールスを考慮して人気の高いワゴンのATモデルをベース車に採用されていた。

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専用ECUの採用で20psのパワーアップを実現するほか、TCUの制御を最適化することでスポーティなシフトタイミングを実現した。そのほか、内外装もスポーツティに演出するなど走行性能を高めるチューニングのみならず、トータルのカスタマイズが実施されていた。

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ホールド性の高いエクセーヌシートを採用。チェリーレッドのステッチ付きのデザインが初めて採用された。後にこのスポーティなレカロ製シートがSTIバージョンの定番アイテムとして定着していった。

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ECUのチューニングでパワーおよびトルクの向上を図るほか、フロントストラットタワーバーの採用することで剛性を強化。STIの定番アイテム、ストラットタワーバーもこの初代STIバージョンで初めて採用された。

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専用のフロント・リップスポイラーを採用するなど、エクステリアもスポーティに演出。そのほか、バックドアSTI-WRCエンブレムやルーフサイドSTIステッカーを採用するなど、BBS製の専用ホイールと合わせて個性的な存在感を放っていた。

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15インチのBBS製アルミ鍛造ホイールを採用。ちなみにダンパーはアリ・バタネンも絶賛するビルシュタイン製で、後にSTIバージョンとして定着するBBSホイールおよびビルシュタインダンパーもこの初代STIバージョンが出発点となった。

■取材協力および写真提供
スバルテクニカインターナショナル株式会社
富士重工業株式会社
フェロールーム株式会社

※STIの「I」は当初、社名が大文字の「I」、製品名が小文字の「i」の表記となっておりましたが、同企画ではすべて大文字の「I」で統一しています。また、本文では敬称を省略させて頂きました。ご了承ください。

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執筆者プロフィール

1974年(昭和49年)福岡生まれ。建築の専門誌を経て1995年にレーシングカートの専門誌「ジャパンカート」の編集部員としてモータースポーツの取材活動を開始。カート出身ドライバーの四輪レースでの活躍を取材すべく、1998年にモータースポーツの専門誌「オートスポーツ」へ移籍し、F3担当者として国内外のF3レースの取材活動を実施する。2001年にフリーランスの編集者、ライターとして独立し、モータースポーツや自動車関係の取材を実施。2004年に日本で初めて開催されたWRC(世界ラリー選手権)イベント「ラリージャパン」を機にWRC取材を開始し、2005年からはWRCを中心に取材活動を実施している。以降、WRCを中心とするラリー競技のほか、WTCC(世界ツーリングカー)やWEC(世界耐久選手権)、ニュルブルクリンク24時間レース、DTM(ドイツツーリングカー選手権)など国内外のレース競技の取材を実施。近年はレポート執筆のみならず、撮影も実施しており、「carMAGAZINE」(ネコパブリッシング)や「CARトップ」(交通タイムス社)などの様々な媒体に寄稿するほか、タイヤメーカーやパーツメーカーの広告なども手がけている。著書にSTIの活動をまとめた『STI 20年の軌跡』『STI スバルブランドを世界に響かせた25年』(いずれも三樹書房)がある。

関連書籍
STI(スバルテクニカインターナショナル) スバルブランドを世界に響かせた25年
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