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論評24   新世代ディーゼル SKYACTIV-D
2012.3.27

マツダが社運をかけて開発した次世代技術『SKYACTIV』は昨年から投入が開始されたが、第1弾のデミオスカイアクティブは既存のプラットフォームのため適応技術は限られていた。今年2月に導入されたCX-5には、エンジン、トランスミッション、ボディー、シャシーに亘る『SKYACTIV TECHNOLOGY』が投入されたので、今回はその中で最も注目に値する『SKYACTIV-D』という新世代ディーゼルエンジンの概要と、箱根におけるCX-5試乗会での第一印象を、次回は長距離走行も交えたCX-5の総合商品性評価結果をご報告したい。

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内燃機関の効率改善は必須の課題
国内では、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、EVなどへのはずみがつき、一見、資源、環境問題への対応はそれらによって解決されるかにみえる。もちろんこれらの技術が今後の日本の自動車産業の生き残りをかけた戦いの上での貴重な武器となることはいうまでもないが、上図のマツダ資料のように、20年後といえどもハイブリッドやプラグインハイブリッドも含めて、90%を超える大多数のクルマに内燃機関が何らかの形で搭載されることは間違いなく、そこに着目して一連の技術開発を行ったことはマツダの英断と言っても良いものだ。

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内燃機関の中で、ディーゼルエンジンといえば、「くさい」、「うるさい」、「かったるい」、「すすだらけ」などというイメージが多くの日本人の脳裏にこびりついているのではないだろうか? 上図のマツダ資料のように、1990年代後半のコモンレールシステムという画期的な燃料噴射装置の実用化が引き金となり、欧州を中心にかつてのイメージを払しょくしたディーゼルエンジンが導入され、欧州市場におけるディーゼル比率が過去10年間急速に拡大、現在では乗用車の2台に一台はディーゼルエンジン車だ。 一方で、世界における規制は厳しさを増し、その規制をクリアーするための噴射系や後処理システムが複雑かつ高価となるとともに、燃費も犠牲となってきているのも事実だ。

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マツダは2007年に「走る歓び」と「環境安全性能」の両立を目指した『サステイナブルZoom-Zoom宣言』を行い、2015年までに世界で販売するマツダ車の平均燃費を30%向上する計画を発表した。その柱となる『ビルディングブロック戦略』(上図)とは、まず内燃機関の効率改善や軽量化などを徹底追求したう上で、i-stop、減速エネルギーの回生、モーター駆動技術の追加(HEV、P-HEV、EV)を段階的に加えてゆくというもので、これを総称してマツダは『SKYACTIV TECHNOLOGY』と呼んでいる。

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CX-5に搭載のSKYACTIV-D
CX-5には前述のように、エンジン、トランスミッション、ボディー、シャシーに及ぶ『SKYACTIV TECHNOLOGY』が搭載されているが、その中でも世界的に大きな注目をあびつつあるのが『SKYACTIV-D』だ。一言でいえば、「14.0 という世界一低い圧縮比の実現により、高価な後処理装置なしで、世界各地の厳しい排気ガス規制をクリアーするだけでなく燃費も大幅に改善、加えて低速から高速までの胸のすく走りが実現した新世代のディーゼルエンジン」ということになろう。

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これまでディーゼルエンジンの圧縮比といえば16~18が一般的だったが、このような高圧縮比ではNOxガスや煤に対する厳しい排出規制対応上、最も効率の良いタイミングで燃焼させることが困難な上に、高価な後処理システムが必要となってきた。低圧縮比にすれば上死点付近で燃料を噴射しても局所的な高温や酸素不足が回避できて、NOxガスや煤の発生量が少なくなり、効率も向上することは分かっていたが、それが実現出来なかったのは、圧縮時の空気温度低減により低温時の始動性に問題が生じることと、暖機運転中の圧縮温度、圧力不足により半失火が発生することだった。これらの問題を克服したのが、1)マルチホールインジェクター、2)エッグシェイプピストン、3)排気可変バルブリフト機能で、それに加えて2ステージターボによるトルク向上、排気ガスのクリーン化、更には燃費改善も実現している。

