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論評21 日本車の生き残りをかけて
2011.11.15

9月24日号の週刊東洋経済が「日本車が消える 国内生産崖っぷち」というタイトルで円高に起因した日本の空洞化を特集、開発、生産の急速な海外移転を予測している。一方でアメリカのコンシューマーレポート10月号が小型経済車を評価した結果を公表、ヒュンダイのエラントラがセダン13台中のトップに輝くとともに、新型シビックがびりから2番目となり長年獲得してきた「リコメンデーション」(お勧め)からも滑り落ちてしまった。今回は「生き残りをかけた日本のクルマづくり」をテーマに車評メンバーでいろいろと話し合ったのでその結果をご紹介したい。


9月24日号の週刊東洋経済が「日本車が消える 国内生産崖っぷち」というタイトルで日本の自動車産業の空洞化を特集、完成車メーカーはもちろん、部品メーカーも含めて、開発、生産の急速な海外移転は避けられないものと予測している。以下、記事のメインタイトルを拾い上げてみよう。

  • 挽回生産の先に待つ「減産」 ニッポン空洞化前夜
  • 日本車「消滅」から日本クライシスへ 最悪事態は回避できるか
  • このままでは5~6年後に国内生産は、がさっと減る(志賀俊之日本自動車工業会会長)
  • 問題は一つ、円高なんだ 流出はもう始まっている(鈴木修スズキ会長兼社長)
  • 現代自を甘く見すぎた アコードで巻き返す(伊東孝紳ホンダ社長)
  • 空洞化は不可避なのか
  • 世界シェアー低落の土俵際
  • サプライヤー「日本脱出」
  • それでも日本車が生き残る4つの秘策 (電気自動車、スマートホーム、ロボット、次世代モビリティー)

一方でアメリカのコンシューマーレポート10月号が小型経済車を評価した結果、セダン13台中ヒュンダイのエラントラがトップに輝くとともに、シビックハイブリッドが10位、シビックが12位で終わり、小型ハッチバック5台中トップがVWゴルフ、ホンダインサイトが5位、小型スポーティーカー4台中1位がミニクーパーで、ホンダCR-Zが4位となり、いずれのホンダ車も、「リコメンデーション」(お勧め)という従来は日本車の専売特許と言えたお墨付きが得られなかった。コンシューマーレポートは、宣伝は一切載せずに数百万部の発行部数を誇り、評価する車両も全て各車の販売店からコンシューマーレポートを名乗らずに購入し、自らのテストコースも所有、最も中立的、かつ顧客の立場に立った評価を行うことで多くのアメリカ人に信頼されているメディアだ。

シビックハイブリッドに対する評価をざっとみてみると、燃費は評価されているものの以下の点で低い評価を得ている。

  • コストダウンが見え見えのインテリアー
  • 制動距離の長さ
  • 大半のホンダ車同様の耳障りなロードノイズ
  • 不確かなハンドリング
  • ばたつく乗り心地
  • ダッシュボードが長すぎが故の前方の見切りの悪さ
  • 後席へのチャイルドシートのつけにくさ

上記ふたつのメディアの最新事例を出したのは、政府や日銀による早急かつ思い切った円高対策が切に望まれるものの、欧米の経済情勢にも起因し一朝一夕に円高が解決するとは思えず、開発、生産の急速な海外移転は避けられそうもないが、日本車が生き残るためにはそれだけでは決して十分ではなく、企画・開発・デザインを含めたクルマづくりの革新が必須だと思うからだ。電気自動車、スマートホーム、ロボット、次世代モビリティーで生き残れるとは決して思わない。

今回「生き残りをかけた日本のクルマづくり」をテーマに、車評メンバーにゲストとして中島繁治氏も加えて話し合ったが、冒頭話題に上ったのがモーターサイクルの世界だった。ピーク時には700万台を超えた国内生産は今ではその1割にも満たず、ホンダの場合二輪車の国内生産は世界生産のわずか今や1%程度しかないという。一方で中国の二輪車の生産台数は毎年2500万台以上だし、重量級バイクの魅力度では欧米に大きく水をあけられている。かつて我が世の春をおうがした日本の二輪車の現状はクルマの動向を先取りしているといえるのではないだろうか?「日本車の生き残りのために何が必要か」という我々の話し合いの結果を順不同だが以下列記してみたい。

