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第31回 シトロエンDS5
2012.7.27

8月から販売が開始されるシトロエンDS5の試乗会が7月上旬御殿場で行われたため、今回の「車評オンライン」では予定を変更してDS5に対する感想をお伝えし、スポーツカー談義は次回としたい。昨年のモーターショーで私が最も魅力あるデザインと思ったクルマがシトロエンDS5だったが、今回改めてその内外装デザインに感銘するとともに、セダンでも、ステーションワゴンでも、クーペでもない大人4人がグランドツーリングを楽しめるという新しいコンセプト、高速巡航、ワインディングロードも含めて走ることが楽しいビークルダイナミックス、高すぎない価格も含めて、クルマ好きな人達にとって大変魅力的なクルマに仕上がっていることを確認した。現在世界的にみても右に出るデザインはないと言っても過言ではなく、日本メーカーにも是非とも注目してほしい1台だ。

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・試乗車 シトロエンDS5 Chic
・全長 4,535mm
・全幅 1,870mm
・全高 1,510mm
・車両重量 1,550kg
・エンジン ターボチャージャー付き直列4気筒DOHC16
・排気量 1,598cc
・最高出力 156ps(115kW)/6,000rpm
・最大トルク 24.5kgm(240N・m)/1,400~3,500rpm
・変速機 6速AT
・タイヤ 225/50R17
・燃料消費率 JC08モード燃費 11.3km/L
・車両本体価格 4,000,000円(消費税込)

日本デザインの低迷
クルマほどデザインが商品力を大きく左右する工業製品はないといっても過言ではないが、日本車の過去を振り返ってみると優れたデザインのクルマが何台かあり、コスモスポーツ、初代フェアレディZ、トヨタ2000GTなどはその一例としてあげられよう。また1980年代から1990年初頭にかけてマツダが推進した「ときめきのデザイン」は世界的にも注目された。しかし近年の日本車のデザインはどうだろうか。新型ニッサンマーチ、新型カローラ、新型三菱ミラージュなどのエントリーカーはもとより、レクサスGSにいたるまで世界をリードするデザインとは言い難く、欧州車とのギャップは縮まるどころかむしろ拡大、韓国車に追い越されつつあるのが現状だ。

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DS5: 彫刻作品のような独創的なフォルム
昨年の東京モーターショーにおける国産メーカーの展示車両のデザインには、マツダの「たけり」のように期待を抱かせるものもあったものの、総じて落胆せざるを得なかった中で、私が引きつけられたのがシトロエンブースに展示されていたDS5だった。シトロエンのプレスリリースの言葉を引用するならば、「クーペのような滑らかなスタイルを持ち、グランツーリスモとステーションワゴンを融合させた独自の個性を表現するフォルム」と、細部にわたるデザインの磨きこみにより、個性的で強烈な存在感と上質な雰囲気がつくりこまれているのが何よりもうれしい。デザイナー、ソフトプランナー、レイアウト設計者のコラボがどのように行われたのかは大変興味深いが、シトロエンDS5のデザインは日本車のデザインへの大きな警鐘としても重要な意味を持つもといえよう。

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細部にわたる独特な造形
シトロエンの広報資料にDS5のデザインのベースになったのは「大きな岩」で、まずは岩を削るイメージで造形が開始され、次第に磨きこまれた、とあるように、全体のフォルムが彫刻作品のように個性的かつ魅力的であることが最大の特色だ。加えて細部にわたる独特な表現も魅力に満ちている。まずはそのフロント部をみてみよう。ダブルシェブロンをモチーフにしたフロントグリル、空力追求の中にも個性をうまく表現したフロントバンパーエアーインテーク、精かんな表情のヘッドランプ周りなどに加えて、ひと目でDS5と分かるデザイン処理がサーベルラインと呼ぶヘッドライトからAピラーにいたるクロームメッキメンバーなどの造形が素晴らしい。またサイドからリア周りも個性にあふれたデザインの練り上げが行われている。ただし改善すべき点が皆無ではない。空力上の理由とは思うが、リアスポイラーがバックミラーのほぼ中央に位置するため、後方視界の障害になっている。

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内装デザイン
内装デザインも外観スタイルにひけを取らないくらい魅力的だ。まずは全体の造形が決して奇をてらったものではなく、機能的であるとともに、触感も含めて細部まで手を抜くことなく、高い質感が作りこまれている。フラットボトムのステアリングホイールとそのボトム部分のシルバーの加飾も魅力的で、かなりな舵角を与える場合の操作性も決して悪くない。コックピットルーフと呼ぶサンルーフや、航空機のスイッチ形状をモチーフにしたというスイッチ類もなかなか魅力的だ。CX-5にも装着されているバックカメラ、サイドカメラの映像を映し出すモニター付き自動防眩ルームミラーが日本仕様に標準装備というのもうれしい。ただし内装デザイン上のマイナス評価もゼロではない。ヘッドアップディスプレイが補完してくれるものの、アナログスピードメーターの視認性はベストとはいえず、リアサンシェードの開閉が後席からは出来ず、リアウィンドーの開閉スイッチがセンターコンソール上にあり後席の乗員による操作がやりにくいなど、機能とデザインとの融合にはやや難があり、その点ではドイツ車に一歩譲るのが残念だ。

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シート
シートの居住性が良いのはフランス車の常だが、DS5も例外ではない。フロント、リアともに居住性は良好で、フロントシートクッション前端は長身者への対応のため前方に引き出せる。また試乗したクルマに装着されていた「クラブレザーシート」(オプション装着450,000円高)は腕時計のベルトをモチーフにしたとのこと、質感も半端ではない。また「使い込むほどに味の出る」というレザーは、使いこんでもウレタン塗装の触感から抜け出せない日本車のレザーシートとは明確に一線を画すものだ。椅子の文化の歴史の違いと言って割り切れるものではない。

満足のゆく動力性能
以上DS5の性格上デザイン評価を優先してきたが、「大人4人がグランドツーリングを楽しめるクルマ」にとって走る楽しさも非常に重要なファクターであり、以下そのダイナミックスにも簡単に触れておきたい。まず走りの領域では、日本仕様は1.6Lの直噴ターボチャージャー付き直列4気筒エンジンオンリーで、それにアイシンAW製の6速ATが組み合わされている。DS5の車両重量は1,550kgと決して軽くはないが、今回の東名高速道と箱根の登降坂路での試乗を通じて十分に満足のゆく走りを示してくれた。1,400rpmから3,500rpmまで240Nmの最高トルクを発揮する直噴ターボエンジンと、6速ATの組み合わせがその走りの原点となっていることは間違いなく、今回は計測できなかったが、かなり良好な実用燃費も約束してくれそうだ。

ハンドリング、乗り心地
ステアリング・ハンドリング、乗り心地の領域も、東名高速での優れた高速直進性、走りの質感、長尾峠のアップダウン走行における重量を感じさせないスポーティーな走行フィーリングなど、「走ることが大変楽しいクルマ」に仕上がっていることを確認した。ただし大きめのギャップ乗り越えた時のショック(特に後席)は是非とも改善を期待したい。

DS5を一言でいえば
このように見てくるとDS5はシトロエンならではユニークなクルマであり、新しいジャンルへの挑戦でもあるが、ドイツ車に対するアンティテーゼとみることもできよう。これだけの内容を持ったクルマにしては400万円という価格は決して高いものではなく、日本市場におけるシトロエンの存在意義が大きく前進するものと確信する。そして最後にDS5が日本デザイン前進への大きな刺激となることを願って今回の「車評オンライン」を締めくくりたい。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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