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第34回 フォルクスワーゲン「up!」
2012.10.29

10月1日から販売が開始されたフォルクスワーゲンup! は大変興味深いコンパクトカーだ。結論を一言でいえば、細部に対する注文はあるが、コンパクトながら質感の高い内外装デザイン、大人4人で小旅行ならできる居住性、新開発の3気筒1リッターエンジンとシングルクラッチ自動変速機による不足のない走り、剛性の高い車体にも起因したステアリング・ハンドリングを中心とする"走る楽しさ"、そして小型ハイブリッド車に近い実測燃費など魅力あふれるクルマだ。今回一般コースにおける評価に加えて、車評コースで実測燃費も測定したのでこれも合わせてご報告したい。

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・試乗車 フォルクスワーゲンup!(アップ)
・グレード high up!(4ドア)
・全長 3,545mm
・全幅 1,650mm
・全高 1,495mm
・ホイールベース 2,420mm
・車両重量 920kg
・エンジン 直列3気筒DOHC (4バルブ)
・排気量 999cc
・最高出力 75ps(55kW)/6,200rpm
・最大トルク 9.7kgm(95N・m)/3,000~4,300rpm
・変速機 5速ASG(シングルクラッチタイプ自動変速)
・タイヤ 185/55R15
・燃料消費率 JC08モード燃費 23.1km/L
・ベース車両本体価格 1,830,000円(消費税込)

商品概要
3,545mmという短い全長ながら、タイヤを四隅に配置、エンジンのサイズや配置などを工夫して室内を最大限にするレイアウトを実現することにより大人4人乗車しての小旅行も可能で、新開発の3気筒1リッター自然吸気エンジンとシングルクラッチ自動変速機(5速ASG)による不足のない走りを得ながら、カタログ燃費は23.1km/Lを達成している。加えて小型車にありがちな質感上の妥協を排するとともにクラスを超えた安全面での配慮がなされており、小型化に拍車をかけるにふさわしいコンパクトカーだ。低速域追突回避・軽減ブレーキを全車標準装備、車両本体価格は3ドアのmove up!は149万円、5ドアのmove up!は168万円、今回評価したhigh up!は183万円。

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外観スタイル
先進的とはいわないがup!の外観スタイルには共鳴できるところが少なくない。室内スペースを最大限確保するために4隅にタイヤを配した独特のプロポーション、優しさと親しみを感じるフロントデザイン、大きな面積のグラスハッチとユニークなテールランプにより後方から一目でup!とわかるリア周り、サイドウィンドーのふちどり、大きな前後のVWエンブレムなど、up!のデザインにかけたフォルクスワーゲンの意気込みをうかがわせるに十分だ。

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内装デザイン
内装デザインも日本のコンパクトカーや軽自動車などに比べてその魅力が引きたつ。インパネからドアトリム周りはシンプルかつクリーンなデザインで、ステアリングホイールの形状、スピードメーターのサイズ、視認性などもいい。シートも見た目が新鮮な上に、前席、後席とも着座感、ホールドが優れたものだ。up!の試乗会で最も印象に残ったのが、high up!のトルネードレッドと呼ばれる赤いボディーカラーとそれに組み合わされた外板色と同色のダッシュパッド、ドアインナーパネルのモデルだったので、試乗車もそれを選んだが、この組み合わせは何度見ても新鮮で、運転している自分が若返ったような気分にすらなる。私が購入するならこの組み合わせを選択するだろう。

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パッケージング
パッケージングもなかなかだ。軽自動車に比べて約150mm長く、ポロより450mm短い全長、軽自動車より175mm広い全幅、軽トールワゴンに比べると約150mm低い全高、軽自動車とほぼ同等のホイールベースをもち、その非常に短いフロントのオーバーハング部分(前車軸中心から最前部までのスペース)にコンパクトな1リッターの3気筒エンジンが搭載される。175mm広い全幅に起因し、前席は軽自動車とは比較できない横方向の余裕があり、これなら隣の人との距離感も気にならない。逆に後席の膝前スペース、頭上スペースは軽トールワゴンと比べるべくもないが、それでも大人2人がしっかりと座れ、シート後方にはポロに匹敵するラゲッジスペースが確保されている。このパッケージングをみて軽自動車規格、中でも全幅の狭さの「ガラパゴス」ぶりが改めて気になるのは私だけではないだろう。車両重量は、高張力鋼板の広範囲な活用も含め2ドアで900kg、4ドアで920kgに収められている。