新開発のマルチホールインジェクターは、10個の噴射口から2000気圧で一回の燃焼の間に最大9回まで噴射が可能なもので、その精密な噴射制御とセラミックグロープラグにより低温始動性が確保された。またインジェクターから噴射された燃料を勢いよく燃焼室内に広げるのに貢献しているのが中央部の盛り上がったエッグシェイプピストンだ。暖気中の半失火の制御に貢献しているのが排気側バルブの開く量とタイミングをコントロールできる「排気可変バルブ機構」で、これにより吸入行程中に排気ポート内の高温の残留ガスの一部をシリンダー内に逆流させ空気温度を高めることができ、着火の安定性が向上したという。

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低圧縮比化は軽量化と機械抵抗の低減にも貢献した。最大筒内燃焼圧力が下がったためシリンダーブロックのアルミ化も可能となり、それだけで25kgの軽量化を達成、加えてヘッドの薄肉化、ピストン、クランクシャフトなどの軽量化も実現、従来の2.2Lディーゼルエンジンに比べて42kgもの軽量化に成功、機械抵抗も大幅に低減したという。そして大小2個のターボチャージャーを運転領域によって使い分ける2ステージターボチャージャー、アイドルストップ機構を採用、低圧縮との相乗効果により排気ガスのクリーン化、力強い走り、燃費改善が実現した。このような技術が投入された2.2Lの『SKYACTIV-D』は、出力こそ175psとおどろく数値ではないが、42.8kgmという4L V8ガソリンエンジンにも匹敵する最高トルクが、2000rpmという非常に使用頻度の高い回転域で実現、燃費もJC08モードにおいて18.6km/Lという大変優れた数値が得られている。加えて、レッドゾーンが5,200rpmからというのもこれまでのディーゼルと一線を画する点だ。

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箱根試乗会での第一印象
以下は箱根で行われたCX-5の試乗会における第一印象だが、はじめにひとことお断りしておきたいのは、ガソリンエンジン車『SKYACTIV-G』も、下手なスポーツカーは顔負けするほど運転することが楽しく、価格も含めて大変魅力的なクルマに仕上がっている点だ。しかし『SKYACTIV-D』は、それを上回る魅力にあふれていた。走り始めた瞬間から驚かされるのが低速トルクの豊かさで、低回転で高トルクが得られることのメリットを痛いほど思い知らされる。通常走行中の加速感は普通のクルマを寄せ付けないレベルといっても良い。次に驚いたのが従来のディーゼルとは大幅に異なる吹けあがり感だ。その気で踏みこめば5500rpm近くまで軽快に吹けあがって行く。エンジン騒音の低さも特筆に値する。低回転時こそ、ディーゼル特有のエンジン音が聞こえるが、それ以外ではディーゼルエンジン車に乗っていることをほとんど感じさせない。またアイドリングストップ後のエンジン始動時間の短さと振動のなさも、ガソリンエンジン以上といっても良いレベルに仕上がっていた。そしてすでにアクセラで体験済みの、スリップ感がほとんどなくスムーズに変速をこなし、ダウンヒル時には自動でシフトダウンもしてくれるAT、『SKYACTIV-DRIVE』もいい。

CX-5の魅力はパワープラントだけではない。『SKYACTIV-CHASSIS』、『SKYACTIV-BODY』によるトータルのビークルダイナミックスも素晴らしく、優れた乗り心地、ロードノイズの低さなども含めて、ハンドルを握ることが実に楽しいクルマに仕上がっている。またドライビングポジション、シートアレンジを含むパッケージングの良さなども魅力だが、これら一連のポイントに関しては近日中に長距離評価も含めた総合商品性評価を行う予定なので、次回の「車評オンライン」で改めてその結果を報告させていただきたい。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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