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第35回 スズキワゴンR
2012.11.27

今回は9月に発売された5代目スズキワゴンRの評価結果をご報告しよう。軽トールワゴンという新カテゴリーの初代ワゴンRが導入されたのが1993年、以来380万台近い累計生産台数に加えて毎年のように軽自動車No.1の販売実績を記録してきた。今回のワゴンRはパッケージング、外観スタイルこそ前モデルに非常に近似しているが、内容的には全くの新型車で、R06A 型というロングストロークエンジンと副変速機付きCVTの採用、最大70kgにも及ぶ軽量化、「エネチャージ」と呼ぶ減速中の集中的な発電とリチウムイオンバッテリーによる効率的な減速エネルギーの回生、13km/h以下でエンジン停止するアイドルストップシステムの採用などにより28.8km/Lのモード燃費を実現している。

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・試乗車 スズキワゴンR
・グレード FXリミテッド
・全長 3,395mm
・全幅 1,475mm
・全高 1,640mm
・ホイールベース 2,425mm
・車両重量 790kg
・エンジン 直列3気筒DOHC 12バルブ吸排気VVT
・排気量 658cc
・最高出力 52ps(38kW)/6,000rpm
・最大トルク 6.4kgm(63N・m)/4,000rpm
・変速機 副変速機付きCVT
・タイヤ 155/65R14
・燃料消費率 JC08モード燃費 28.8km/L
・車両本体価格 1,249,500円(消費税込)

新技術の簡単な紹介
新型ワゴンRではいくつかの興味深い技術的挑戦を行っているので、以下その内容を簡単にご紹介しよう。
《エネチャージ》
これまでのクルマでは発電は常時行われてきたが、新型ワゴンRでは高効率・高出力オルタネーターとリチウムイオンバッテリーを全車標準装備、減速エネルギーを最大限に回収することにより発電の多くは減速中に行い、加速や定常走行時の発電を最小限にとどめて燃費を向上、加えて加速感の向上にも貢献している。
《アイドルストップ》
最近はアイドルストップするクルマが急増しているが、新型ワゴンRでは従来の停車時にエンジン停止するシステムに代えて、車速が13km/h以下になるとエンジンを停止するシステムを採用ことにより長時間のアイドルストップを実現した。そのためにエンジン、CVTなどの制御も高精度化された。
《エコクール》
従来のアイドルストップシステム装着車の場合、暑い外気温下の市街地走行ではエアコン機能保持のためアイドルストップ時間は非常に短かったが、パラフィン系の蓄冷材をエバポレーターに内蔵することにより、コンプレッサー停止後も冷気を維持しやすくなるため、アイドルストップ時間が大幅に拡大された。
《最大70kgの軽量化》
燃費、走りの向上にとって車両重量の軽減は非常に重要だが決して容易ではない。800kg前後の車両重量のクルマで今回最大70kgもの重量軽減を達成した努力には掛け値なしに頭が下がる。ボディーや足まわりは20%、内装部品は15%、エンジン、外装部品、ドア、シートは10%の軽量化を実現したという。

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燃費
新型ワゴンRの車評コースにおける実測燃費は以下の通りとなった。
車評コース総合燃費 : 21.1km/L (AC on、完全満タン法)
車評コース首都高部分 : 23.3km/L(メーター読み)
車評コース市街地部分 : 16.2km/L(メーター読み)
21.2km/Lという総合燃費は、過去に車評コースで計測したインサイトの20.1km/Lを上回り、フィットハイブリッドや旧型プリウスと全く同じ数値で、コンパクトハイブリッド車並みの数値だ。(ちなみに前回紹介のVW up!は15.8km/L)

次にこれまでに評価してきた歴代のワゴンRの車評コースにおける総合燃費をご紹介するが、その進化ぶりには目を見張るものがある。
3代目(4AT):13.4 km/L
3代目(CVT):16.4km/L
4代目(CVT):18.5km/L
5代目(CVT):21.1km/L