(1)ブランドの確立
日本メーカーの世界市場におけるブランドイメージは、レクサスが米国市場でそれなりのプレミアムブランドとして認知されているのを除くと、いずれのメーカーも従来からの「安くて壊れないで品質のよいクルマを提供するメーカー」というイメージから大きく脱出したとは言えないのが現状だ。総じてドイツメーカーに比べて日本メーカーのブランドに対する自信や執着が限られてきたことは否定できず、今後の生き残りのためにはブランドの確立にむけた早急なアクションが必須だが、その余地と可能性はまだ残されていると確信する。

(2)デザインの革新
自動車ほど商品魅力の中でデザインのしめる割合が大きい工業製品はないと言ってもいいが、現在の日本車の中で世界をリードしたデザインと万人が認めるクルマは果たしてあるだろうか?それに対して欧州車のデザインには一目に値するものが多いし、最近の韓国車のデザイン進化はまさに驚異だ。デザインの革新には優れたリーダー、優れたデザイナーが必須だが、近年日本の若者の中で是が非でも自動車のデザイナーを目指したいという人が実に少ないという。日本メーカーにおけるデザイナーの処遇や地位が欧米や韓国のメーカーとは比較にならないことも一因かもしれない。デザインのへの思い切った注力と革新は「待ったなし」であり、それが出来なければ「ブランドの確立」も思うに任せず、日本車はずるずると世界市場から落ちこぼれることは疑う余地がない。

(3)商品コンセプトの明確化
「誰のために何を提供するか」を明確に想定したクルマづくり、言いかえれば明確な商品コンセプトが肝要なことは言うまでもないが、近年の日本車には、ややもするとつくり手の思いが明確に見えてこない商品が多いことが問題だ。開発者の役割が従来よりも細分化、専門化されていることとも無関係ではないだろう。これに比べて欧州のクルマの方がはるかにつくり手の意思が明確に感じ取れるモデルが多いし、最近の韓国車にも明確な意図を感じ取れるものが多い。商品コンセプトの明確化は避けて通れない課題だ。

(4)五感性能の向上
「右脳にアピールするクルマづくり」を繰り返し述べてきたが、中島氏から全面的な賛同をいただくとともに、今回同氏から「五感性能の向上」という適切なキーワードをいただいた。「お客様にどのようなクルマに乗る歓びを提供するか」、「その目標をいかに達成するか」、「そのためにいかに図面に置きかえるか」はクルマづくりの基本だが、上述のホンダの評価の多くはまさにこれらに起因したものだと思う。マツダのスカイアクティブが燃費の追求に加えて「走る歓び」を目標に掲げていることは大いに評価するが、総じて昨今の日本車の「五感性能」は欧州車の後塵を拝していることは火を見るよりも明らかであり、早急な見直しが必要だ。この点に関する中島さんの主張にも是非耳を傾けてほしい。

(5)技術開発への更なる注力
近年の日本の技術の中で、ハイブリッド、EVに関するものは少なくとも現時点では世界をリードしているとみていいと思うが、それ以外にはあまり注目すべき技術がなかったと言っても過言ではない。一方では欧州メーカー、中でもVWグループの研究開発への投資には目を見張るものがあり、その結果としての小排気量直噴過給エンジンやデュアルクラッチ自動変速機、更には「五感性能」の豊かなクルマづくりなどには頭が下がる。この点からもマツダのスカイアクティブ技術への挑戦は評価に値するが、日本車の生き残りのためには技術開発に対する投資の大幅な拡大が必須だと思う。

(6)ガラパゴス化からの脱却
年間500万台に及ばぬ現在の日本市場での販売台数のうち1/3強は軽自動車であり、軽自動車のシェアーが50%を超える県も少なくない。トヨタが軽自動車の販売に踏み切ったのは、販売店からの突き上げによるものではないだろうか。しかし軽自動車はまさに「ガラパゴス」の世界であり、現状のままでは世界に通用するコンセプトにはなりえない。そこで軽自動車の各種恩典は是非とも継続しつつ、規格を見直して世界に通用する「ベイシックカー」とすることが私の主張だ。世界市場向けの生産拠点の海外移転は避けられないにしても、これによりこれまでのノウハウの蓄積を生かした「日本ならでは」のクルマづくりができるはずだ。

(7)オーケストラの指揮者を含む人材の育成
クルマづくりの上で大切なことの一つがオーケストラの指揮者、あるいは酒蔵の杜氏に相当する商品開発リーダーを含む人材の育成だ。積極的な人材育成策システム、あるいは育成を前提にした社内ローテーションシステムを有する企業は果たしてどの程度あるだろうか。クルマ好きの若者を如何に育てるかは日本社会全体の課題だが、一朝一夕に進まないことは火を見るよりも明らかであり、まずは各企業の中でクルマ好きを育成することが必須であるとともに、指揮者、杜氏の育成に注力することが非常に大切だ。本件に関しても中島さんの原稿を是非ご参照いただければ幸いである。