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走り
1リッター3気筒エンジンと5速ASGによる走りは、燃費重視の自動変速モードでアクセルを優しく踏みこんでの加速は、変速点が非常に早くエンジン回転数が常に低く保たれる。さらにアクセルの踏み込み量により変速点は変わってゆくので、加速に不足を感じることはまずない。ただしASGのシフトアップ時の前後Gは多くの人にとって不快と言えるレベルであり、アクセル操作によりショックを小さくすることは可能だが改善が必須だ。一方マニュアルモードでは非常にスムーズなシフトアップが可能なので、自動変速でもそのような制御は可能ではないだろうか?マニュアルモードでうれしいのは、その気になれば高回転まで胸のすく加速をしてくれることと、減速時に自動で見事にシフトダウンしてくれることで、慣れれば市街地での手動変速も全く苦にならないばかりか、逆に新しい運転の楽しみにすらなりそうだ。私がこのクルマを所有した場合は9割近いシーンでは手動変速で運転し、限られたシーンで自動変速を使うだろう。AT限定免許で運転できるため、このクルマを選択枝に入れられる人がふえるというメリットも小さくない。

燃費
今回色々な条件下で以下のような燃費が得られた。
車評コース総合燃費 : 15.8km/L (AC on、満タン法)
車評コース首都高部分 : 22.9km/L(メーター読み)
車評コース市街地部分 : 12.8km/L(同じく)

第3京浜80km/h定常 : 25.0km/L (AC off、メーター読み)
高速100km/h定常  : 22.5km/L(同じく)
都内一般道(世田谷~港区):19.0km/L(同じく)

これらの数値を見て言えることは、up!の燃費がコンパクトハイブリッドに非常に近いということだ。過去のデーターを引っ張り出してみると、車評コース首都高部分のハイブリッド車の燃費は インサイト:20.1、CR-Z:18.4、フィットハイブリッド:21.2、旧プリウス:21.2、新プリウス:25.2、一方で車評コース市街地部分では電動領域が多いプリウスの19.1は別にして、インサイト:12.5、CR-Z:10.3、フィットハイブリッド:12.4となっており、これらと非常に近接した数値であることが分かる。ただしup!はハイオクタンが必要なのが残念だ。また一言お断りしておきたいのが、VW車に共通することではあるが完全に満タンにすることが極端にむずかしく、目測による完全満タンにはやや不正確さが否めないない点だ。

曲がる/止まる
up!は曲がる/止まる領域も非常に気持ち良く、日本のコンパクトカー、軽自動車とのかなりなギャップを見せつけられた。最大の要因はボディーの2/3に超高張力、高張力鋼板が使われ、更には熱間成形鋼板も存分に活用されていることなどによるボディー剛性の高さにあると思うが、サスペンションセッティングなど開発段階におけるこの領域への注力にも日本のコンパクトカーとは大きなギャップがあることは間違いないだろう。ブレーキのリニアリティと効きも良好だ。

NVH(振動、騒音、乗り心地)
NHVの良さも光った。試乗車にはブリヂストンのエコピアEP25という15インチタイヤが装着されていたが、空気圧は最近の日本車に多く見られる2.6~2.8というカタログ燃費を狙った高圧ではなく、2人乗りの場合フロントが2.0、リアが1.8という設定になっていることにも拍手を惜しまないし、前席、後席とも市街地でやや突き上げを感じる以外は高速では大変しなやか、かつしっとりとした乗り心地を味わうことができた。またロードノイズ、風切り音が少ないのもうれしい。レインボーブリッジ上の路面はロードノイズに不利な粗粒路に加えて多くの場合強い風が吹くが、ここでもup!の室内は大変静かだ。

改善を期待したい点は?
このように書いてくると、up!には何ら問題がなさそうだが、いくつか要改善点はあるのでそれを列挙してみよう。
 ASGの自動変速モードにおけるシフトアップ時の前後G
 クリープのないASG故のゆるい坂道における動き出し
 プレミアムガソリンの使用
 ドアミラー自動折りたたみ機構の欠如
 助手席ウィンドーの開閉が運転席からは不可能
 市街地走行時の突き上げ感

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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