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走り
新型ワゴンRは走りの改善も評価したい。3代目まで遡ると、その走りは以前にライバル車と比較して若干劣ると書いたとおりであり、ターボエンジンでないと満足のゆく走りは期待できなかった。それが4代目になると自然吸気エンジンでも「まあこれなら妥協できる」というレベルに向上、今回の5代目は、「これで十分だ」と言えるレベルに達していることに驚かされた。発進はもとより、市街地走行、高速道路走行でも不足は感じなかった。その要因はR06A 型というロングストロークエンジンと副変速機付きCVTの採用(すでにMRワゴンやアルトエコなどには使われ、ワゴンRは今回から)によるところが大きいと思うが、「エネチャージ」による発進時の充電負荷の排除と、70kgもの軽量化の影響も大きいはずだ。

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パッケージング、実用性、各種装備
トールワゴンの特徴を最大限に生かしたワゴンRの室内居住性は、全幅の狭さを除けば前席、後席とも従来から文句ないレベルで、後席の膝前スペースはレクサスLSさえ上回る(?)と感じるレベルだ。フラットフロアー、後席シートの独立スライド、3段階リクライニングもいい。後席はワンタッチでダブルフォールディングし、フルフラットな荷室が即座に実現、助手席も前方に倒せば長尺物の搭載も容易だ。助手席下のボックス、インパネ周りの収納スペース、ドリンクホルダーなど物入れに対す配慮も十分だ。また全車にエコクール式フルオートエアコン、前後のパワーウィンドーなどが標準装着されるのもうれしい。

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内外装デザイン
内外装デザインに関しては評価が分かれるところだろう。いくら前モデルのデザインが好評だったとはいえ、なぜここまでそれにとらわれる必要があったのだろうか? もう少し斬新で、質感が高く、セクシーな外観スタイルなら、大幅に改善された走りと燃費、文句のない居住性と実用性とも合わせて、これまでとは異なるユーザー層、都市部での拡販などが十分に狙えたのではないか。内装デザインは従来モデルと大きく変わらず、非常にオーソドックスだが、それなりの質感が実現されていると思う。

曲がる/止まる
曲がる/止まる、の領域は日常の足として使うには十分だが、フロントスタビライザーの装着されているスティングレーは別にしてワゴンRの場合、高速領域のステアリングの正確性や操舵時の車両の動きなどに関してはもう一歩と言わざるを得ない。また減速エネルギーの回生との関わりは定かではないが、試乗車の場合はブレーキ初期の空走感が気になり、リニアリティーが高いとは言えなかった。この領域にもう一段の磨きをかけることによりユーザー満足度を間違いなく拡大できるはずだ。

振動・騒音・乗り心地
アイドルストップの述べ時間が長いことにも起因し、3気筒エンジンの音と振動はほとんど気にならないが、転がり抵抗を重視した省燃費タイヤ、軽量化による遮音材の節約もあるのだろうか、粗粒路におけるロードノイズは気になり、風切り音もかなり大きい。ここで是非言及しておきたいのが最近の日本の燃費志向車に共通している「カタログ燃費改善のための」高い空気圧だ。ワゴンRの場合前後輪とも2.8気圧と高く、それによる高速道路上の舗装の継ぎ目や市街地の凹凸路におけるタイヤからの突き上げや後席の乗り心地は要改善レベルだ。自分が所有したら実用燃費が若干悪化するにせよ間違いなく空気圧を下げて乗るだろう。ちなみに同じように省燃費を狙ったフォルクスワーゲンup!の空気圧は2名乗車の場合フロントが2.0、リアが1.8気圧であり、高圧タイヤを採用していない。

新型ワゴンRの+と-
+コンパクトハイブリッドカー並の優れた実用燃費
+自然吸気エンジンながら不足のない走り
+十分すぎるほどの室内居住性と実用性
-高い空気圧にも起因した乗り心地
-ステアリング・ハンドリング、ブレーキ
-ロードノイズ・風切り音

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ガラパゴスからの脱出
最後に改めて警鐘をならしたいのが軽自動車の「ガラパゴス」車両規定だ。日本の自動車産業の将来を考えるとき、日本市場だけを対象にした車両規定ではいずれ日本が取り残されてしまうことは間違いない。全長を3,500mm前後、全幅を1,600mm前後、排気量を800cc程度にすれば間違いなく世界各地で通用するベイシックカーになると思うし、日本のこれまでの軽自動車のノウハウの蓄積はこの上ない貴重な財産となるはずだ。もちろんその場合、国内における軽自動車の税制上の恩典は維持することが絶対条件だ。軽メーカーをはじめ自動車工業会などに是非とも動いてほしいと思うのは私だけではないだろう。 

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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