(8)コンプライアンス偏重からの脱却
現在の日本社会はコンプライアンスの金縛りにあっているようなものだ。我々の時代には考えられないことだが、企業によっては個人のPCのオン、オフで出退勤を管理していると聞く。かつては必要あれば、夜も昼も、休日も返上して目標の達成に立ち向かってきたが、近年の「労働規制」は諸外国より厳しいようで、これでは思い切った挑戦は不可能といってもいい。コンプライアンスの縛りは「労働規制」だけではない。ニュルブルクリンクのサーキットでは今でも免許所有者なら、わずかな入場料で「自分のリスクで」限界走行ができるし、試作車の一般公道テストが日本ほど抑えられている国はないはずだ。一連のコンプライアンス偏重からの脱却は一筋縄ではいかないのは自明だが、是非とも挑戦すべき課題だ。

以上が我々の今回の話し合いの結果だが、努力次第では日本車の生き残りの可能性はまだ残されていると思うので、今後いろいろな機会をとらえて更に問題を掘り起こしてゆくとともに、皆様との意見交換会などの機会がもてることが出来れば幸いである。

尚三樹書房ホームページの新しいシステムへの変更が予定されているため、11月はお休みとさせていただき、次回の車評は12月15日の予定です。


●中島繁治氏の論評 プロフィールはこちら

頑張ろう日本車、もっと楽しく、もっと心地よく、五感に訴えるクルマ創りを!!

 昨今の環境省エネ技術の進化には目をみはる、ハイブリッドやEVだけでなく、従来技術を根底から見直すことでリッターあたり30kmを達成している車など、日本の自動車技術の高さと多様性を示す一端であり、さらに躍進を続けることもまちがいないだろう、素晴らしいことである。
 一方、先日VWポロTSIに試乗する機会があった、小型ターボと7速DSGの絶妙なマッチングもさることながら、内装の質感の高さや車全体から感じるシッカリとした剛性感の高さ、さらに正確で信頼感の高いハンドリング性能など、いわゆる運転の気持ちよさや楽しさといった五感に訴える性能の調和がじつに見事に出来ている事に感動した。残念ながら多くの日本車がおよばないところである。日本の車作りの要素技術は世界トップレベルと信じるが、このような五感の総合調和といったソフト面を含む技術は、多くの日本車の現状をみるかぎり、必ずしも満足とは思えない、日本車の重要な課題の一つであろう。
 オーケストラに優れた奏者と優れた指揮者がいて感動が生まれるように、クルマ創りにも、優れた要素技術を生かした感動のクルマ創りを進めるうえで、シッカリとした哲学とぶれない目標や情熱を持った強力な指揮者が重要であることは言うまでもないだろう。
 円高など各種要因で価格競争力が極めて厳しい環境下でメーカーにとって当面はコストが最重点課題である事は当然だろうが、更なる日本車の進化のために、このような強力なリーダーが望まれると共に、楽しさや悦びといった内容をきちんと評価分析し物に繋げる技術など、いわゆるクルマ全体を創りあげて行く上でのソフトを含めた総合的な技術の充実が、日本車をより魅力的に進化させてゆく上で重要なことではないだろうか。
 そして、若者の車離れが云われている昨今、多くの若者にクルマ本来の楽しさや悦びを知って頂ける様なクルマ創りや、世界に誇れる日本車ゆえのアイデンティティーの確立を願うものである。

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執筆者プロフィール

1941年(昭和16年)東京生まれ。東洋工業(現マツダ)入社後、8年間ロータリーエンジンの開発に携わる。1970年代は米国に駐在し、輸出を開始したロータリー車の技術課題の解決にあたる。帰国後は海外広報、RX-7担当主査として2代目RX-7の育成と3代目の開発を担当する傍らモータースポーツ業務を兼務し、1991年のルマン優勝を達成。その後、広報、デザイン部門統括を経て、北米マツダ デザイン・商品開発担当副社長を務める。退職後はモータージャーナリストに。共著に『マツダRX-7』『車評50』『車評 軽自動車編』、編者として『マツダ/ユーノスロードスター』、『ポルシェ911 空冷ナローボディーの時代 1963-1973』(いずれも三樹書房)では翻訳と監修を担当。そのほか寄稿多数。また2008年より三樹書房ホームページ上で「車評オンライン」を執筆。

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