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第39回  ダイハツムーヴ
2013.3.27

この連載で図らずも最近軽自動車を取り上げることが多いので、試乗評価の対象が軽自動車に偏り過ぎているとのご批判を受けそうだが、昨今の軽自動車の燃費改善競争には目を見張るものがあり、商品の中身も十分評価に値するもので、国内における新車登録台数も遠からず半数近くになる可能性があるなどの点から注目してきたからだ。TPPに関連してアメリカから非関税障壁として軽自動車がやり玉にあげられる可能性もあるが、今や日本の多くの地域において軽自動車は生活の必需品であり、アメリカの圧力により軽自動車の税金などを見直すことなどということが絶対にあってはならない。一方では規格の一部見直しにより、これまでこの連載で訴えてきた「ガラパゴス状態から脱出した世界に通用する軽自動車」を模索する好機かもしれない。

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・試乗車 ダイハツムーヴ
・グレード X "SA"
・全長 3,395mm               
・全幅 1,475mm
・全高 1,620mm 
・ホイールベース 2,455mm 
・車両重量 810kg 
・エンジン 直列3気筒DOHC 12バルブ 
・排気量 658cc
・最高出力 52 ps(38kW)/6,800rpm
・最大トルク 6.1kgm(60 N・m)/5,200rpm 
・変速機 CVT
・タイヤ 155/65R14 
・燃料消費率 JC08モード燃費 29 km/L 
・車両本体価格 1,250,000円(消費税込) 

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新型ムーヴの簡単なご紹介
新型ムーヴはモデルチェンジではなく、2010年12月に導入された5代目ムーヴのマイナーチェンジだが、2011年11月にミライースに搭載し導入された「e:Sテクノロジー」から一段と進化した「e:Sテクノロジー第2弾」が投入され、29.0km/Lというトールワゴンクラストップのカタログ燃費を実現している。加えて2WD全車にフロント、リアスタビライザーを装備することなどにより動的特性も大幅に向上、フロントフェイス、インパネデザインまで一新するなどあたかもモデルチェンジと言ってもよい進化だ。スマートアシストという衝突回避支援システムが"SA"のつくグレードには標準装備されることによる家族の安全への価値を見出す顧客層も少なくないだろう。

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燃費
今回の評価結果も実測燃費から始めたい。車評コースを終日走った上での満タン法による実測燃費計測は今回行えなかったが、車評コース中の高速セクション、市街地セクションにおける燃費を車載の燃費計で計測した結果、高速で27.4km/L、市街地で16.5 km/Lという素晴らしい燃費値を記録した。これは新型ワゴンRの23.3、16.2より良く、インサイトの22.2、12.5を大きく上回り、新型プリウスの25.7、19.1にも迫る素晴らしい数値だ。

ダイハツが「e:Sテクノロジー第2弾」として採用した技術は、CVTフルードの低粘度化に加えて、「CVTサーモコントローラー」というエンジン冷却水を活用したCVTフルード温度の最適化によるCVTの効率向上、CVTサーモコントローラーで最適化された温度に応じた燃料噴射や変速制御の最適化、気筒ごとの点火タイミングのコントロール、アイドルストップ機能の速度領域の拡大などだ。

走る・曲がる
最近の軽自動車の燃費改善でうれしいのは走りを犠牲にしての燃費向上ではなく、走りの向上も伴っている点だ。今回の新型ムーヴも、走りに関しては自然吸気エンジンでありながら市街地、高速ともほとんど不足を感じるシーンはなく、その優れた燃費と合わせて考えるとき「自分が買うなら自然吸気仕様で十分」と思えるものに仕上がっていた。ただし、静止、あるいは低速からの加速に関して言えば、減速時にほとんどすべての充電を行い、加速中や定常走行中にほとんど発電をしない「エネチャージ」を搭載したスズキワゴンRに一歩分がありそうなので明確にしたいところだ。また両車ともアイドルストップ機構が装着されているが、再始動時間、再始動時の音、振動に関しても同じくワゴンRがやや優れており、これらの領域に対するダイハツの更なる挑戦が大いに期待される。

また2WDには標準装着となった前後スタビライザー、全車に採用されたローダウンサスペンションの効果は大きく、これまでのダイハツ車の常であったステアリングを切った際の斜め前方へのボディーロール、直進安定性、ハンドリングなどが大きく改善され、走ることが気持ちの良いクルマに変身しているのもうれしい。だだし、ステアリングセンター付近でのリニアリティーやレスポンスなどにはまだ改善の余地が残されており、乗り心地も大半の路面でほぼ問題ないが市街凹凸路ではやや気になり、もう一歩の改善を期待したい。

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内外装デザイン
フロント周りのデザイン変更でムーヴの存在感はかなり拡大したが、インパネ周りが新設計となった内装も造形、質感ともになかなかのもので、狭い全幅の中でのドアのインナートリムの厚み感の演出もなされており、各種小物入れに対する配慮も半端ではない。ただし折角の革巻きステアリングホイールの触感が、革の選択、もしくは劣化防止処理に原因があるのか、VW系のウレタンホイールに及ばないのが残念だ。

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室内居住性
私がトールワゴンと呼ぶこの種のボディータイプの軽自動車の室内居住性、中でも後席の居住性は、多くのコンパクトカーは足元にも及ばないもので、シートアレンジ機能も含めて実用性は全く文句ないレベルだ。ただし一寸気になったのはシートのクッション長だ。前後ともあと20~30mmは欲しいと感じるのは私だけだろうか?もう少し長ければ長距離ドライブにおける疲労度も違ってくるはずだ。

守れ軽自動車の特典
以上のようにマイナーチェンジにも関わらず新型ムーヴは大きく前進しており、ダイハツの並々ならぬ開発努力には頭が下がるが、一方ではムーヴ試乗当日に舞浜で試乗会の行われたスズキスペーシアも、走り、燃費、室内居住性、実用性などの点で大いに共感できるものであり、間もなく導入される三菱・ニッサンの軽自動車も含めて、軽自動車の商品開発競争は顧客の視点からみれば大変好ましいことだ。「日常使うクルマなら軽自動車で十分」と思うユーザー層が一段と拡大することは間違いなく、国内における新車登録台数は遠からず半数近くになるだろう。

そこで心配なのがTPPに関連する米国の圧力だ。日本市場で足場を築けない彼らの当初の批判の対象は軽自動車の規格にあったようだが、この議論には「米国も軽をつくればいいではないか?」という反論が出るのは当然であり、議論の対象が軽自動車の税制に転換してくる可能性もあるが、今や日本の多くの地域において軽自動車は生活必需品であり、米国の圧力により軽自動車の税金を見直すことなどということが絶対にあってはならない。

一方では(現在軽自動車を生産していないメーカーも巻き込むことは容易ではないと思うが)、サイドインパクト(側方衝突に対する安全性の確保)の視点からは狭すぎる全幅など、ガラパゴス状態の規格を一部見直して、「世界に通用する軽自動車」を模索する好機かもしれないし、それが今後の日本の自動車産業の世界における足場を一段と強化する秘策となる可能性もあるのではないだろうか。

ムーヴの+と-
+ハイブリッド車に近い実用燃費
+自然吸気エンジンでも不足のない動力性能
+大幅に改善されたハンドリング
-市街地凹凸路での乗り心地
-やや気になるロードノイズ
-シートクッション長

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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